非人道的地球防衛軍とゾンビ兵

ウロノロムロ

0.001パーセントの被害者

数日後、
病院のベッドの上で天野が目を覚ますと、
傍には彩姐さんがいた。


彩姐さんはハンカチで涙を拭いながら
「よかったよ」を連発した。


しばらくすると一条女史が
むくれた顔で見舞いに来た。


「一条さんは
なんでむくれてるんですか?」


「だってさー、
せっかく天野きゅん改造する
いいチャンスだったのにさぁー」


「このクソビッチが
すげー反対すんだよー、
いい具合に瀕死だったのにさぁー」


「ふざけんじゃないよ!
あんた今あたしのことを
クソビッチって言ったね?」


「それになんだい、
まだ童貞の坊やを改造しちまうなんて、
あんたにゃ情てもんがないのかい?
本当に薄情な女だね。」


「別に俺童貞じゃなっすよ!」


「うん?童貞じゃないのかい?」


天使のような笑顔で
天野を見つめる彩姐さん。
さすが天性の小悪魔いやサキュバスか。


「いや別に
童貞ってことでもいいんですけど…」


そこにちょうど
病院に立ち寄った石動不動が
顔を出しに来た。


「おぉ、もててるなー、
しかしなんだお前童貞だったのか?」


『童貞じゃねぇよ!』


「ちゃんと早めに教えてもらっとけよ、
ここにいたらいつ死ぬかわからんぞ」


天野は戦場でのことを思い出し、
石動に謝罪する。


「本当にすまなかったな。
エラそうなこと言って
あんたの上に立っておきながら、
危うく部隊を全滅させそうになっちまった。」


「あぁ全くだな。
あん時は久しぶりに
あんな青臭いもん見せられたから、
その場にいた奴みんなドン引きしてたな。
でもまぁ、個人的には勢いのある馬鹿は
嫌いじゃねぇけどな。
指揮官じゃなきゃな。
もしまた次に現場くる時はしっかり頼むぜ、
あんちゃんよ」


天野は突然石動の言葉を思い出した。


「カニは食ったのか?」


「ああ、食ったぜ。
やっぱりデカいカニは大味だな。」


石動不動はそういう言い残すと
手を振って病室から出て行った。


『ホントに食ったんだ』




「やはりまだ心のどこかで
怒っているんですかね」


「なぁに、あいつも照れてんのさ」


「ここは、お天道様に顔向け出来ない、
道を踏み外しちまった
日陰者連中ばかりが集まるところだからね。
坊やみたいに
日の当たる道の真ん中を堂々と
歩いてきたような人間を見ると眩しくてね、
どうしたらいいのか
わからなくなっちまうのさ…あたしもね。」


「坊やの青臭いとこ
あたしは可愛いと思うけどね。
このままここにいると、
あんたきっとこの先辛くなるよ、
いいのかい?」


彩姐さんは少し憂いのある顔で
天野を見つめた。


「天野きゅんさー、
ここのみんなにすっかり
彩姐さんの情夫だと思われてるから、
別の意味でも辛くなるよー」


「マジですか」


「ここの医療施設に
緊急搬送されてからずっと
姐さんがつきっきりだったんだから、
そりゃそうなるよねー」


「そうだったんですか、
彩さん、いろいろありがとうございました」


「よしておくれよ。
あたしのせいで大怪我させちまったからね、
心配だったんだよ。」


「まぁねー、
ムショ中の男の恨み買って、
殺意持たれるからねー」


「退院したら
命狙われまくるんじゃないかなー」


「マジですか」


「いいじゃないかい。
あたしは別にやぶさかじゃないんだよ」


「出た、サキュバスモード」


-


その後、
天野は彩姐さんと一条女史から話を聞いた。
上陸した敵兵総数は
三十万以上であったこと、
こちらの世界の被害は
十万人以上であったこと、
その内の半数以上が
民間人であったことなどを。


実際によく戦い抜いたものだという気持ちが
天野にはあった。


だがやはり
民間人に多大な人的被害を出したことは、
悔やんでも悔やみきれなかった。


その後、天野は進士司令官の下を訪れた。


「申し訳ありません。
私の判断ミスで危うく総員を
全滅させるところでした。」


天野の言葉に進士司令官は冷静に返した。


「結果として、
命令違反を犯した訳ではありませんしね。
結果として、
あなた一人が大怪我をしただけで済んだ。
これはあなた一人が自らの命を犠牲にして、
その他大勢を救おうとしたとも解釈できます。」


そして進士司令官は言葉を続けた。


「今回私は
三億人の命を救おうとして
十万人の被害を出しました。
人類存続を前提として、
いつの間にか増えてしまった
人類の総人口を百億だとした場合、
わずか0.001パーセントの被害者だ
とも言えます。
しかし十万人は十万人でもあります。
その数字をどう捉えるかは
いろいろな人がいるでしょう。
数字の詭弁とも言えます。
しかし、
私はわずか0.001パーセントの被害者だと
考えなくてはいけないのです。」


「この業を背負って、
私はいつかはけじめをつけなくてはなりません。
しかし今はまだその時ではありません。
この異世界間戦争が終結するまで
おそらくまた数十万人単位で
人が死んでいくでしょう。
しかしその業を背負うのは
私一人だけでよいのです。」


進士司令官は眼鏡を指で押しながら、
天野を見つめた。


-


その後しばらく地球防衛軍日本支部は、
総出で今回の後始末に追われることになる。
戦場となったエリアは封鎖され、
立ち入り禁止区域となり、
日本政府にいろいろバレないように
必死で証拠隠滅が図られた。


今回の初陣後、
天野はしばらく落ち込んでいたが、
彩姐さんや一条女史、財前女史に励まされたり、
慰められたり、喝を入れられたり、
しばかれたり、どつかれたりしながら、
次第にいつもの調子に戻っていくのであった。


そして地球防衛軍日本支部は
今回の初陣以降、飛躍的に技術を発展させ、
ゾンビ兵や半魚人をはじめとする
人材を大増員し、
戦力を増強させていくことになる。











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