おっさんが転生したら、寝取られた元嫁と寝取った間男の息子だった件

ウロノロムロ

おとうやんがどこの馬の骨なのか探るんやで!(前編)

ようやく手足など体の各部を
動かせるようになって来たおっさん赤ちゃん。


しかしながら、
前世と同じ感覚で体を動かそうとしても、
筋力がまだほとんど皆無な赤ちゃんの体では
思うように動かすことが出来ず苦労することになる。


歯も生えはじめて来ており、
おかあやんの授乳だけではなく、
次第に離乳食なども
食べるようになって来てはいたのだが。




  あかん
  離乳食とか
  有り得へんわ
  味が全然せえへんやんけ
  これでもワイ、味にはうるさいほうなんやで?


  こんな薄味のもん食べるぐらいなら
  お嫁ちゃんのおっぱい飲んでるほうが
  よっぽどええんじゃ! 
  いろんな意味で


  それでもお嫁ちゃんが
  せっかく作ってくれたんやから
  もちろん残さず食べるけどもや




体が小さい赤ちゃんが、
大人と同じ濃さの食事を取れば、
体内の塩分濃度がとんでもないことになるのが、
そんなことはお構いなしで
文句を垂れている赤ちゃんの中のおっさん。




おとうやんと電話しているおかあやんの声が
おっさんの耳に届く。


「あら、そうなん? 
今日は仕事で帰り遅いんやね……
もう晩御飯の用意してしもうたんやけど……」


確かにおっさんの目の前、食卓の上には
美味しそうなステーキ肉が並べられている。




  随分と美味そうなステーキやんけ!


  これや、これやがな
  ワイはこういうんが食べたかったんや!


  ワイが離乳食なんぞ食っとんのに
  ひとりだけステーキなんぞ食おうとしとったんか
  けしからんやっちゃな! あのボケナス


  よっしゃ!
  ワイが美味しくいただいたろっ!




自分の体が赤ちゃんであることを忘れ
テーブルに身を乗り出して、
勢い良く目の前にあるステーキに
かぶりつくおっさん赤ちゃん。


既に切ってあった肉の一切れを
勢いよく口の中に頬張る。


しかし歯が生えはじめているとは言え、
顎の力も弱くステーキの肉を噛み切れる程ではなく、
口に咥えたまま悪戦苦闘。


諦めて吐き出そうとするが、
舌の力なども弱いため、
吐き出すことすらままならない。


ステーキを口に咥えたまま、
噛み切ることも出来ず、吐き出すことも出来ず、
顔を真っ赤にして、手をバタバタさせもがく。




  あかん! 
  これホンマにアカンやつや!
  息が出来へんがな!
  このままやとワイ窒息してまうやんけ!




バタバタ暴れている
小さい赤ちゃんの姿だけ見れば
とっても可愛らしいのだが、
そんなことを言っている場合ではない。


「ちょっと! あんたっ! 何しとん!」


赤ちゃんの様子に気づいたおかあやんが
すっ飛んできて、慌てて赤ちゃんの口の中に
指を突っ込んで吐き出させる。




  ビックリしたわぁ……
  ホンマに死ぬかと思ったわ
  助かったわ、お嫁ちゃんありがとうやで




「もう! あんたは! いたずらばっかりして!」


さすがに命に関わることだけあって、
おかあやんも厳しく赤ちゃんを叱りつけた。




  ち、違うんや! 違うんやで!
  ワイは久しぶりにちょっとだけ
  肉が食いたかっただけなんや




「この時期はなんでも口に入れてしまうから、
ホンマに注意しとかんとあかんね~
ちょっとでも目を離されへんわ」




  違う! 違うんやで!
  ワイ、そんな何でも口に入れるような
  アホとはちゃうで!
  そんなアホな子みたいに
  ワイのこと思わんといてーや!




必死におかあやんに訴えかけるおっさんだが、
赤ちゃんとしてやっていることは
アホな子と大差がないことになっている。


-


さらに少しずつ体を動かすための筋力がついて来て、
四つん這いでハイハイも出来るようになる赤ちゃん。




  ようやく、
  動いて移動出来るようになったわけやけど……


  今までこんな低い位置で
  床に注目したことなかったけど
  床ってすぐに埃たまるもんなんやなぁ
  お嫁ちゃんもいっつも掃除しとるんやけどなぁ


  こんなとこ這いつくばる気になんてようならんわ
  こんなとこ這い回ったところで
  人間雑巾か人間モップになるだけやんけ




赤ちゃんの中のおっさんは、
赤ちゃんとしてのやる気がないようである。


しかしながら、我が子がハイハイ出来るようになって
嬉しくて仕方ないおかあやんは、
ハイハイさせてみたくて仕方がない。


「ほら、たっくん、おかあちゃんはこっちやで~」




  お嫁ちゃんが呼んどるやんけ!




小さな可愛らしい体を四つん這いにして、
ドタドタ、バタバタさせながら、
おかあやんの元まで駆け寄って来る赤ちゃん。


「まぁ! あんた随分と速いんやなぁ~」


おかあやんは満面の笑みで、
自分のもとまで辿り着いた赤ちゃんを
その胸に抱き締める。




  めっちゃ、喜んでるやんけ!
  ワイがハイハイするのが、そないに嬉しいんけ?


  そんなにお嫁ちゃんに喜んでもらえるなら


  ワイやるで!
  ハイハイぐらい、いくらでもやるで!




その後も呼ばれる度に、
満面の笑みでハイハイしながら
一目散におかあやんのもとに駆けつける赤ちゃん。


そのうちおかあやんが呼ばなくても、
おかあやんの後をついて歩くようになる。




そんな赤ちゃんをヒョイっと抱き上げるおとうやん。




  なにすんじゃ、ボケェ!
  ワイとおかあやんのラブラブなひと時を
  邪魔するっちゅうんか!




「たっくん、俺にもハイハイ見せてくれ」


そう言って少し離れたところに置いて
赤ちゃんを呼ぶおとうやん。


「たっくん、ほら、こっちおいで~」




  誰がお前のとこなんぞに行くか、ボケェ!




明らかに警戒して、その場でおとうやんの方を見つめる。




  ハッ! もしかしてあれか?
  ワイからお嫁ちゃんを奪っただけでは飽き足らず
  ワイを四つん這いに這いつくばらせて、
  楽しもうっちゅうんか?


  クッソ! なんちゅう外道なやっちゃっ!
  鬼畜かっ!? 畜生かっ!?


  やっぱり世紀末覇王的な
  モヒカンヒャッハーの奴なんか!?




おとうやんが絡むと
どうにもロクでもない妄想しかしない
赤ちゃんの中のおっさん。


-


だが、改めて冷静に考えてみると、動けるようになり、
自由に行動出来るようになったことのメリットは大きい。




  まぁ、でもあれやな
  自分で動けるようになったんやから


  この家の中探さぐれば
  こいつが一体何者なのか
  どこの馬の骨なんか
  なにか手掛かりが見つかるかもしれんな……


  よっしゃ!
  さぐったろっ!




それからと言うもの赤ちゃんの肉体を持ったおっさん、
ハイハイで家の中を這い回って探索しはじめる。


しかしながら、完全におかあやんに
マーク、警戒されてしまっているため、
探索も思うようにははかどらない。




「危ないって言ってるでしょ! 」


「階段、落ちそうやないの!」


「ドアに指挟んだらどうするの!」


「玄関でハイハイしたらバッチいでしょ!」




家の中でおとうやんの手掛かりを探そうとしても、
いたずらしていると勘違いされ、
すぐにおかあやんに怒られてしまう。


それでもめげずに家の中を這いずりまわったが、
一向に何の手掛かりも見つけられずにいた。




  しかし、何も手掛かりらしいもん見つからんなぁ




まだ確認出来ていない
残す最後の部屋の前に佇むおっさん赤ちゃん。




  後、残すはここだけやな


  いつもドアがちゃんと閉まってて、
  未だに中をちゃんと見られてないからなぁ


  ここに絶対何かあるやろ




閉まった部屋の扉をどんどん叩いて、
なんとか押して開けようするおっさん赤ちゃん。


だがその音を聞きつけて、
おかあやんがすぐに飛んで駆けつける。


「また! あんたは!
そうやっていっつもいっつも
いたずらばっかりして!」


「うちが目を離すとすぐに
いたずらしよるじゃないの!」




  違う! 違うんや!
  お嫁ちゃん!
  ワイをそんなアホの子と一緒にせんといてーや!




小さくて可愛らしい赤ちゃんという外見とは裏腹に、
中身は知性溢れる大人であるはずなのにも関わらず、
外から見る限りでは、やっていることは
その辺の赤ちゃんと全く変わらない扱いになっていた。


そしておっさん赤ちゃんの前に
立ちはだかる開かずの扉。
その部屋の中にはどんな秘密が隠されているのか……











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