非人道的地球防衛軍とゾンビ兵

ウロノロムロ

祭りイベント開催中!

雲ひとつない青空。
運動会をやるには
ちょうどよいぐらいの天候である。


一行が敷地内の居住区画から
施設区画に移動した時、
突如としてサイレンが鳴り響く。


「敵襲?」


警報に咄嗟に反応する天野。
しかしなぜか施設内からは
大歓声が湧き起こっている。


「いや、この音は『祭り』だな。
余興のようなものだ。」


「天野殿はちょうどよい時に
来られようだな。」


「祭りだー、祭りだー」


居住区から施設内に向かって
兵達が慌ただしく走っていく。


それ以外の兵もなにやら集まりはじめている。


施設外壁にある指示連絡用の巨大モニターに
基地内の映像が表示されると、音声が流れる。


「S区画のプラチナカードが
何者かによって
持ち出される事案が発生しました。
犯人は未だ逃走中。


本件はただいまを持って
第21回逃亡者捕獲イベントとしてこれを認定、
イベントの開催をここに宣言いたします。


総員は直ちに犯人の確保にあたってください。


なお、犯人確保にあたり
その生死は問いませんが、
報酬には影響がありまますのでご注意ください。


その他は通常のイベントルールに則るものとします。


以上、各員の健闘を祈ります。」


巨大モニターには
基地内部を走る逃亡犯の姿が映っている。




「一体これはなんなのでしょうか?」


困惑した顔の天野の問いに、
財前女史は答える。


「厳重なセキュリティ体制のこの基地にも、
一か所だけ警備がザルになっている部屋があってだな。


S区画の一室には鍵もかかっておらず、
アナログなダイヤル式の金庫だけが置かれている。


根気よくダイヤルを回し続ければ
そのうち開くような代物だ。


まぁ当然わざと手薄にしてるのだが。」


「その金庫の中には
人一人が一生遊んで暮らせるぐらいの金が
自由に使えるプラチナカードが入っていて、
そのカードを盗み出した窃盗犯を
生け捕りにした者には、
カードの額の一割が報酬として与えられる、
死亡の場合はその十分の一が貰える。


これが祭りのだいたいのルールだな。」


「豪華賞品がかかっているからねぇ、
逃げる方も捕まえる方も必死だよねぇ」


「なぜわざわざ、
そんな盗んでくださいと
言わんばかりの状況をつくって、
こんなことを?」


「知っての通り、
ここは反社会的勢力や社会不適合者、
無法者やアウトローを
兵力とした寄せ集め集団だ。


もともと反体制側の人間だったものが、
素直に体制側に与する訳もなく、
入隊前に一応本人の同意を得てはいるが、
入隊した者には洗脳や人格矯正と言った
再教育プログラムを徹底的に施している。


もちろん元正規軍の人間は対象外だがな。」


『もともとグレーな組織だという
噂は聞いていたが、
ここまでとは思っていなかった』


というのが天野の本音であろう。


「事前の同意も
他に選択肢がないような状況で
サインさせるんだけどねぇ」


「そりゃ
人権擁護団体にバレたら
エライことになるよねぇ」


「しかしだ、
徹底的な洗脳、
人格矯正の再教育プログラムを施してもなお、
己のことだけに執着して、
私利私欲を捨てきれずに、
洗脳に打ち勝つ者がやはりいるのだよ。」


「S区のアナログ式ダイヤル金庫は、
そういう者達をあぶりだすための、
踏み絵のようなものなのだよ。」


「しかし、
これ普通に考えれば夜間に犯行に及んだほうが
逃走しやすいように思えますが?」


「ここの夜間自動警備システムは
相当にヤバイからな。」


「夜間警備員さんが何人も脱獄囚…
もとい侵入者に間違われて死んでるよねぇ」


「自動だから事故とか気にせず
ガンガンレーザー光線乱射してくるからな。」


「天野殿も夜間出歩かれる際は
気をつけられることだ。」


-


「しかし報酬が豪華ですね。
一生遊んで暮れせるだけの額の
十分の一がいくらなのかはわかりませんが。
さっき21回目とアナウンスしていましたが、
コストも相当のものでは?」


「イベント報酬は
退役時に渡されることになっているからな。
ここでの生活で
極端な貧富の差が生まれてしまっては
ロクなことにはならんだろうし。


まぁ、そもそも今までここで
退役まで無事勤め上げた者はいないから、
報酬が支払われたことは一度もないがな。」


「平和になった暁には金ぐらい
いくらでも払ってやろうというのが
司令官殿のお考えなのだよ。


ただその頃には紙幣の価値は
紙屑同然になっているかもしれないが。」


「それではまるで茶番ではないですか」


「いくら彼らといえども
さすがに茶番に気づくでしょう。


彼らの場合、
高額報酬が手に入るからこそ
命を懸けて参加するのでしょうし。」


「そうかもしれんが。


無法者の血が騒ぐのであろうよ。


奴らもこんなところに閉じ込められて
鬱憤がたまっているだろうし。


だから余興、
もしくはレクリエーションなのだよ。」


「運動会でもいいよねぇ」




天野は先ほどから感じていた
違和感の原因を理解した。


天野は今まで、この組織には
反社会的、反体制の人間が所属しているだけで、
組織自体は真っ当な組織だと思っていた。


だが本当はこの組織自体が反社会的なのだ。


そして驚くべきは反社会的でありながら、
社会を守る体制側の組織として成立していること。


この構造をつくり上げた司令官の
進士直道しんしなおみちとはどのような人物なのか、
天野は好奇心を抱かざるを得なかった。




兵達が集まっていた場所では
即興で賭場が開かれている。


先ほど天野が絡まれた
ステテコ姿に腹巻をした禿と
アロハシャツにサングラス、リーゼントの
三下チンピラ風な二人は賭場を仕切っていた。


「さぁさぁ!張った!張った!
今回逃亡犯を捕まえるのはどこの誰だ?」


「今までは『チーム外道』のリーダー
石動不動いするぎふどう七回が過去最高だ」
「今回のオッズは……」


三下チンピラ風二人組が大声をあげると、
兵達は思い思いの人物に賭けた。


「今回こそは『チーム色道』の彩姐さんに一本だ!」


「ここは手堅く『チーム外道』の親父に三本!」


確かにチンピラ二人組も
その賭場に群がる兵達も活き活きしている。


「確かにこれはレクリエーションですね」


「しかし細かいことを言いますが、賭け事は?」


「『祭り』だしな、多少は目をつぶるさ」


「レクリエーションだしねー」











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