史上最凶の通り魔、異世界に転移す

ウロノロムロ

貧民街のルール

タケシは貧民街で生まれ育った。


物心ついた時にはすでに母はおらず、
父親と二人暮らしであったが、
毎日毎日父親に殴られる日常、
それがタケシの最初の記憶。


父親は無口な人間で、家では一言も喋らず、
事あるごとにタケシを殴り続る。


幼少期からそうした環境で育ったタケシは
それが当たり前のことであり、
それがコミュニケーションであるとすら思っていた。


-


それは家だけに限ったことではなく、
外に出ても周囲の人間に殴られ続ける。


まだ幼く力がないタケシは貧民街の最弱者であり、
街のすべての人間がタケシをターゲットにした。


タケシが食べ物や金を持っていたら、
当たり前のように殴ってそれを奪い、
気が晴れないことがあれば、
タケシを殴って憂さ晴らしをする。


自分より年上の子供から老人まで、男女を問わず、
街のすべての人間からタケシは殴られた。


だがタケシにはそれが当たり前の日常であり、
コミュニケーションでもあり、
それが他者を認識出来る唯一の方法。
誰かに殴られていないと、
自分は孤立しているのではないかと、
不安を感じることさえあった。


-


そうした幼少期を経て、
次第に成長するに連れて、
タケシが殴る側に回ることが多くなる。


成長と共に力が付いて強くなれば、
当然タケシより弱い人間が出来る。
それが弱肉強食というものであり、
この貧民街における絶対的なルールでもあった。


最初は自分より年下の子供や老人が
タケシに殴られる立場に取って代わることになる。


次に女、中年男性と
タケシが殴る対象は増えていく。


やがてタケシの父親さえも
タケシに殴られる側に回ることになる。


-


そしていつしか、気づくと
街でタケシを殴る人間はいなくなっていた。


それはタケシが殴る側の人間、
その中でも最も強い人間になったということの証。


タケシは誰かを殴ることでも
他者とのつながりを認識することは出来たが、
それでもそれだけでは不安に感じることもあった。


自分を殴る人間がいない。
そのことへの不安が日に日に大きくなっていたタケシは
やがて自分を殴る人間を求めて貧民街を出て行く。


その後、タケシはいろんな街を放浪して回るようになる。
そこで誰かと殴り合い、
まだ自分を殴る人間がいることを確認する、
そんな生活をひたすら続けた。


タケシにとっては誰かを殴り、誰かに殴られる
それだけが他者とのつなりがりを感じられる行為であり、
それ以外のことにはまったく興味がなかった。


こうして史上稀に見る凶悪犯罪者タケシは誕生していくのだった。













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