史上最凶の通り魔、異世界に転移す

ウロノロムロ

驕りか慢心か

『生き残った最後の一人が願いを叶えられる』


それはどういうことなのか。


神々の間では、勇者と魔王軍の戦いは
相当熾烈なものなることが予想されていた。
勇者七人が途中で全滅することも当然考えられた。


魔王軍との激戦の中で、
志半ばで六人の勇者が命を落とし
勇者が最後の一人となった時、
魔王を倒す力を得ることを願い、
神々の力を得て魔王を倒す。
それが本来神々が想定した使い道、
一発大逆転のシステム。


要するに六人の勇者の命を生贄にして
神々の力を召喚するシステムであった。


しかし勇者に転生して来た人間達の間で、
『どんな願いも叶える』という部分だけが強調され、
勇者の間でお互いに牽制し合う、
今の状況を生み出してしまっている。




神も神で、
異世界に勇者を転移させているという時点で、
この魔王軍対勇者軍の戦いに
介入しているのは明白であり、
それであればこんなまどろっこしいこともせず、
もっと積極的に介入し勇者を支援するなり、
直接戦うなりすればよいところなのだが、
種族間抗争には参加しないという
公平なスタンスを維持するために
このように裏で関与することになってしまっていた。


-


魔神を倒し、人間に戻ったタケシの姿を見た岩槻は
手に持つ大剣でタケシに斬りかかった。


「タケシィィィィィッ!!」


タケシはこれをわざと紙一重のところでかわす。
髑髏に変身していなくても
人間態での身体能力が以前とは
比べものにならないぐらい上がっているタケシ、
木の勇者・岩槻の大剣ラッシュに動じることはない。


勇者の大剣をかわした隙に
そのがら空きになっている胴へ前蹴りを食らわせる。
後ずさる勇者。


「お前はっ、お前だけはっ!」


体勢を立て直し、すぐに再び突進する勇者。


「許さんっ!!」


息をもつかせぬ大剣ラッシュ。
しかしやはりこれも何なくかわすと、
今度は髑髏の姿に変わり、
勇者の胴体めがけその拳を打ち抜く。


後方へと吹き飛ぶ勇者。
何回転もし止まったかと思うと
また再び立ち上がって来ようとする。


「ほおっ」


いつもは魔神の胴体を貫通している髑髏のパンチに、
吹き飛ばされてはいるものの、
岩槻は死なずに生きている、
そのことにタケシは驚く。


少なくとも魔神よりも
耐久力は高いということになる。


勇者の鎧のお陰なのか、
それとも岩槻の肉体強化術か何かが余程強いのか、
タケシにも少し興味があるところではあった。




吹っ飛ばされても吹っ飛ばされても、
何度でも立ち上がって来る岩槻。
頭から血を流し、血塗れになってなお
立ち上がろうとする。


「タ、ケ、シィィィィィッ……」


こうした泥臭さこそが岩槻らしいところであり、
実際以前それで一度タケシは足元をすくわれてもいる。




何度目かでついに力尽き、倒れて気を失う岩槻。
しかしタケシはこれにとどめを刺さずに、
そのままバイクに乗り去って行く。


それはタケシの驕りか慢心か。
いやタケシは自分と対等に殴り合える者を
探しているのであり、
自らの生死にすら頓着はない。
この先少しは楽しめそうだ、程度にしか
思っていないのかもしれない。











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