非人道的地球防衛軍とゾンビ兵

ウロノロムロ

サンタクロースの姿

蘭教授は次に人間の感情を
博士に理解させようと試みた。


インターネットと同様に
膨大なデータを博士に取得してもらい、
それを統計的に分析してもらうのが
一番早い方法であったが、
人がスタンドアローン、
単体で存在している以上、
一人ずつスキャンして
行かなかくてはならなかった。


人類が他者と意識を共有しているような
群体でもあれば話は別だったのだが。




実はこの星全体をスキャンしてもらい、
この星のデータ全体を、
人間のみならずすべての生命体を、
この星の命そのものをインプットしてもらうのが
一番てっとり早かったのであるが、
蘭教授もさすがにそれは躊躇われた。


当時七十億であった
全人類すべての個体の全情報が
博士に把握されてしまうことになるからだ。




結果、
旧地球防衛軍のほぼすべての男性が
博士にスキャンされ、
肉体も精神も過去も把握されることとなった。


蘭教授は男性しか
博士にはスキャンさせなかった。


それは蘭教授がすでに博士に対して
特別な感情を抱いていたからに他ならなかった。


そもそも高次元への憧憬が強かったとは言え、
肉体すら持たず、
性別があるかすらもわからなかったのだが、
毎日二十四時間ずっと一緒にいる博士に
蘭は好意を抱きはじめていた。


もともと最初に接触した人間である進士が、
コミュニケーションをはかる際の
ベースとなっているため、声は男性であり、
男性を想起させる状況ではあった。 


そしてこの人類男性のデータのみを
最初にひたすら
インプットしてしまったことが、
後に類稀なる極度の女好きになる
要因になってしまったのは間違いなかった。


こうして博士は次第に
人間感情を理解するようになって行った。


-


こうして博士と蘭教授の二人の生活が続けられ、
それはクリスマスが近づいて来た
ある日のことだった。


蘭は二人で過ごしている部屋に、
クリスマス用の装飾を施しはじめた。


「この世界ではもうじき、
クリスマスなんですよ。」


蘭が少し楽しそうに準備をしているのを見て、
博士は言った。


「本来宗教的イベントだったものが、
宗教的要素が薄まって、
君達が言うところの
お祭りのように変化したものだね。」


クリスマスに興味を示した博士に、
蘭はクリスマスの話をして聞かせた。


博士にデータとしては
とっくにインプットされたものではあるが、
蘭はそうした博士との
コミュニケーションを楽しみにしており、
博士もまた喜んでくれているようであった。


蘭はクリスマスの絵本や写真を見せながら、
クリスマスの思い出などを笑顔で話し続けた。


「蘭、
君がクリスマスを
どれだけ楽しみにしているのか
よくわかったよ。」


博士は蘭が持って来ていた肖像画に
興味を示す。


「このサンタクロースという男性なんだがね。
君の話を聞くと、人類がとっても
好意的な感情を抱いている人物のようだが。」


「そうね。
クリスマス・イブの夜に
世界中の子供達にプレゼントを
配って回っているんですもの。
みんながとても優しくて
素敵な人物だと思っているわね。」




博士は少し間を置いてから続けた。


「蘭、僕はそろそろこの世界の人間と
同じ肉体をつくってみようと
思っているんだがね。」


「このサンタクロースという人物を
モデルにしてみようかと思うんだ。」


蘭は博士の急な話に少し驚いた。


「どうしてサンタクロースにしようと思ったの?」


「ほぼすべての人類が、
この人物を見ると優しい人間であると
判断するのだろう?


僕はもっとこの世界の
いろいろな人間を
深く知りたいと思っていてね。


だから、
最初に出会った時に
誰からも好意的に思われる姿にしようと、
ずっと考えていたんだ。


この世界では
第一印象が大事ということだからね。」


蘭は少し戸惑ったが、
喜んで賛成した。


「そうね。
それはとってもいいアイデアだと思うわ。」


自分が好意を抱く者の容姿が
サンタクロースになるといことに、
蘭が全く抵抗を示さなかったのは、
蘭がファザコン気味だったためであろう。


今は故人となってしまった師にも
多少なりとも好意的な感情を
抱いていたこともある。




かくして蘭は、
分子・量子レベルで物質を構築し、
自らの肉体を築きあげていく
博士の奇跡を目撃することになる。


そして研究に没頭して
疲れて寝てしまっている
蘭教授を見つめる博士。


「蘭、君達人間は寝なくては
生命活動を維持出来ないのだね。」


自らがつくりあげた肉体の腕で、
寝ている蘭に毛布を掛ける博士であった。


人のために労力を使うというのは、
こういうことかと博士は思う。


今まで肉体を持たなかった博士は、
自らの肉体に多少なりとも負担を掛けて、
人のために何かをするということを
はじめて知った。











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