非人道的地球防衛軍とゾンビ兵

ウロノロムロ

『チーム色道』世話役、藤彩香

巨大モニターに映し出される逃亡犯の男は
基地内を走っている。


目の前に『チーム色道』の世話役を名乗る
藤彩香が現れると、
男は慌てて立ち止まる。


美しく気品溢れる佇まい。
まるで光輝くオーラを
放っているかのような美しさ。
男も思わず立ち止まって見惚れてしまう。


「へぇ、あんたやるじゃないか」


「あんたにこんなことする度胸があるだなんて、
あたしゃあんたのこと見直しちまったよ。」


男とてこの組織に居る以上、
『チーム色道』の姐さんを知らないはずがなかった。


その色仕掛けを使ったやり方も
十分に承知している。


だが、そんなことを頭で分かっていても、
それすらも凌駕して理性を失わせる魅力が
彼女にはあった。


心臓の鼓動が早くなり、高揚し、
興奮しているのが、男は自分でもわかった。
体は熱く、頬は紅潮し、
口の中はからからに乾いていた。


「チ、チ、『チーム色道』の
姐さんじゃねぇか、そこをどいてくんな」


彼はそういうのが精一杯であった。
女は潤んだ瞳で逃亡犯の目を見つめ、
体が密着するぐらいに距離を縮めた。


「なんだい、つれないことを言うじゃないか」


「あたしゃあんたについて行こうと思って、
ここでこうして待ってたんだよ」


「あたしだっていつまでも
こんなところに居たい訳じゃないんだよ」


「お願いだよ、後生だから、
あたしも一緒に連れて行っておくれよ」


耳元で囁くそのせつない声、
距離が近いからこそわかるその甘美な匂い。


そして、触れるか触れないかの
ぎりぎりのところで伝わってくる
相手のぬくもり。


男の心臓の鼓動は激しく乱れ、
過呼吸で息が出来なくなるのではないかと
思われる程だった。


『だめだ、
この女の言っていることはすべて出鱈目だ、
信じちゃいけない、信じちゃいけない』


男は必死で自分に言い聞かせたが、
体はこの上なく熱く硬く
反応してしまっている。


『これがこの女のやり方だ、
すべては嘘、すべて罠だ!』


何度も繰り返し自分に言い聞かせるが、
目の前の女に視覚、嗅覚、聴覚、
体温のすべてを奪われ、
男の脳の奥は焼きついて思考停止目前であった。


「もちろん、一緒に連れていってくれたら……」


「あんたの言うことならなんでも聞くよ」


「なんだったら一緒に
夫婦になったって構わないさ」


「あたしだってあんたのことは
ずっと気にかけていたんだから」


男の頭はもはや爆発寸前であった。


『確かにたまに会うと
俺に気のあるよう素振りで、
憂いを含んだ眼差しでこちらを見ていた』


『だが、
この女はここいる男全員にそれをやっている、
それもわかっている』


男の心と体の葛藤は限界を迎えつつあった。


「あたしのこと、好きにしていいんだよ、
あんたの好きなように、好きなだけ……」


男は生唾をゴクリと飲み込む。
遂に我慢の限界を突破した。


「あぁあぁあぁぁぁぁぁぁぁぁーーー」


男は頭を抱えて絶叫する。
女はこの瞬間勝ちを確信した。


しかし男は女を突き放し、
持ち歩いているナイフを取り出し、
自らの左足を何度か刺した。


ナイフが刺さる度に激痛で声をあげる男。


いや男から逃亡犯に戻った瞬間でもある。
左足からは血が流れ落ちる。


「驚いたねぇ、
あんたのこと本当に見直したよ」


「まさか、あんたに
そんな根性があるとは思ってなかったからね」


女も、女から『チーム色道』の藤彩香に戻っていた。


「あたしの魅了で散漫になった意識を、
痛みで取り戻して、
あたしのコントロールから逃れるとは、
たいしたもんじゃないかい」


「あたしの魅了が通じない相手は
ここの司令官ぐらいなもんなんだけどね」


「姐さんのやり口は知ってたからな、
それでも相当キツかったぜ、
もうちょいで落ちるとこだった」


「ただね、
足ってのはまずかったんじゃないかい?
逃げ足って言うぐらいだからね、
逃げるには足は大事だろ。」


「動きが鈍ったあんたなら、
力づくでも仕留められるさね」


姐さんが手で合図をすると
『チーム色道』の女衆が物陰から
瞬時に姿を現す。
上半身ビキニにホットパンツレベルで
露出度の高い女衆は
機関銃や日本刀やらの獲物を
その手にしている。


「さすが姐さんだぜ!
胸の谷間の一つも見せずに
男をたぶらかすなんて、
あたい達には到底真似出来っこねえぜ!」


血気盛んな女衆の準備は万全のようだ。


「残念だね、
あんたもあたしと夢を見ていたほうが、
幸せだったろうに」


芝居が終わってなおも、
さも相手に未練があるかのように、
相手の心に言葉の楔を打つ。


次の機会の為に、
その真偽の境界線を曖昧に不明瞭にしていく、
藤彩香の常套手段である。


「あんた達、やっちまいな」


姐さんが再び合図を出し、
機関銃の引き金が引かれようとした時、
逃亡犯は煙幕弾を地面に叩きつける。
辺り一面が煙幕で隠され、視界が奪われる。
煙幕の中、機関銃が乱射される。


「お止め!同士討ちになる」


姐さんの声で銃声は止む。


「生憎俺は敵地潜入のスペシャリストでね、
窮地からの脱出はお手のもんさ」


逃亡犯はそう言い残すと、
足音だけを残して去って行った。


「ちっ、少し舐めて掛かっちまったかね」


「あんた達、追うよ!」


逃亡犯は『チーム色道』をかわし、
逃走を続ける。


-


モニターには銃を構えた女衆の姿が映る。


「生死は問わないとは言え、
基本は生け捕りでしょう。
基地内でむやみに機関銃乱射して
大丈夫なんですか?」


疑問を抱く天野。


「大丈夫、大丈夫ー、
『ドクターX』からの技術供与で
ここの再生医療はすごいことになってるからねー、
致命傷ぐらいじゃ死なないよー」


「ただちょっと即死だとまずいからねー」


「だから基本はみな脳を守るヘルメットと
心臓を中心とした胸アーマーという装備で、
そこ以外は割と軽装なんだよねー」


「『チーム色道』のお姉さん達は
露出度高いからしてないけどねー」


「胸の谷間と肌の露出は
彼女達のアイデンティティーだから仕方ないよねー」











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