おっさんが転生したら、寝取られた元嫁と寝取った間男の息子だった件

ウロノロムロ

ほな、みなさん、また会う日まで!(来世

何もない真っ白な空間に、
ただひとつだけある扉。




  ここどこなんやろ?


  うちは死んだような気がするんやけど
  気のせいやったんかな……


  それともここは死んだ後の世界とかなん?
  まぁ、そんなんあるわけないか




おかあやんは扉の前に立ち、
ドアノブに手をかけ開けてみる。


「あら、いらっしゃい〜(はあと」


扉を開けたおかあやんの目の前には
巨漢で白髪白髭、女装をしたジジイがいて、
満面の笑みで出迎えている。


バタンッ!


すぐに扉を閉めるおかあやん。




  う〜ん……
  今のは一体なんやったんやろ?


  とりあえず、うちと関係ないのは間違いないわ
  うちあんな人知り合いにおらんし




おかあやんは改めて周囲を見渡してみるが、
扉の他には何も存在していない。




  ははぁん、わかったわ


  この扉は罠やな、トラップちゅうやつやろな
  ここにある他の出入り口を探さんといけんやつやな


  迷宮からの脱出とか
  そんなんをたっくんと一緒に
  テレビで見たことあるわ 




ここには迷路も宮殿もないのだが。
おかあやん迷宮の意味を間違っている。


必死に隠された扉探しをはじめるおかあやん。
だがそんなものはない。


「ちょっと!
あんた何やってんのよ!
早く入んなさいよ!」


扉が勢いよく開くと
室内から女装爺ジジイが出て来て、
おかあやんの腕を鷲掴みにして
強引に引っ張り入れるようとする。


「ちょっと、あんた何するん!
うち、あんたみたいな知り合いおらんわ!」


「うちをどうする気や!
セクハラや、セクハラ!
んでも、この人女やったらセクハラにはならんの?」


抵抗する際に、転生エージェント・ゼウスの
長い白髭と白髪を引っ張たりやりたい放題。


黙って連れて行かれない分、
おっさんより強いかもしれないおかあやん。


-


「てんせい?
知っとるで、天の星って書いて天星てんせいやろ?」


あぁ、おかあやん、
なぜおとうやんの言葉を信じたまま、
生涯をまっとうしてしまったのか。


「ここは天の星ってことなん?」


死んだ人のことをよく
お空のお星様になったなどと言うから
あながち間違いでもないのか、もしかして天才か。




「しかし、あんた随分けったいなカッコウしてるんやね」


「私はね、老若男女すべてを超越した存在の象徴なのよ」


どこかで聞いたことがあるような言葉だが、
ゼウスはその説明がちょっと気に入っているらしい。


「そんな真っ赤なボディコン、今時見たことないわ
そういうの流行ってないんちゃう?
もっとこう今風のシュッとしたやつがええのんちゃう?」


「そこなの?」




もともと天然入っていたおかあやんだが、
死んで解放されたのか、
言いたい放題、自由奔放、めっちゃフリーダム。
部屋に入ってゼウスの説明を受けるも
横槍入れるは、脱線しまくるはで一向に話が進まない。


そもそも転生をしらないのだから
そこからして説明するのも大変だ。
そんな奴最初から選ぶなという話なのだが。




さすがのゼウスもだじたじになっていたが、
話はようやく核心に差し掛かる。




「異世界転生?」


「嫌っ!」


「うち、そんなよう知らんようなとこ行きたくないわ」


「まったく興味ないしな」




話す内容と相手は選ばないといけないという
好例のようなパターンである。
そもそも誰がこいつを
異世界に転生させようと言い出したのか。




「転生したいとこ?
そんなん、決まってるやん!」




おかあやんは嬉しそうな顔で、
口角を上げて笑ってみせる。


-


おかあやんを亡くして
すっかり意気消沈していたたっくんだったが、
しばらくして奥さんが妊娠していることを知り
生きる活力を取り戻す。


「ついにワイもおとうやんになるんやな……
おかあやんのことで
いつまでもがっかりしておられへんな。
頑張って子供養わんと、また稼がんとな。」




十か月後、たっくん夫婦には
玉のように可愛らしい女の子が生まれる。


「死んだおかあやんにも
孫の顔見せてあげたかったわ」


たっくんの声に反応するかのように、
赤ちゃんはケラケラと笑い声を上げる。


「この子、本当に死んだお母さんにそっくりね……
きっと将来はすごい美人になるんじゃないかしら」


赤ちゃんは口角を上げてさらに笑う……


-


「人間て本当に不思議なものよね……
転生してもっといい暮らしをすればいいのに、
みんな元の世界の大事な人に
もう一度会いたいって言うのよね……」


転生エージェントのゼウスは
手にするグラスを傾けながらしみじみ語る。


「でも人間のそういうとこ嫌いじゃないわ……」




「なにカッコつけて
黄昏たそがれってるんじゃ、
クソボケオカマジジイ
はよ、ワイを転生させんかい!」


「ちょっと、あんた常連だからって
エラそうにしないでよね!」


「誰が常連やねん!
ワイかて好き好んで常連なっとるわけ違うわ!」


「それとあんた、あたしのこと
クソボケオカマジジイて言うのやめなさいよね!
毎回ちゃんと聞こえてるんだからね!
もうその度にビクッてするじゃない」


「そんなんどうでもいいから、
はよワイを可愛い可愛い娘ちゃんのとこへ転生させてくれや!
ワイは娘ちゃんが心配で心配で仕方がないんじゃ」


「あんたの娘って、もう四十近くじゃない?
そんないい年になってるんだから、
今さらあんたが心配しなくても大丈夫よ」


「ようそんなこと言えるな!
お前は鬼か悪魔か?人でなしか!?」


「あらやだ、こう見えても
どっちかって言ったら神様側なのよ、あたし
まぁ人ではないわね、確かに」


いつもの調子で、
ゼウスと口喧嘩しているいつもの人。




「頼むから、はよ
娘ちゃんの息子でも娘でも孫でもいいから転生させてくれや!
なんだったらペットの犬とか猫でもええんやで!」


「ワイはただただ一緒にいたいだけなんやっ!」




輪廻転生。
人間が生まれ変わる時、
家族や親しかった「えにし」ある者は、
来世でもまた近しい人間に生まれ変わると言う。


おっさんの輪廻転生もまた、
まだまだ続くのかもしれない……。













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