本ノ森

真名 蓮

怒りの森

 「うるさいなぁ」
 ドアの前に立っていたのは母だった。
 「ちょっと来なさい」
 「なんで?」
 母は、眉を寄せる。眉間のシワがうっすらと目立った。
親の怒りを無視して、ドアを閉めようとするが、母の足に止められる。
「結翔! 進路どうすんの?」
 「知るか、俺が勝手に決める。俺の自由だ」
 「はぁ!? 誰が学費払ってると思ってんの?」
 「父さん」
 その正論に、母は息を詰まらせた。
 「そ、そうだけど……こうやって暮らせているのは、誰のおかげ?」
 「父さん」
 これまた正論である。正論であるが故に、厄介だ。話が進んでいない。
 結翔(主人公)の父は、単身赴任でこの家には、長いこと居ない。生活費の半分は、母の稼ぎもあるが、結翔にとって母の稼ぎは趣味のための調達程度にしか見ていないのだ。
 「生活の半分は、私の稼ぎもあるの! それに親がこの将来を案ずるのは当たり前よ!!」
正論と正論が、ぶつかり合う。両者1歩も引かない攻防戦。
リビングでその攻防の模様を耳にしていた、詠海ははぁとため息つきながら、あと1時間は続きそうと悟っていた。
 「夢もないのに……学部選んで大学選べなんで、無茶だろ! それこそ人生を棒に振ることだ!」
 母は、黙って俺の目を睨んでいた。
 「ある程度有名な大学なら……なんて考えを持ってるのが、将来を案じている? だ、ふざけんな!」
 「じゃぁ、夢ないから、進学もせず遊び回って人生を棒に振るのか!?」
「俺の考えが1ミリもわからないなら、口挟むなよ」
「分かったわ、ちょっと待ってなさい」
 しばらくして、手元に1枚の薄い紙が渡された。
「結翔がそういうなら、見つけた夢と行きたい大学をここに書いて見せなさい」
「分かった、考えとく」
その言葉を境に家の中はとても静かになった。
結翔は、再び「雲の魚」を読んでいた。あの店員さんに感想を伝えるために。

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