史上最凶の通り魔、異世界に転移す

ウロノロムロ

水の勇者(1)

火の勇者が倒され空気が重い
定例の勇者会議。


七人の勇者からはじめて脱落者が出たことで、
各人の戦略や駆け引きにも影響が出て来る、
これからどうして行くか、
次の一手をどうするのか、
腹の内を探り合っているのだ、
木の勇者である岩槻を除いては。


「次は俺が行こう」


そう言い出したのは水の勇者だった。


「髑髏が弱点を克服する前に
俺が行く必要がある」


水の勇者が言う髑髏の弱点とは。


「おそらく奴は今まで
水中での戦闘を経験したことがない。
俺が調べた限り、魔王軍は
水中でも戦える改造魔神を
つくってはいなかったからな」


髑髏のパワー、スピード、能力などを
ノートPCで細かく分析していた
水の勇者は過去のデータを基に
そう結論付けていた。


確かに烏賊イカのモチーフですら、
陸戦用であった魔王軍に
水中用改造魔神がいたとは思えない。


「よし、今度こそ
俺も一緒に共闘しよう」


また張り切って申し出る岩槻だったが、
水の勇者にもあっさり断られる。


「俺が選ぶ場所は水の中だからな、
さすがに俺以外の勇者では何も出来まい」


-


水の勇者が選んだバトルフィールドは
海洋のど真ん中にある孤島。
全長数キロメートルしかないぐらいの
小さな無人島であり、
当然周囲は海しかなく、
むしろ陸地がその小さな敷地しかないと
言った方がいいだろう。


岸辺に立つ髑髏、それに相対する
水の勇者は海を背にして立つ。


天めがけ水柱が幾本も立ち上がる、
しかしそれは髑髏を狙ったものではなかった。


水の勇者の左右両脇には魔法陣の数々、
水の柱はその魔法陣に吸い込まれ、
超高圧縮され、超スピードで高速発射される、
ハイドロキャノン。


その様はまるで
海の水を吸い上げ
魔法陣で出力を調整して放出する
ホースを使った水撒きのようでもある。


的である髑髏を外れた高圧水砲は
後ろにあった山を粉砕、
水の勇者がさらに命中補正の魔法を掛け、
髑髏に直撃させることに成功。


その水圧に押され
前に進むことすら出来ない髑髏は、
羽根を出し空へと逃れる。


すると水の勇者は放出される水を
まるでシャワーのように拡散させ、
空の広範囲にまき散らす、
ニードルシャワー。


飛んでいる領域を
広範囲に狙い撃たれ、被弾する髑髏、
超高圧シャワーをかい潜り、
水の勇者への背後へと回り込む。


水の勇者の攻撃は、
魔法陣を含め大掛かりな仕掛けではあるため、
さすがに小回りは効かない。


水の勇者は一度魔法を解除し、
後ろに飛んで髑髏との距離をつくる。
肉弾戦の間合いに入ることを
相当警戒しているのだろう。


-


髑髏が間合いに入って来る前に
次の手を打つ水の勇者。


高さ五十メートルを超える高波が
高速で押し寄せ、髑髏を呑み込む。


水の勇者が分析した通りに
髑髏にはこれまで水中での戦闘経験がなかった。
魔王軍が水中の改造魔神を
つくらなかったからではあるが。


水中では思うように動けない髑髏に対し、
ほぼ地上と同じように動く水の勇者。
水の中を浮遊しており足場がないため、
魔法で小型のシールドを足の裏に発生させ、
水中でもほぼ直角に曲がることを可能とし、
移動スピードも地上と全く変わらない。


赤い髑髏が空中の瓦礫を
足場にしたのと同じ要領である。


シールドを足場にし、
水中で前後左右から自在に
髑髏を斬りつける水の勇者。


-


これで髑髏を倒せるとは
水の勇者も思ってはいなかった。


水中を嫌った髑髏は
再び空へと浮上したが、
水の勇者は陸に上がろうとはしなかった。
髑髏がじれてまた水中に戻って来るのを
待った方が得策と判断したためだ。


空を旋回する髑髏は、
次第に海中の色が濃くなっていくの視認する。


その時、巨大な触手のようなものが
海中より飛び出し、髑髏を捕らえると
そのまま深海へと引きずり込む。


深海に引きずり込まれた髑髏に、
体長数十メートルから
数百メートルまである巨大な海の魔獣、
その群れが襲い掛かる、
まるで投げ込まれた餌に群がる魚のように。











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