史上最凶の通り魔、異世界に転移す

ウロノロムロ

裏切り者のバラード

人間社会。
夜の繁華街、ビルの谷間、
狭く薄暗い裏路地を息を切らせながら
走り続ける一人の男。 


男は白衣を身に纏い、
ジュラルミンのアタッシュケースを抱きかかえ、 
この刺激的なネオン街、
不夜城には似つかわしくない風体であった。 


裏路地に出されているゴミ箱を蹴散らし、
後ろを気にしながら白衣の男は走り続ける。 


何者かに追われているかのように。 


やがて白衣の男は走るのを止め、
肩で息をしながら
裏路地の壁にもたれかかり呼吸を整える。 


「ここまで、くれば、」


白衣の男がハァハァ言いながらそう呟いた時、 
狭く薄暗い路地裏にギターの音が流れて来る。


白衣の男は恐怖に顔を歪め、叫ぶ。 


ビルの上に姿を現す影、
黒いポンチョを着てハットを被り、ギターを抱いた男。


そのラテン系の男はギターのメロディにあわせ
ラテンのバラードを口ずさむ。 


ラテン系の男はギターを弾く手を止め、
ビルの上から白衣の男の方に目をやる。 


「アミーゴ、裏切りはいけねぇなぁ」 


「裏切り者は長生きできねぇ、
それが俺達の世界の掟さぁ」 


ラテン系の男はそう言うと
ニヤリと口元に笑みを浮かべる。 


「あぁぁぁぁぁ」


白衣の男は震えながらその場から逃げ出す。


「ふんっ」


ラテン系の男はギターを弾きながらビルの上から飛び降りる。 


逃げようとする白衣の男の前に突如姿を現すラテンの男。 


「組織の秘密書類を持ち出して
逃げ出そうとするなんざぁ、いい度胸だな、アミーゴ」


白衣の男は有栖川博士同様に
魔王軍に拉致され
研究開発に従事させられていた科学者の一人。
魔王軍の手段を選ばれぬ非人道的なやり方に恐怖を覚え、
異世界とこちらをつなぐゲートを通り
人間世界に逃げて来たのだった。


「なんでも、そいつぁ
開発中の人造人間に関する書類らしいか、
さすがにそれはまずいぜ、アミーゴ」 


「あぁぁぁぁぁ」


白衣の男は後ずさる。 


「私は、私はもう嫌なんだっ、
これ以上組織に手を貸すことはっ、
私には出来ないっ」 


「そうかいそうかい、
だが一度手を染めちまったら、
もう後戻りは出来ねぇ。 
一度血塗られた手は二度と白くはならない、
違うかいっ?アミーゴ」 


白衣の男は後ずさり、そのまま逃げようとする。 


ラテン系の男は手に抱くギターのネックを白衣の男に向ける。 


ギターのネックより発射される棘状の弾丸が、
白衣の男を串刺しにし、貫き、 
蜂の巣になった白衣の男がそのまま倒れ込む。 


「アミーゴ、
あんたは優秀だったのになぁ、俺も残念だぜっ」 


ラテン系の男はそう言い、
亡骸の横にあるジュラルミンのアタッシュケースを手にすると
ギターを弾いてバラードを口ずさみながら闇へと消えて行くのだった。 













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