非人道的地球防衛軍とゾンビ兵

ウロノロムロ

異世界人テロ

天野は一条女史から
爆弾を受け取ると、駆け出した。


会場から海岸までは近かったが、
走るとなるとそれなりに距離はある。


しかし会場出口では
若頭がモトクロスバイクのエンジンを
駆けて待っていた。


「こんなこともあろうかと、
バイクをご用意させていただきました。」


若頭はそう言いながら
天野にヘルメットを渡した。


「車では避難渋滞も予想されますので、
バイクの方がよろしいかと存じます。」


若頭は用意していたリュックに
爆弾を入れて天野に背負わせた。


「至れり尽くせりで、すいません」


「いいえ、私もすぐ後を追いかけますので。」


天野はバイクを駆って沿岸に向かった。
沿岸には黒スーツの男達が大勢おり、
場所はすぐわかった。
ご丁寧にエンジンまでかけて待ってくれていた。


『さすが若頭の部下、気が利くことで』


天野は艇に乗り込むと、
一人で行くと言い、他の人間は降ろした。


艇を走らせると、アクセルをべた踏みし
一気に最高速度までスピードを上げた。


『やべえな、爆発の威力によっては俺死ぬかも』


『せめてライフジャケット着てくるべきだったよなぁ』


『生存確率下がったわ、これ』


天野は可能な限り岸から離れ、
残り時間十数秒のところで、
そのまま艇から水中へと飛び込んだ。


高速艇はそのスピードのまま進み、
しばらくの後、大爆発を起こす。
天野はその爆風に巻き込まれ吹き飛ばされた。


『やべ、俺死ぬかも』


天野はそこで意識を失う。


しかし水中に沈んでいく天野は、
別の高速艇で後を追って来た
若頭達によって無事に回収された。
若頭があまりにも有能過ぎる。


-


天野が海岸で気づくと、
一条女史と大親分が顔を覗き込んでいた。


「いやー、まさかこんなところで
アクション映画のお約束が見られるとは
思わなかったよー」


「天野っちさー、
すぐギリギリまで突っ込んでくよねー」


「このまま行くと、そのうち死ぬよねー」


「そうかもしれないですね」


「いざとなったら、
あたしが改造人間にしてあげるよー」


「いや、ゾンビ兵とか勘弁して欲しいっすわ」


大親分は笑いながら天野に向かって言った。


「天野さん、あんた、
彩ちゃんが言ってた通りの人だったよ。
お天道様のように眩しくて、
あっしらみたいな闇の中で暮らしてた
モグラのような人間からしたら、
眩し過ぎて目が潰れちまいそうだ、わはは」


-


犯人は、
避難誘導に紛れて逃げようとしていたところを、
若頭率いる黒スーツ隊によって捕えられた。


黒スーツ隊のサングラスには
偽装ユニットキャンセラーが組み込まれており、
偽装ユニットを使って逃げようとした犯人も
すぐに見抜かれ捕まったのだ。


犯人は『海底王国』の住人ではなく
『魔界』の人間であった。


犯人はその犯行動機を
「他の異世界住人達に
ロボット像を壊されるぐらいなら、
自らの手で破壊したかった」
と語った。


期せずして、
この事件は異世界住人達への
格好のロボット像アピールとなった。
すべての異世界勢力が、
彼らの聖典・コーランである
ロボットアニメに登場する
ロボット像の破壊を目論んでいる。


それを知らしめるにはまたとない機会となったのだ。
これを機に、この地の侵略スポットとしての
ステータスが確立された、
箔がついたと言ってもよかった。




地球防衛軍日本支部は、
犯人の供述や異世界勢力の背後関係を調べ、
今回は単独犯によるテロ行為であるとの結論を出した。


しかし難民亡命者に関する事件に続き、
今回はテロという問題を
突きつけられたかたちとなった。


今後敵異世界勢力からの
テロが多発するようになれば、
現状体制で到底防ぎきれるものではない。


地球防衛軍日本支部としても
新たなテロ対策を講じていかなければならなかった。


『異世界住人達にとって
ロボットアニメ信仰はもはや宗教に近い。
だとするとここに並んでいるロボット像は、
彼らにとっては仏像に近い存在なのかもしれない。
破壊することが信仰の証という点は大きく異なるが。
そしてここは彼らにとっての聖地、
ということになるのだろうか。』


天野はそんなことを考えながら、
夕暮れの空にそびえ立つ
ロボット像達を見上げていた。


-


基地に戻ると、彩姐さんの姿が見掛けたが、
今日の大親分の話を思い出して、
勝手に話しかけづらい気分になっている天野。


しかし、彩姐さんが天野を見つけ、
驚いたような顔で駆け寄って来る。


「坊や、あんた
大親分の超高級クルーザーに爆弾仕掛けて、
海で爆破させたんだって?」


「やるじゃないかい、
あたしゃあんたのこと見直したよ。
ムショ内じゃ、もっぱらの噂だよ。」


「全然違いますって!」











コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品