史上最凶の通り魔、異世界に転移す

ウロノロムロ

ハチローとルル

異世界。


村の外れ、その先にある森には怪物が住んでいる、
それが村でのもっぱらの噂だった。


だが村の娘ルルはそれが怪物でも
化け物でもないことを知っている。


薄気味悪がって誰も近づかない森の奥に
リリは歌を歌いながら入って行く。


「ハチロー? いないのー?」


声を出して呼ぶ少女の前に現れる一匹の狼。


お腹を空かせているのか
牙を剥き涎を垂らしながら、
少女に向かって唸り声を上げている。


「ヒィッ」


怖がって後ずさる少女に飛びかかる狼。


その時、丸太のような太い腕が狼の掴み、
そのまま遠くへとぶん投げる。


「ハチロー!」


まるでフランケンシュタインのような巨漢、
顔に継ぎはぎのある大男が少女を庇うように立つ。


狼は鳴き声を上げて逃げて行く。


「ありがとう、ハチロー」


少女はその大男をハチローと呼んだ。


-


森の池、その水面に映る自分の姿を
じっと見つめているハチロー、
その横はにルルが座っている。


「ルル、俺ノコト、怖クナイノカ?」


ハチローは喋ると少し片言だが、
知能が低いということではない。
口周りの機能がまだ十分に動かないだけ。


「なんでいつもそんなこと聞くの?」


自分の姿をまだ見つめているハチロー。


「俺ハみにくイカラ」


八ローは自分の継ぎはぎだらけの外見に
酷くコンプレックスを持っている。


「そんなことないよ。
私はハチロー可愛いと思うけどなぁ」


ルルはハチローの顔を覗き込む。


「それにハチローは、
とっても優しくて、
清い心をしてるじゃない」


「そっちの方が大事だと思うよ、私」


ハチローの手を握りルルは励ます。


「さっきの狼だって、
怪我させないように投げたでしょ?」


ルルの優しさがハチローには嬉しい。


「ルルノ歌、聞カセテ欲シイ」


「いいよ」


ルルの高く澄んだ声が、森に響く。
ハチローはルルの歌が大好きで、
ルルが森に会いに来てくれた時は 
毎回必ず歌ってもらう。


「オレ、ルルノ歌、好キ」


-


太陽の光で美しい金色の髪と
澄んだ青い瞳をキラキラ輝かせるルル。


「ハチローは何か夢とかあるの?」


顔を赤くして照れるハチロー。


「俺ハ、俺ハ……」


もじもじしながら


「……オ嫁サンガ欲シイ」


なんとか言葉に出す。


「えっ? そうなの?」


意外な言葉にルルはびっくりする。


「俺ハ人間ノ仲間ジャナイシ、
俺ノ仲間イナイ」


自分のみにくい外見では
人間の仲間にはなれない、
それでも自分にも仲間が欲しい。


「デモ俺ト同ジ仲間ノパートナー、
オ嫁サンガイテクレタラ、俺嬉シイ」


満面の笑みを浮かべるルル。


「別にお嫁さんは人間だっていいじゃない、
ルルがハチローのお嫁さんになってあげるよ」


ルルの笑顔がハチローには眩しい。
まだ少女ではあるが美しい人間の笑顔が。


「アリガトウ、
ソウ言ッテクレルダケデ、俺嬉シイ」


この美しい少女が
自分のお嫁さんになることはないと
ハチローも分かってはいたが、
それでもルルの優しさが嬉しかった。











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