本ノ森

真名 蓮

守り(森)人

あれから3日。結翔は、毎日のように『森本』に通っている。
詞葉さんが教えてくれたあの森は、現実に存在していた。幻覚じゃないのが未だ信じきれない。そんなことよりも面白い本に出会いたい! とか詞葉さんに会いたいそして本のことを教えてもらいたい、そんなことが頭に支配していた。
詞葉さん曰く、あの森は詞葉さんが強く念じない限り開かないらしい。なので普通に本屋に入店できる。
「いらっしゃいませー」
この声に対してなにも思わなくなってきた。
僕は「雲の魚」を書いた映画監督のデビュー作とかを漁っていた。
「おっ、少年。また来てたか」
響きのいい低音のボイス、店長さんだ。
「はい、気に入った作家さんがいるので」
「そうか、見つかるといいな」
手伝ってくれないのか……と心の中でボヤいてから再び漁る。
結翔は、お目当てを見つけてレジに向かう。
「あ、結翔くん。お目当ては見つかったみたいだね」
「はい」
結翔が手にしていたのは、「遥か彼方の声」。
「お、デビュー作。面白いと思うけど、うーん結翔くん好きかな?」
「まだ読んでないのでなんとも言えないです」
「そうだね」
ニッコリと笑って、詞葉さんは会計事務をこなす。

結翔にとってこの本屋に来ること、詞葉に会うことは楽しみで生きがいのようなものになりつつあった。

その翌日。森が開いていた。
「詞葉さん、いるのかな」
結翔は好奇心にそそられて、森に踏み入った。
真っ直ぐ歩き続けると、あの大樹があった。
「詞葉さんいないのかな?」


動くな…………!」
冷たい声だ。でも聞いたことのある声だ。
振り返ると、詞葉さんが剣を片手に立っていた。
詞葉さんは、中世のRPGの格好みたいなのを身につけていた。握っている剣は僕の首の近くで寸止めされていた。
「ぼ、僕です。詞葉さん」



っ!」
詞葉さんは剣を収めて、その場にゆっくり座った。否、崩れ落ちた。
「こんな姿、見られたくなかった」
あわわしながら、僕は詞葉さんを慰めた。
「大丈夫ですよ……! 僕しか見てないです!」
(うん……君だからだよ)
詞葉の呟きは、空気にすぐ吸い込まれて消えた。その声は、結翔の鼓膜に届いていない。
「? 何か言いました?」
「いや、何も言ってないよ。 そうだ、私の事とかさこの森の事、教えないとね」
「は、はい……」
詞葉さんは、この森と自身のことについて語り始めた。

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