非人道的地球防衛軍とゾンビ兵

ウロノロムロ

司令官、進士直道

逃亡犯はリーダーが不在であった
『チーム極道』と『チーム外道』を
閃光弾などを駆使して出し抜き、
いよいよ基地内部から屋外に出てきていた。


「屋外まで出て来たのって久しぶりだねー、
全体で見ても過去数人しか
いないんじゃないかなー」


「そろそろこの辺りに
来そうな感じだな」


「そっかー、
あたし達も狙われちゃうかなー、
これでも一応幹部だしなー」


「逃亡犯には、
幹部を人質に取って逃げようとする
卑怯な輩が多いからな。」


「その辺り、
手段を選ばないからねー」


「卑劣だろうと卑怯だろうと
逃げ切れば勝ちだよねー」


「狙われるかもしれないのに、
随分と他人事ですね。」


「まぁ、一応私も薫ちゃんも、家が家だから
武芸一般は人並み以上に嗜んでいるしねー」


「私にはこれがあるからな」


財前女史は背中の日本刀に手をやった。


「天野殿はいかがかな?」


「体術には自信がない訳ではないですが、
得体の知れない武器を使ってこられると
厄介ですね。」


そんな話をしていると、
本当に逃亡犯が天野達の方向に向かって走ってきた。


だがまだ天野一行には気づいてはいないようだ。




沿道にいる下衆の兵士達は
はじめから逃亡犯を捕まえることなど
諦めている連中なので、
むしろ逃亡犯に熱烈な声援を送っている。


もはやその様は単なるマラソン選手を
応援する観客のようでもあった。


賭場に群がる兵達は、
自分自身の損得に応じて、
「頑張れー」だの
「捕まれー」だの
「金返せー」だの
思い思いの声をぶつけている。




逃亡犯は前方に、
白い軍服の男二人組が歩いているのに気づき、
そちらの方向に進路を変えて行った。


負傷していることもあって、
そろそろ体力的にも厳しくなってきた逃亡犯は、
ここから先は人質を取って
打開策をはかりたいと考えているのだろう。


逃亡犯のその手にはテーザー銃が握られている。
この逃亡犯の手元に最後に残った武器は
人質を取るのにはむしろ好都合であった。
武器の射程は四~五メートル。
相手が射程に入った瞬間に電極を発射し、
死なない程度の電流を流し、
麻痺して動けなくなったところを
人質にすればよいのである。


逃亡犯が向かった先には、
二メートル近くあるのではないかという
長身痩躯の男が居た。
白の軍服を身に纏い、
体型のせいか手足の長さが
以上に際立って見える。
長い黒髪を後ろで結い、
眼鏡の奥からは鋭い眼光を覗かせている。


「司令官殿!」


財前女史はそう叫びながら、
背中に背負っていた日本刀を
その男に向かって投げた。


それは、天野も今まで気づかなかったが、
五尺以上ありそうな大太刀であった。


日本刀を受け取った男は、
即座に構えると、
向かって来る逃亡犯との間合いを一瞬で詰め、
鞘から剣を抜いた。


その長い腕と大太刀はまるで
ひとつであるかのように美しい弧を描きながら
逃亡犯の体を切り裂いた。
腕の長さと太刀の長さを考えると、
リーチは三メートル近くになっていたのではないか。
その男は一瞬で数メートルを詰める瞬発力と、
さらに腕と太刀の三メートル弱のリーチで、
相手の射程四~五メートルの間合いの外から
一瞬で逃亡犯を切り捨てたことになる。


「安心してください、峰打ちです。」


かけている眼鏡を軽く押しながら、
独り言のように呟く。


「再生医療にかかるコストも
馬鹿にならないですからね」


『あれが司令官、進士直道しんしなおみち


天野はその男こそが
司令官の進士直道だと悟った。


「お見事です!司令官殿!」


その活躍を見て興奮した
財前女史が走り駆け寄った。


「やはり司令官殿には
大太刀がお似合いですなぁ」


ここまで徹底的に男前だった財前女史が
まるで可愛らしい女子のようにはしゃいでいる。


「せっかく
みなが『祭り』を楽しみにしていたのに、
水を差してしまって申し訳ないですね」


「真田特務官と
次の会議への移動中だったのですが、
咄嗟のことでつい手が出てしまいました」


「そう言えば真田殿は?」


二人組だった筈のもう一人が、
隠れていた物陰から姿を現した。


やはり背が高く、糸を引くような目をした
穏やかそうな顔の男である。


「いやお恥ずかしい、
私はこういうのはあまり得意ではないのでね。」


真田は苦笑して見せた。


「本日着任いたしました
天野正道であります。」


天野は上官である進士に対して
敬礼して挨拶する。


「地球防衛軍日本支部、
最高責任者、進士直道です。」


「特務官の真田豊和さなだとよかずです、
主に交渉を担当しています。」


真田は天野に握手を求め、
天野はそれに応じる。


「我々の組織は
非常識な人間ばかりなので、
常識のある方は大変助かります。」


「さっきも同じことを言われました」


「でしょうね」


真田は常に笑みを浮かべているように見えるが、
おそらくはこういう顔なのであろう。


「交渉と言うのは、
敵対勢力である異世界住人達との交渉でしょうか?」


「いえいえ、どちらかと言うと
国内関係者との交渉ですね」


「真田殿はな、
こう見えてこの組織随一の常識人だからな」


「ここの非常識な考えを、
さも常識的なことのように語って
相手と交渉する手腕は見事なものだぞ」


「随分、微妙な褒められ方ですね」


真田は再び苦笑した。


-


予想外の結末に賭場は大荒れであった。


「司令官とか、超大穴じゃねぇかよ!」
「ふざんけんな!このタコイカ!」
「そもそも司令官なんて
賭けの対象になってねぇじゃねぇか」
「こんなん無効だろ!」


対応に追われる三下チンピラコンビ。


「司令官は『その他』だな」
「『その他』だぁ?そりゃ大雑把過ぎんだろ!」
「金返せー!」


荒れに荒れていたるところで
乱闘騒ぎがはじまるが、
ここではいつものことであった。


怒号、罵声、喧騒、暴力。
すべてがここでは日常のこと。
後に天野はこの二人が
多古と伊香という名前で、
タコ・イカコンビと
ここでは呼ばれていることを知る。











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