史上最凶の通り魔、異世界に転移す

ウロノロムロ

金の勇者と土の勇者(1)

自分が一体何と戦っているのか、
髑髏はよく分からなかった。
金の勇者と土の勇者、
二人の勇者と戦っている筈なのに、
まるで生きている山と戦っているように
思えてならない。


ここは、この異世界で
勇者信仰の地とされている『はじまりの山』。
人間世界で言えば、信仰があり、
霊山とされる富士山のようなものである。
二人の勇者はこの山を
バトルフィールドとして指定していた。


山の木々や草花をはじめ、
岩、土、大地、そのすべてが
髑髏に襲い掛かって来る。


金の勇者と土の勇者は時々遠くに姿を見せ、
消えたり現れたりを繰り返すだけで、
一切向かって来こようとはしなかった。




山中の木々の根が巨大化して
地を這い、髑髏を追い回し、
捕まえると一気に鉱物のような硬さにまで
硬質化を果たす。


さらに巨大な根達がそれに重なるようにして
髑髏の周囲を取り囲み、
そのまま圧縮して髑髏を圧し潰そうとする。


すんでのところで
これを引き千切り、粉砕して
窮地を脱する髑髏。


だがそこには風に乗ってばら撒かれた
砂のような粒子が大気中に無数に舞っている。


危険を察知して
その場を離れようとするが、
その瞬間に粉塵爆発が起こり、
吹き飛ばされる髑髏。


山の傾斜に打ち付けられると、
今度は頭上からいくつもの巨大岩石が
轟音を上げ転がり落ちて来る。


そのすぐ直後に
土砂崩れのような大量の土石流が
髑髏を流し、土の中に生き埋めにした。


そして大地が裂け、
大きい深淵をのぞかぜ、
土に埋もれたままの髑髏をそのまま呑み込み、
大きく口を開けた大地は再び口を閉じる。


まるでこの山全体に
無数のトラップが仕掛けられており
次々と発動しているかのようであり、
もしくは山全体が生きていて
髑髏に襲い掛かって来ているようでもある。


-


金の勇者と土の勇者は
まるで双子のようでもあり、
それぞれが着ている金と土色の
鎧の色が違わなければ分からないだろうと
木の勇者である岩槻ですら思う。


二人とも普段何も喋らないため、
その素性は岩槻にも分かっていない。


火の勇者、水の勇者が破れ、
二人が名乗りを上げた時、
はじめて声を聞いたかもしれないと
岩槻は思ったぐらいである。


岩槻が、例によって共闘を申し出た時、
二人は顔を見合わせていたが、
今回ははじめて申し出を受け入れて貰えた。


「いいけど、
僕達の指示に従って貰えるかな」


鉱物を意味する金はさておき、
さすがに土と木の相性はいい、
しかも今度のバトルフィールドが山であるなあらば、
木はますますもって相性がいいはず、
断られる道理もないであろう、
岩槻もそう思ってはいた。


金の勇者と土の勇者、
二人の勇者からの指示とは
主に遠方からの支援で、
一番重要とされていたのは
はじまりの山を防御壁シールドで
絶対に守ることというもの。


髑髏からの攻撃はシールドでは防げないが、
髑髏を攻撃した際に
山が巻き込まれる可能性があるので
これを守るようにとのことだった。


共闘と言うよりはまるで部下扱いで
指示と言うよりは命令であったが、
一番の新米勇者、下っ端であり
元警察官で筋金入りの体育会系でもある岩槻は
何ら疑問に思うこともなくこの指示に従う。


山を守るということに関しても、
勇者信仰のある霊山だから
傷つくことを嫌ったのだろうぐらいにしか
思ってはいなかった。











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