おっさんが転生したら、寝取られた元嫁と寝取った間男の息子だった件

ウロノロムロ

めちゃ狭くてしんどいんやけど、この道通らんとあかんの?(苦痛

ようやく外に出ることを
決心したおっさん。


まだ人間としては
目が見えないながらも、
本能的に出口の方へと、
体をくねらせながら這って
前に進み続ける。


距離にして
わずか数十センチしかないような道程だが
これを何時間もかかって進み
外に出て行かなくてはならない。




 しかし、あれやなぁ~
 めちゃ狭くてしんどいんやけど、
 この道通らんとあかんの?


 もっとこう、なんかないんかいな
 自動ドアみたいにパッと開いて
 簡単にすぐに出られますみたいなのが




それをやろうとすると
帝王切開になってしまうのだが。




おかあやんのほうも
とっくに陣痛がはじまっており、
病院の産婦人科、
分娩室ですでにスタンバイ、
いつでも準備OKな状態にある。




「ひっひっふー」
「ひっひっふー」


おかあやんの呼吸をする音が
胎内にいるおっさんにも聞こえて来る。




 あー、あれやな
 おかあやんが時々練習しとったやつやな
 なるほどなぁ
 ここで使うんかいな




おかあやんの痛がり方は
尋常ではなくなって来ている。
体に力を入れて踏ん張ろうとするおかあやん。




 おかあやん!
 今そこに力入れたらあかんがな!
 ワイ、潰れる、潰れる
 潰れてまうがな!
 痛いがな!




一説によれば、
人間は生まれる時と死ぬ時が
一番苦しいのだそうだ。


ただ、生まれる時にどれぐらい苦しかったか、
胎児から赤ちゃんになる瞬間の記憶を
覚えている人はいないし、
死んでしまった人間に
どれだけ苦しかったかを聞くことも出来ないので
本当に『一番』苦しいのかは定かではない。


情報過多の現代などと言われてはいるが、
肝心なところではいつも
人類全体がかなりの情報弱者だと言っていい。


全人類が共通して経験していると言うのに
誰もそのことを語れる人間がいないと言うのも
まったくもって不可思議な話である。


-


「ひっひっふー」
「ひっひっふー」


おかあやんの声に合わせて
本当にちょっとずつ動いて
前に進むおっさん赤ちゃん。




 ここはおかあやんのタイミングに合わせて
 ワイも進んで行かなあかんな




「ひっひっふー」


 よし今や!


「ひっひっふー」


 今や!




 なんやろな、これ
 あれやな……
 だるまさんがころんだ
 みたいになっとるな




おかあやんは全身汗まみれ、
大きく息を荒げ、時折悲鳴を上げながら、
赤ちゃんの誕生に命を懸けている。


もうなりふりなどを
構っていられるような状況ではない。


本来であれば
のたうち回りたいぐらいなのだろうが、
分娩台の手すりを握りしめぐっと堪えている。


生まれてくるほうが苦しいのか、
むしろ生むほうが苦しいのか。




 そう言えば、
 前世で聞いたことがあるわ
 女の人の出産の痛みて
 男が体験したら、
 痛さに耐えられなくて
 死んでしまうぐらいらしいな


 そらそやな
 こんなでっかいのが
 体から出て来るとか有り得へんわ


 男で例えるとなんやろな
 これぐらいでっかいウ○コが
 尻の穴から出て来るみたいなもんやろか……


 尻の穴、裂けてまうやん!




 そもそも誰が
 こんなでっかいウ○コするって言うんや


 こんなでっかいウ○コする奴は
 頭おかしいんとちゃうかな


 何食ったらこんなんが出るっちゅうんじゃ
 何日便秘しとったんじゃって聞きとうなるわ




 よう考えたら、
 でっかいウ○コってなんやねん?
 なんでそんな話になっとんねん……


 でっかいウ○コって
 今のワイのことやんけ!




もちろんお尻の穴から出るわけはなく
おたまじゃくしとして入った所から
人間の赤ん坊になって出て来るわけだが。
そう言うとまるで母親のお腹の中は
ブラックボックスか進化ボックスのような、
不思議な何かのようにも思えて来る。




 そういや『鼻からスイカ』いう話も聞いたことあるな
 『鼻の穴からスイカを出すような痛み』いうことらしいけど……


 なんで鼻からスイカ出さなあかんねん!


 アホちゃうか?


 よくスイカっ腹とか言うけど
 ホンマにスイカ入っててどないすんねん


 そもそもどこから入れとんねん?
 種か?スイカの種なんか?


 スイカの種飲み込んだら
 体内で勝手に育ちよるんか?


 何で人間の体内で
 そんな大きなスイカ栽培せなあかんねん


 体内でスイカがそんな立派に育つことのほうに
 むしろビックリやわ


 そもそも人間の体内を畑にするなんて
 B級ホラーみたいなことやめーや
 そんなんコワいわ




 しかも鼻から出すって
 なんでわざわざそんなとこから
 ピンポイントで出さなあかんねん


 そりゃさすがに、いくらなんでも
 耳の穴からスイカ出すわけにはいかんやろと
 ワイも思うけどもや


 それこそ、せめて尻の穴からとかでええろうが
 それでもめちゃめちゃ痛そうやけどもや


 これは例えた関係者サイドさんに問題あるわ


 そんな例えされても
 鼻の穴からスイカなんか出したことないから
 わからへんわっ!




まぁ実際におっさんではなくても
成人男性が出産を想像しようとするならば
この程度が限界ではないだろうか。


男からすればそこそこ大きい赤ん坊が
人体から出て来るなんてことは
まさに女体の神秘以外の何物でもない。




先ほどから「裂けてまうやろ」と
おっさんが連呼しているが、
ぶっちゃけてしまうと
本当に少し裂けてしまう。


もちろんスプラッターのように
体が引き裂かれてしまうぐらいに
恐ろしい感じに裂けてしまうわけではないが、
それでも産後の処置に裂傷縫合というのが
入っているぐらいにはちょっと裂けてしまう。


出産で骨盤が歪んで
後遺症となる女性も少なくないようだし、
本当に女性は命と体を張って出産しているのだ。


-


「赤ちゃんも苦しいんよ!
赤ちゃんも頑張ってるんやから、
あんたも頑張らんとあかんよ」


助産師さんがおかあやんを励ます声が
産道にいるおっさん赤ちゃんにも聞こえる。




 ん?ワイ?


 そうでもないで


 ヘーキ、ヘーキ!


 ぶっちゃけ、ラクなほうなんやないかな
 もっと死ぬほど苦しいんかと思っとたけど
 そんなんでもないわ


 このままちょっとずつ
 のんびり、まったり
 出て行かしてもらおうかと思ってるんやけど


 あかんの?




最初こそしんどくて
苦しがっていたおっさんだが、
だるまさんがころんだ戦法で
動きやすい時だけ
ちょっとずつ前に進んで行くため、
当の本人は意外な程にのん気だった。




「赤ちゃんは今
外に出ようと必死なんよ!」


再び助産婦さんがおかあやんを励ます声。




 い、いや、そんな必死でもないんやけど……
 もっとワイ必死になったほうがええんやろか?
 なんかワイ、もしかしたらアカンの?




「赤ちゃんが死んじゃったらどうするの!
二人で一緒になって頑張らないと!」




 ……え?


 死んだりすることもあるんか?


 あかんやん!


 それ、ワイが一番頑張らなあかんやつやんけ!


 よく考えたら
 ワイの命かかっとるやないけ!




すっかりのんびりのん気に構えていたが、
自分の命がかかっていることを理解して
ようやく焦って本気を出すことにするおっさん。


目が見えないながらも、
外の光が隙間から入り込んで来るのが
なんとなく感じられる、
そんな所までは何とか辿り着く。


しかしまだこの先に
もう一波乱待ち構えていた。











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