戦場を駆ける欠陥アンドロイドの女神は劣等生と2人で戦うようです

颯★改

劣等生は裏切る様です。

「取り敢えず本部に連絡取れるか?」
欠陥品から勝利の女神に成ったアンドロイドのニケに聞いてみる。
「マスターが許可を出してくれれば行けるぞ」
「そんな事まで許可しないといけないのか・・・」
「そう言うな。
お偉いさん達は何よりも自分の身が大切なのさ」
「ハハッ、違ぇねぇ!
よし、許可する!」
「OK」
ニケはそう言うと耳に手を当て、話し始めた。


所変わって作戦本部の会議室。
此処では先程行われた戦闘のデータ収集とその解析をしていた。
「────我が軍が放ったドローンの映像と密偵の報告によれば、先の戦闘で敵軍は新型の戦車を試験運用していた事が解りました」
前にある大型スクリーンにはリゼル達を強襲した戦車が映し出されている。
それを指示棒を使って丸メガネの女士官が解析する。
「新型ぁ?
どう見たって第2時世界大戦時に使われていた旧型オールドタイプじゃねぇか」
まだ若い大佐が説明に口を挟む。
丸メガネはそれに構わず説明を続ける。
「こちらをご覧ください」
スクリーンには戦車の主砲がアップされた画像が映る。
「この戦車の主砲は────」
丸メガネが説明をしようとした瞬間、 
バタンッ!と大きな音を立てて、会議室の扉が勢いよく開いた。
「どうした!会議中だぞ!」
丸メガネは説明を中断されたのが気に食わないのか、扉を開けた若い下仕官を叱咤する。
「申し訳ありません!
たった今秘匿通信が入りまして、すぐにお知らせしなければと思い!」 
「解った、その無礼、許そう」
「ご配慮、感謝します!」 
「で、誰からだ?」
「先の戦闘で行方不明になった欠陥アンドロイドと『万年反抗期』リゼルからです!」
「何?まだ生き残っていたのか?」
「アンドロイドだけが使える秘匿回線から連絡してきた為、確かな情報です!」
「奴等はなんと?」
「音声ログ、再生します!」
下仕官がスイッチを入れるとノイズ混じりにニケの声が再生される。
『────サザッ・・・作戦本部、聞こえますか?
此方No.・・・E。
今、・・・た・・・部隊は全滅。
生き残っているのは私とリゼ・・・けだ。
至急、救援求む。
繰り返す、至急、救援求む』
「音声はここまでです」
「チッ、大人しく野垂れ死んでおけば良いものを」
丸メガネが悪態をとる。
「どう致しますか?」
「無視しろ、戦力にもならない奴等に構っている暇などない」
「ハッ!」
下仕官は敬礼をして帰っていった。
「さて、敵の主砲の話だが────」











「どうだ?」
「応答無し、やっぱり助けてはくれない様だな」
「はぁ、やっぱりか」
何となく解ってはいたが、目の前に叩きつけられると厳しいものがあるな。
「どうするんだ?
敵に投降か?」
「まさか、まずは武器を集めよう。
幸い武器は大量にある」
周りを見ると多くの仲間の亡骸と共に大量のライフルやマシンガンが落ちている。
「戦争をするのか?」
ニケが不安げに聞いてくる。
「いいや、虐殺だよ」
リゼルはニヤッと笑みを浮かべる。
「勝てる見込みがあるなら良いけど、さすがに2人だけではどうすることも出来ないんじゃないか?」
「いいや、出来る。
アレがあればな」
「アレ?」
ニケが怪訝な顔をする。
「そう、軍が新しく試験運用した人型機動兵器『クゥエイク』」
「何だそれは?」
「俺のいた部隊で噂になっていた奴なんだがな、なんでも人型のロボットで戦車砲を幾ら食らってもビクともしないらしい。
オマケにオプションを付ければスナイプだって強襲だってなんでもこなせる。
動力源は『束の間の休息』時代に廃止された
“ゲンパツ”?を小型化した奴で半永久的に動き続けることができるのだとよ」
「そりゃ凄いが、その噂は信用できるのか?」
「バッチリ。
知り合いの情報通から裏は取っている」
リゼルは背負っていたリュックから設計図と計画案、試験日などの資料を出し、ニケに渡した。
「確かに信用できるようだな、幸い試験場もここから近い。
でも警備が厳重だ、どうするんだ?」
「安心しろ、考えがある」
ニヤリ、と笑ってみせる。
「へぇ!リゼルはよく考えているのだな!」
ニケは感嘆の声を漏らす。
リゼルは少し照れながら
「良いか、『クゥエイク』を乗せたトラックは間違いなくここを通る。
何故なら此処は敵に見つかる心配がないし、もし何かあっても自分達が有利に戦えるからだ」
コンパクトスクリーンにマップを表示させニケに見せる。
「有利に戦えるのなら尚更勝ち目はないじゃないか」
「あるんだな、それが」
「えぇい、もったいぶらずに話せ!」
ニケがリゼルを小突く。
「わぁーたよ、良いか?この道は狭くて一本道だから先回りされたらどうしようも無くなってしまう。
奴等は己の有利さ故に慢心している。
慢心している奴等は不測の事態に弱いから急襲を受けたら一溜りも無いだろう」
「でも奴等も軍人だ。そう簡単に上手くいくか?」
「『クゥエイク』を警備しているのは俺らの居た軍だぞ?
こっそり紛れ込んでもバレないさ」
「それもそうだ。
でもどうやってあの厳重な警備を掻い潜る?」
「迷ったしたフリでもしておけ。
此処で戦闘が起こったことは奴等も知ってるはずだ」
「ふむ、抜けは無さそうだな」
「無さそう、じゃなくて無いんだよ」
リゼルは自信たっぷりに頷いて見せた。




ドゥルルルルルルルルルル・・・・・・
ホバートラックのエンジン音を聞きながら『クゥエイク』輸送班はホバートラックの周辺警備に当たっていた。
「ふわぁ〜ぁ。暇だな」
隣に居たアンドレが欠伸を1つ。
「おい、しっかりしろ、ちゃんとしないと隊長にどやされるぞ」
「はいはい」
「ったく、てっきと〜なんだから」
「そうは言うがな、こんなでっかい箱警備して何になるんだよ」
「知るか」
「だっよなぁ」
アンドレがふわぁ、また1つと欠伸した瞬間、
急にガクッと身体がよろけた。
「何だ!敵襲か!」
隊長が叫んだ途端、身が引き締まる。
空気がピリッとしたものに変わり、舌の根が渇く。
「違います!我が軍の兵士です!」
ホバートラックの運転手がそう言った途端、引き締まった空気が一気に緩くなる。
「何だよ、驚かせやがって」
アンドレがへらへらした態度を取ったその時、上から声が聞こえた。
「否、敵襲で合ってるぜ」
「!?」
驚いて上を見ると
「『万年反抗期』!」
ホバートラックのサンルーフから
両手にサブマシンガンを持った男と白く、とても美しい女が覗いていた。
「何のつもりだ貴様ッ!!!」
隊長が厳しく弾劾する。
「お前らに恨みは無いが、暫く大人しくしてもらうぜ」
リゼルがそう言うと、後ろにいた女が何かを投げてきた。 
その何かに気づいた隊長が叫ぶ。
「いかんッ!それは・・・」
その言葉を聞こうとした瞬間、
キィィィィン!!!!
と甲高い音と共に視界が真っ白になってしまい、何が何だかわからなくなってしまった。
   



「やっぱり練度が低いとこれで充分だな」
たった一瞬で制圧出来たトラックの中でリゼルは誰に言うでもなく呟いた。
床には感覚を奪われた警備班がロープに縛られて転がっていた。
「リゼルは凄いな!誰も傷つけることなくトラックを制圧するなんて!」
ニケが褒めてくれる。
「ハハッ、ありがとう。
追手が来る前にお目当ての物を頂いちまおう」
「そうだな」
と、箱を開けようとしたのは良いが・・・
「まぁ、こうなるわな」
当然の如く箱にはセキュリティがかけられていた。
「どうした?」
何事かとニケがこっちを覗き込んでくる。
「いやさ、箱にセキュリティロックがかけられんだよ」 
「何だ、そんな事なら私に任せろ」
「解除出来るのか?」
「欠陥品でも一応アンドロイドだからな、こんな事朝飯前よ」
自慢気に胸を張るニケ。
「よし、頼む」
「任せろ」
ニケはそう言うなり箱に手を当てセキュリティのタイプを解析した。
「ふむ、これなら簡単に解除出来るぞ」
「流石ニケだ」
「褒めるな、照れちゃうだろ」
褒められたニケは頬をほんのり赤くしてリゼルを小突く。
うん、やっぱりアンドロイドっぽく無い。
こっそり心の中で思ったのはリゼルだけの秘密だ。
「解除、始めるぞ」
ニケ背中から無数のケーブルを出し、箱を包む。
包んでからたった数秒で箱は開いた。
開いた箱の中には白を基調としたカラーリングで、所々に黄色いラインが入っている巨人がまるで新しい主を迎えるかのようにこうべを垂れて膝立ちした状態でそこに居た。
巨人の姿はまるで西洋鎧を現代風にアレンジした様で何処か天使を彷彿とさせる形をしていた。
天使の後光の様なものはそこから強力な磁場を形成し磁石の反作用と同じ原理で重力が無いかのように飛び回ることが出来る。
『クゥエイク』の頭の天使の輪は索敵レーダーで半径10kmまで索敵出来る。
「はい、終わり」
ケーブルを背中に収納し笑顔でこっちを向くニケ。
「おぉ、お疲れ様」
ニケに労いの言葉をかけたその瞬間、
ビィィィィィィィッッッッ!!!!!!
と耳障りなアラームが大音量で流れ出した。
「ッ!?何があった!」
急いでニケに確認をとる。
「え?何?聞こえない!」
「な、に、が、あっ、た!」
「どっか解除してないところがあったみたい」
テヘッと可愛く舌を出すニケ。
「このポンコツが!」
「ッ!?なんて酷いことを言うんだ君は!」
どうやらポンコツは禁句だったらしくポカポカと背中を叩いてくる。
「だぁ〜、もう分かったよ!ニケはポンコツじゃない!」
「分かれば良いんだ」
「ドジっ子だ!」
「分かってナイっ!?」
「奴等が来る前にさっさとずらかるぞ!」
「私はドジっ子でもない!」
「言ってる場合か!
『クゥエイク』に乗っちまえばこっちのもんだ!
コックピットを開けてくれ!
今度はミスすんなよ!」
「分かった!」
ニケはまたケーブルを背中から出し、『クゥエイク』のコックピットを数秒で開けた。
「今度は抜かりないよ!」
「サンキュ!」
早速ニケと一緒に『クゥエイク』のコックピットに乗り込み『クゥエイク』を起動させる。
ヘッドギアが降りてリゼルの頭を包むと
ウィィィィィィィィィィィィン、駆動音が密室を支配する。
駆動音だけしか聞こえないはずのコックピットで確かに聞こえた。
それはニケの声で、確かに聞こえた。



























────おかえりなさい我が主マイロード

コメント

  • 颯★改

    作中の「束の間の休息」時代は現代です。

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