非人道的地球防衛軍とゾンビ兵

ウロノロムロ

ポイ捨てドラゴン

燃え盛る炎の中で、
雄叫びを上げる巨大な竜、ドラゴン。
咆哮と共にその口より放たれる火炎。
その業火は地上の大軍勢を焼き払う。


巨大ドラゴンの周りには
ドラゴンキラーを乗せた
グリフォン編隊が数多飛び交う。


地上の大軍勢からは
魔法により強化された弓が放たれる。


しかし巨大ドラゴンの硬い鱗に跳ね返され、
その巨体に突き刺さったのは
わずかな数であった。


「せっかくここまで追い詰めたのだ、
何としてでも押し込め!」


地上軍の指揮官は、
この地獄のような戦場で叫んだ。


巨大ドラゴンの後ろには
異世界に通じるゲートが開かれている。




地上の魔法部隊から
連続して魔法が放たれる。
その属性相性が悪い氷系魔法の衝撃により
巨大ドラゴンは後ろに押される。


「今だ!押し込め!」


召喚士による召喚魔法発動により、
巨大なドラゴンの前に
召喚魔法陣が描き出される。


その魔法陣から出現する巨大な手。


召喚された巨大な手は、
巨大ドラゴンを鷲掴みにし、
そのままゲートに押し込んだ。


巨大ドラゴンはゲートに吞み込まれ、
そのまま姿を消して行く。




燃え盛る地上の軍勢は大きな歓声を上げ、
勝利に喜ぶ。
その被害は甚大ではあったが、
巨大ドラゴンから
この世界を救うことが出来たのだ。


指揮官はこの偉業を成し遂げたことに安堵して
胸をなで下す。


「あの巨大ドラゴンを異世界に
ポイ捨て出来たことは僥倖であった。」




そして巨大ドラゴンがポイ捨てされた
ゲートのつながる先の異世界は、
やはり日本だった。


-


異世界から不法投棄された巨大ドラゴンは
日本上空を飛び回っていた。


異世界とこの世界の
共通ルールや法律がない以上、
不法投棄というのはこの世界から見た理屈だが、
この世界からすれば
不法投棄として取締りたいぐらいに
迷惑もいいところであった。


「巨大ドラゴンを早速迎撃しましょう」


巨大ドラゴン出現時、
天野は慌てて出撃しようとしたが、
進士司令官に止められた。


「仮称・ファンタジー異世界で、
エルフに偽装し潜入している工作員によれば、
異世界からの侵略目的の
巨大生物兵器ではないということです。」


全くわけのわからない環境に、
全く生態を知らないエルフなどに
偽装させられて、
日々を送らなくてはならない
『チーム修羅道』の工作員には
同情を禁じ得ない。


ちなみに仮称・ファンタジー異世界の
『仮称・』とは、
いくつもの王国が常に覇権争いをしており、
敵勢力名称がしょっちゅう変わるため、
いつまで経っても
『仮称・』扱いされているためである。


「どういうことですか?」


天野は進士司令官に問う。


「仮称・ファンタジー異世界にて、
眠れる伝説のドラゴンが復活し、
攻撃したところ大暴れしはじめて、
持て余した異世界住人達が、
ゲートを使って異世界に捨てた
ということらしいですね。」


進士司令官は冷静に語った。


「で、その捨てた先がこの世界だったと?」


「そのようですね」


「それはまた随分と迷惑な話じゃないですか。
侵略行為に相当するのではないのですか?」


「我々の、この世界の理解でいけば、
そうなりますね。」


進士と天野の会話に
真田は補足説明をする。


「もちろん、
政府を通じて相手の世界には
厳重に抗議していますが。
そこは敵対勢力ですから。
無視されるのが落ちでしょうね。
あまりしつこく言って
開戦となってもなんですから。」


『海底王国』戦で
甚大な被害を出した地球防衛軍日本支部は、
軍備再編を行っている真っ只中であり、
ゾンビ兵や半魚人、幽霊など
異形の者達による戦力増強はあったが、
今の状況で開戦などは
正気の沙汰ではなかった。 
従って外交も弱腰にならざるを得ない。




真田の後、天野が再び話しを続けた。


「では、あれはどうするんですか?」


「ドラゴンが暴れていない現在、
今すぐに攻撃することは考えていません。
『チーム非道』にドラゴンの分析と
方策を検討してもらっています。
なんとか元の世界に
送り返せればいいのですが。」


そこで今度は一条女史が口を挟む。


「思うんだけどさー、
あの子本当は大人しいんじゃないかなー
今もああやって空飛び回ってるだけだしさー」


確かに巨大ドラゴンは
空を飛び回っているだけであった、
ここまでは。


「なんとかして捕獲して
戦力に出来ないものかなー」


一条女史は以前から
巨大生物兵器を運用出来ないかと考えていた。


以前の兵力増強会議でも
巨大生物の戦力化を提案したことがあった。


しかしその際は
飼育環境、食糧の問題といった管理・運用面、
生態系への懸念、世論の支持という点から
見送られていた。


「やはり現段階では
巨大生物との共存は難しいのではないかな。」


財前女史が一条女史の言葉に応じた。


-


確かに巨大生物を
戦力とするのには問題が多過ぎた。


あれだけの巨体を飼育するというのは
相当な敷地が必要となるだろう。
その巨体を維持するためには
相応の食料も必要となる。
そのコストはどうするのかという問題も伴う。


また当然ながら周辺住民は
不安を感じるであろう。
どれだけ安全を訴えたところで、
その巨体を目にすれば
畏怖を抱くというのが人間の心理であろう。
となると世論の支持も得ずらい。


この世界の本来の生態系に存在しない
生物が入って来ることで、
生態系にどのような影響を及ぼすかも
考慮しなくてはならない。











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