【胸糞注意】な勇者請負人、そして神々、時々ドラゴン

ウロノロムロ

無限の分岐点


巨大ゴーレムの胸部、
コックピットをなんとか
無理矢理こじ開ける勇者。


やはりそこには
操縦席があるだけで
人の、操縦者の姿はなかった。


自律式AIなのか
それとも霊魂による
巨大ゴーレムなのか、
そこまでは専門家ではない
勇者に分かる筈はない。




一応調べるために
ゴーレムのコックピットに潜り込み、
そのシートに座る勇者。


『へぇ、こんな風になってんだな』


子供の頃昔見たアニメ、
それに出て来た巨大ロボット、
勇者も少し童心に帰った気分。


『どうせ、もう動かないだろ』


そう思って
コックピットにあるボタンを
とにかく押しまくる勇者だったが、
やはり反応はない。


『やはり、霊魂により
ゴーレム化していたのか?』




すると突然コックピットの中で
赤い照明が激しく点滅しはじめ
勇者を照らし出す。


サイレンのような音と
何と言っているのかは聞き取れないが
耳慣れない言語が何かを伝える。


おそらくは何かの警報であろうことは、
この緊迫感ある状況からして間違いない。


勇者には嫌な予感しかしない。


『やべぇ、もしかして、
自爆スイッチ押したか?』


勇者がコックピットから
外に飛び出そうとすると、
それまでは開いていた
コックピットのハッチが勝手に閉まる。


『こいつ、閉じ込めやがったっ!』




それからしばらくすると
緑の巨大ゴーレムは
大爆発を起こす。


それはコロニー全体を
巻き込む大爆発で、
自爆スイッチのよるものなのか、
機体が完全にショートして
機能停止したため、
動力源である核融合炉が
暴走を起こして爆発したのかは
定かではない。


-


宇宙に浮かぶ球体。


その半透明の完全密封された
球体シールドの中には
勇者と気絶したドン・ファンがいる。


巨大ゴーレムのコックピットに
閉じ込められた勇者は
転移を使ってコックピットを脱出、
すぐにドン・ファンを拾うと、
球体シールドを展開して
そのまま宇宙へと転移して
なんとか難を逃れていた。


とは言え、
この球体シールドの中
空気などは限られたわずかしかなく
すぐに酸欠になることは明白。


いやそれよりも
球体シールドを展開している
勇者の魔力が尽きるのが先か。


もう勇者達が生き残るには
元の世界まで転移して戻るしかない。


もしここが勇者が仮説する
人間世界の未来の
パラレルワールドであるのなら、
元の世界に戻ろうと思えば
ただ異世界間を
転移するのとは訳が違う、
時間を越えなくてはならない。


時空転移は中々の大技であるため、
多額のペナルティポイントが発生するのは
もはや疑いようがなく、
勇者としても憂鬱で仕方がない。


しかも二人分。


『こいつ、このまま
ここに置いて行こうかな』


そんなことを考えなくもない。


-


勇者の目の前には
青い球体、地球が見える。


この地球は、勇者が元居た
人間世界の地球なのであろうか。


コロニーがあるぐらいなので
勇者が居た時代より
未来なのは間違いないだろうが。


果たして未来の地球に
人類はまだ生きているのか、
それともこのコロニー同様
もはや人が住めぬ地となっているのか。




勇者はこうして異世界を渡り歩き
流浪するようになってから、
異世界とは、
地球もしくは人類が歴史の中で
分岐し続けて来た
パラレルワールドであると
考えるようになっていた。


勇者が元居た人間世界は
物質至上主義文明に
極振りした地球と人類の姿であり、
ファンタジー世界は
地球と人類が精神至上主義文明に
極振りした姿であると。


その他にも、その瞬間瞬間で
地球と人類は
無限に分岐をし続けており
パラレルワールドを生み出し続けている、
それが無数に存在する
異世界の正体であろうと
思って来たのだ。




しかし今回の件で、
勇者にはまた一つ
考えることが増えた。


パラレルワールド以外に
人間が想像した
架空の空想の産物、
それもまた異世界として
存在しているのではないか、
そう思えてならない。


神々への信仰と同じで
人間が生み出した想像の異世界、
それを支持する人間がいる限り
それは異世界として存在する、
勇者にはなんとなく
そんな気がしているのだ。


それでは、数多あまたの異世界が
膨張するかの如く増え続けて行くのも
納得が出来るというものだ。


『そりゃぁ、勇者も
人手不足になる訳だ』


勇者は眼前に見える
青く美しい星、
地球を眺め続ける。











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