おっさんが転生したら、寝取られた元嫁と寝取った間男の息子だった件

ウロノロムロ

こんな気持ちええとこ出れるわけないやろ、ボケ!(甘え

数億分の一という
奇跡的な倍率の壁を乗り越え、
なんとか生存競争に勝ち残ったおっさん。


卵ちゃんとの受精に成功したおっさんは、
外の世界に出られるような体に成長するまで
このまま胎内で過ごすことになる。


これからここで胎児となって行くのだが、
今はまだ胎児とも呼べない
胎芽たいがと言う存在に過ぎない。




 かなんわ~
 こんな何もないところで
 十月十日とつきとおか
 身動き出来ずに
 じっとしてるんかいな


 動けないんは仕方ないとして
 ネットとかテレビとかないと
 退屈でしゃあないわ
 せめてラジオでもええんやけどな


 お見舞いの時みたいに
 誰か本とか新聞ぐらい届けてくれんやろか




卵ちゃんと人格フュージョンして
何か変化があるかと思われたが、
おっさんは相変わらずのようだ。


あれだけ無数にいた同胞達の姿ももはやなく、
おそらくは生き絶えて消滅していったのだろう。




 いくら自然界のルールとはいえ
 しかばね乗り越え過ぎやろ!
 ホンマこの世界は、
 生きて行くちゅうんは残酷なもんやな




精子の状態ではなんとなく
見たり聞いたり、喋っていたが、
胎芽とは言え人間の肉体を得てからは
見えなくなり、音も聞こえなくなっていた。


人間になった以上は、
人間の摂理に基づいて成長するというのが
この転生のルールなのであろう。
そこはおっさんも仕方ないとは思っている。


-


最初、胎内暮らしはいいから
とっとと早く外界に出たいぐらいの
勢いだったおっさんだが、次第に
ここが物凄く心地良い場所であることに気づく。


胎のうに包まれ、
へその緒で母体と繋がって
羊水の中を漂っている。
その浮遊感も心地良い。


しかし何と言っても、
自分のおかあやんになる女性の、
その母体に完璧に守られ
包まれているという
絶対的な安心感、安堵感、
ぬくもりと穏やかさ。


ストレスもなければ、嫌なことも
煩わしいこと、ツライこともまったくない、
ノンストレスの理想的な夢の世界。


なまじ前世の記憶があり
外界の辛さを知っているからか、
余計にここが天国のように思えて来る。




 あかんわ~、こんなんもう
 絶対外になんか出とうないわ


 ここは天国で間違いないやろ
 ここに比べたら
 外の世界は地獄やで、ホンマ、しかし


 ワイもうこのままずっと
 ここで暮らすんでいいわ
 いや、むしろお願いしますから
 ここにずっといさせてくださいって感じやわ


-


そんな胎内暮らしを満喫しているおっさん。
もうじき妊娠二か月という頃でようやく
身長0.5cm、体重4g程度、
まだまだ小さな小さな生命いのち


しかし体からは
すでに手足のようなものが
生えはじめて来ている。


前世の記憶と感覚を保っているおっさんには、
おそらくそれが手足であろうという認識はあった。




 しかし不思議なもんやなぁ


 ワイこの間まで
 おたまじゃくしみたいな精子やったのに
 知らんうちに魚みたいになったと思ったら
 今度は手足が生えて来よったで


 ワイ今どんなカッコしてるんやろか?
 両生類みたいな感じなのやろか


 おたまじゃくしに手足が生えて肌色……


 それ、ウーパールーパーやんけ!


 なんか昔一時可愛いとか言われとったけど
 あんなんちっとも可愛いことあるかい
 ワイからしたらキモイだけじゃ




こんなところでディスられる
ウーパールーパーも
ちょっと気の毒というものだ。




 そう言えば、胎児の頃は
 人類の進化と同じ成長の仕方をするんやって
 前世で聞いたことあったなぁ


 魚から両生類、んで人になって
 外の世界に出たら出たで、
 最初四つん這いの四足歩行で
 最後は二足歩行になるっちゅうことか
 よう出来てるわ、ホンマ




まさか人類の進化形態を
実際に体験することになるとは
おっさんも思っていなかった。


いや、この世に誕生した人間は
全員体験しているはずなのだが、
胎児の頃の記憶など誰にもないので
誰も覚えていないだけと言ったほうが正しい。


世界の総人口が約七十億人もいるのだから、
誰かひとりぐらい覚えていても
不思議はなさそうなものが
胎児の時の記憶が
完全にある人間などいるものではない。
そう意味では非常に貴重な体験ではある。


-


さらにもうしばらくすると
身長も5cm程度まで大きくなり、
しっかりとした手足が生えはじめて
自由に動かせるようになって来る。


胎内の羊水にぷかぷか浮かぶ胎児のおっさん。
見た目は胎児で中身はおっさんなので、
胎児なのかおっさんなのか、なんとも呼びづらい。




 よっしゃ!
 泳いだろ!




おかあやんの胎内、
その羊水の中を泳いで遊ぶおっさん。




 もうここ最高や
 誰がなんと言っても
 ワイここから出えへんからな
 ずっとおかあやんのお腹の中にいたるわ




おっさん、すっかり
おかあやんの胎内が心地良過ぎて、
まるで母親に甘える幼児のように
幼児返りを起こしてしまっていた。


今のおっさん、外見的には
幼児どころかリアルガチで胎児なのだが。




外界から遮断された密室にこもり、
外に出てストレスを感じることもなく
母に世話をされながら生きて行く。


おっさんはこのまま
引きこもりにでもなるつもりなのだろうか。


胎児が胎内で引きこもりになるとは、
斬新と言えば斬新、人類史を見ても
なかなか貴重なことではないだろうか。


母体となっているおかあやんからすれば、
エライ迷惑なことこの上ない話ではあるが。


-


さらに時間が経過すると、
おっさんに何やら音が聞こえて来はじめる。


聴覚器官が発達して来たため、
おかあやんの子宮の外の音が
聞こえるようになったようだ。


おかあやんの声や心臓の鼓動といった音、
消化器官が消化する音までが聞こえる。


ちょうどプールに潜っている時に
聞く人の声や音のような聴こえ方で。


だがそうした音も決して不快な雑音ではなく
聞いているいると何だか落ち着いて、
より一層安心出来るような気がして来る。




おかあやんの声は
胎内であるためはっきりとはわからないが
どこかで聞いたことがあるような
おっさんにとっては懐かしさを感じさせる声。


前世の記憶が残っているおっさんは、
転生しても言語理解力が
そのまま継続されているため
はっきり聞き取れさえすれば
おかあやんが何を言っているいるか
理解することが出来る。




おかあやんだけではなく
お腹に向かって話しかけて来る人の声も
時折り聞くことが出来た。


おかあやんのお腹に向かって、
つまり自分に向かって
時々話しかけて来る男の声。


おっさんは何故か
その男の声が好きではなかったが、
おそらくその声が
転生をはたしたおっさんの
おとうやんの声なのだろう。


「おーい、早く出て来いよ」


お腹の中にいても
その男が呼び掛ける声がはっきり聞こえる。
やはりおっさんはどうもその声が
生理的に好きになれそうもない。


胎児の段階で随分好き嫌いが激しいことではあるが。


「おーい、早く出て来いよ」


もう一度お腹に向かって呼び掛ける男の声。


 こんな気持ちええとこ出れるわけないやろ、ボケ!











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