おっさんが転生したら、寝取られた元嫁と寝取った間男の息子だった件

ウロノロムロ

ワイ、せつなさのあまり咽び泣く(号泣

すっかり寝不足のおかあやん、
目の下には盛大にクマが出来てしまっている。


もちろん原因は赤ちゃんの夜泣き、
毎晩泣く赤ちゃんをあやすために、
睡眠時間を著しく削られているという毎日。




おっさんはおっさんで
すっかり夜型の生活リズムが定着してしまっただけではなく、
いつ夜の夫婦の営みがはじまるかわからないというストレスからか、
情緒不安定な状態に陥り、
自分でメンタルをコントロール出来ない、
赤ちゃんの肉体を思うように扱えなくなっていた。


中の人のおっさんの意志とは関係なく、
夜になると泣き出すようになって、
自らの意志で泣き止むことも出来ない。


本来赤ちゃんがあるべき姿らしいと言えばそうなのだが、
そのお陰でシワ寄せがおかあやんの寝不足につながっているという訳だ。




こうなってしまうと、おかあやんももう夜の性活どころではない。
おとうやんがそれとなくスキンシップをはかって来ても睡魔が勝る。


「そんなどころじゃないわ、
ちょっと寝かせてえな……
あの子がせっかく大人しくしとるんやから」


目を閉じ右腕を目の上にのせて眠そうに、
目を開けることすらなくそう言うおかあやん。


触れようとしただけでお断りされてしまうおとうやんは
ショボンと自分の寝床へと返って行くしかない。




それでも最初のうちはまだおかあやんにも余裕が見られた。


「明日も仕事で朝早いし、
悪いけど先に休ませてもらうぞ……」


「あ、うん、大丈夫よ
泣き声がうるさくてごめんやで」


お互いを思いやる気持ちもまだあったのだが、
連日連夜に渡る赤ちゃんの夜泣きで
ロクに睡眠が取れない日々が続き、
おかあやんのイライラ、ストレスがMAXになるとさすがにこうはいかない。


極限の睡眠不足は人を殺伐とさせる。


「あんたはいいわよね、
仕事があるから言うて、一人で先に寝てしまうんやから」


おかあやんの口からは恨み言のひとつも発せらるようになる。


「俺が抱っこしたら余計に泣くし、仕方ないだろ」


すっかり平静さを失い常にギスギスしているおかあやん。


こうなると夫婦の間柄もちょっとずつギクシャクして来てしまう。
夫婦の会話にも妙にどこかトゲがあるし、
ちょっとした言い争いも多発しはじめる。


こうした初期の段階にきちんと関係修復しておかないと、
すれ違いが徐々に大きくなって離婚につながることも当然あるだろう。




  人間の三大欲求は
  『食欲』『性欲』『睡眠欲』言うけど、ホンマやなあ


  それにしても
  『食欲』と『睡眠欲』の二強感は半端ないわ
  『性欲』がとんでもなく格下に感じられるわなあ


  これあれやろ?
  『性欲』が一番最初に主人公に倒されて、
  『食欲』と『睡眠欲』が
  「だが貴様が倒した奴は我々の中で一番の格下だ」
  て言われるパターンの奴やろ


  そりゃそうやわなあ
  『性欲』が満たされなくても死ぬ奴はおらんけども
  『食欲』と『睡眠欲』は満たされないと
  命に関わるんやから


  童貞こじらせても、
  せいぜい魔法使いになるぐらいで、
  実際死んだりした奴はおらんやろうしな




そもそも本当に本物の魔法使いになった人はいないはずなのだが。
赤ちゃんの中のおっさん、
自分も情緒不安定であるにも関わらず、
そんなことを呑気に思ってみたりもする。




  もしかしたら、ワイこのまま勝てるんとちゃうか?
  これからずっとこの夫婦の邪魔を延々としとったら
  夫婦仲が悪くなっていって
  いずれは離婚したりするんちゃうか?
  もしそうなったら、ワイの完全勝利やんけ!
  いけるやん!




おっさん、夫婦の仲が微妙に気まずくなって行くのを感じ取る。
なぜ前世でそれに気づくことが出来なかったのか。
他の人のことはわかっても、
当事者となるとわからなくなってしまうものなのだろうか。


おかあやんの不機嫌そうな顔を見つめる
赤ちゃんの中のおっさん。




  ……


  でも、なぁ……


  ワイは、こんなツラそうな顔しとるお嫁ちゃんを
  見たいわけやないんや……


  こんなイライラ、ギスギスしてるお嫁ちゃん、
  ワイは見とうないんじゃ……


  お嫁ちゃんにはずっと笑って居て欲しいんや……


  ……


  ワイは一体どうしたらええんや……


-


『あのぉ、あのですね……
私ももう本当に出て来るのやめようと思ってたんですけど、
こんなんだと、出てざるえないと言うか、ええ……』


おっさんの愚行を見るに見かねて
ついに再びおっさんの前に卵ちゃんの思念が姿を現わす。


『なんなんですか!
男の嫉妬だなんて、みっともないったらありゃしない!じゃないですか


彼女の最愛の人になれたのだから、
色欲・肉欲については諦めましょう的なこと、以前私言いましたよね?


心の中の最愛の人は今のあなたで、
肉体的な淫らな快楽に溺れているだけなんですから、
それぐらいどってことなくないですか?』




  グホッ!
  ダメージでか過ぎて吐血しそうやわ
  ワイの傷口に塩 なすりつけるのやめてーや……
  言い方がえげつないわ……
  ワイこれでも弱ってるんやから




『もし本当に夫婦が離婚しちゃったらどうするんですか?
彼女は女手一つであなたを育てて行かなきゃいけなくなるんですよ?
あなたの世話をしながら、
お金だって自分で稼がないといけなくなるし、
離婚したところで大変で
彼女が苦労するのは目に見えてるじゃないですか!』


さすがは元卵子だけある卵ちゃん、
女性視点から容赦なくおっさんを責め立てる。




  ワイかて、わかってるんや、わかってるんやで……
  でも胸がキュンキュンして苦しくなるんや……
  悲しくてせつなくてどうしようもないんやで!




超現実的な卵ちゃんに対し、感情的でおセンチなおっさん。
実際、男よりも女のほうがはるかにシビアなリアリストなのかもしれない。




  ワイは一体どうしたらええんや……




おっさんの感情がかき乱される時、
その肉体である赤ちゃんの表現は決まっている。


「おぎゃぁぁぁぁぁ! おぎゃぁぁぁぁぁ!」


ちょっとの隙でも寝ようとしていたおかあやんは
結局また泣き声に叩き起こされることになる。


「あんたは、また泣いてるんかいな!」




極限の寝不足状態で
ただでさえ情緒不安定だったおかあやん、
抱っこしてあやしても中々泣き止もうとしない赤ちゃんに
精も根も尽き果て、ついに今まで踏みとどまっていた一線を越える。


「もうウチ一体どうしたらええん……」


涙声で言葉をつまらせているおかあやん。


「こっちが泣きたいぐらいやわ」


そう言うと、とうとう赤ちゃんと一緒に泣き出してしまう。


「あんたなんか…… あんたなんか……」


泣きながらつぶやくおかあやん。


「あんたなんか、もう知らんからねっ!!」


おかあやんは思い余って、感情を爆発させ、
心にもない一言をその口から発する。




  お嫁ちゃん、ごめんやで
  でも、ワイも、ワイも
  どうしたらええんかわからないんや


  泣かんといてえな…… お嫁ちゃん…… 




『あなたが泣いてたら、彼女だって泣くに決まってるじゃないですか……』


卵ちゃんはまるでおかあやんの気持ちをわかっているかのようだ。


『心配で心配で仕方なくて、寝不足にだってなりますよ……
あなたが泣いてたら、彼女が笑えるはずないじゃないですか…… 』




  ワイが泣いとったら、お嫁ちゃんは笑われへんのか?


  あかん、それはあかんがな……




おかあやんはしばらく泣いてから、
冷静にじっと泣いている赤ちゃんを見つめる。
一回泣いたことで冷静になったのかもしれない。
泣くこともストレス発散になるので、
一度泣き叫んでスッキリしたのだろう。


まだ泣いている赤ちゃんを
優しく強く抱きしめて、頬をすり寄せるおかあやん。


「それでも、それでもやっぱりあんたは
ウチの大切な大切な宝物や」




  おかあやん……




この時、赤ちゃんの中のおっさんははじめて
彼女を『お嫁ちゃん』ではなく『おかあやん』と呼んだ。
改めて今は彼女が自分の『おかあやん』だと感じたのだろう。




『あなたも泣いていないで、笑ってあげましょうよ…… 
彼女の気持ちに応えてあげましょうよ……』


卵ちゃんの声に頷くおっさん。




  そやな、ワイが泣いとったら
  お嫁ちゃんが笑われへんのやもんな……


  よっしゃっ! わかったわ!
  ワイも男や、男の根性見せたるわい!


  惚れ込んだ女のためや!
  顔で笑って心で泣いて、
  男の心意気ちゅうもんを見せたるわ!




おっさんの心の中は
まだどしゃぶりの大雨のような心境だったが、
それでも赤ちゃんは可愛らしい顔でけらけら笑った。


「たっくん……
泣いた子が、もう笑ってるのかいな」


その笑顔におかあやんの顔からも笑顔がこぼれた。


「あんたはホンマにおかしな子やなあ……」


おかあやんは優しく強く赤ちゃんを抱きしめ、
再びその顔に頬をすり寄せる。


「あんたは、ウチの大切な大切な宝物や」


-


それからおっさんは夫婦の夜の営みを
故意に邪魔することはしなくなった。


それでもことに気づいた時は、
胸がキュンキュン苦しくなって、せつなさのあまりに
おっさんはむせび泣く。


中のおっさんがむせび泣けば、
当然赤ちゃんの肉体も反応する。


「おぎゃぁぁぁぁぁ! おぎゃぁぁぁぁぁ!」


おっさん赤ちゃんが
完全に夜泣きをしなくなるには
まだ今しばらく時間がかかりそうではある。











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