やがて忘却の川岸で
寒いところの話 1
寒いとか…
暑いとか…
もう僕にはわからない。
痛いとか…
眠いとか…
それもわからない。
味も…たとえそれが愛する人が作るものだろうと。
僕にはわからない。
生きれば、生きるほど。
知識と経験は後を追いかけてくるけれど…
僕はだんだん人間から遠ざかっていく。
それが僕の罪。
それが僕の罰。
「…とは言っても、さすがに寒さは堪えるな…。」
冬山の中、僕はとぼとぼ山道を歩き回っていた。
いや、山道とも言えないね、あたり一面真っ白だし、右も下も左もわからなくなってしまった…。
吹き付ける吹雪も一層勢いを増していくし、方角もよくわからない。
うーん…どうしよう…
死ぬわけではない分、死への恐怖は全然ないけれど、体がだいぶ言うことを聞かない。
手も指を曲げることすら出来ない。
きっと凍傷の症状の重いものになってしまったのだろう…さっきまで青白かった肌が黒くなり始めている。
「はぁ……疲れた……こういう時に寝れたらいいのにな……」
ついに足が動かなくなり、僕はその場にうつ伏せに倒れ込んだ。
まるで布団に顔を埋めたみたいな感覚に、一周回って気持ち良さを感じる。
仕方ない…しばらく吹雪が止むまでボーッとしていよう…
僕は静かに目を閉じて、時間が過ぎるのをひたすら待つことにした。
ガザっ…ザッ…ザッ…
誰かの足音が聞こえた。
多分、生き物の足音だろう。
ザッ…ザッ……
足音が急に止まった。
何か見つけたのかもしれない。
「え、まさか………えぇ!?」
ザッザッザッザッザッ!!
凄い勢いで足音がこちらに向かってくる、もしかしたら僕のほうに何か見つけたのかもしれない。
どちらにしろ、まだ体は動きそうにないから動かないけど…見つかるといいね。
と思った時、足音は僕のすぐ隣でピタッと止まり、僕の体の上の雪を手早く退けた。
あー…何かは僕の方だったのか……
「ちょ、あなた大丈夫ですか!?ねぇ!」
ぐるっと仰向けにされて、強い日差しがまぶた越しに目に突き刺さる。
日差しがあると言うことは、日が昇ったということだ。良かった、吹雪止んでて。
「返事がない…脈もない…堅いし冷たい…もしかしてもうダメだったのかなぁ…。」
いや、ダメってわけじゃないよ。
単に体が固まってるだけだし、元から僕は死んでるし…と言っても今は動けないし、言葉で伝えることも、目を開けることもできないけど…
「…どうしよう…置いてったらダメだよな.ひとまず何処かに運ばないと、よいしょ。」
声の主は僕のガチガチになった体を担いで、何処かに向かって歩き始めた。
随分よろついていたけど、しばらく担がれているとドアを開ける音が聞こえて、暖かい暖炉の音が聞こえた。
どうやら、家に着いたらしい。
「ふぅ…疲れた…ちょっと待ってろよ、今穴を掘ってきてあげるから。」
どうやら僕の墓穴を掘ってくれるらしい。
声の主は僕を暖炉の近くに置いて、外に向かってしまった。
良かった、暖炉の火の近くに置かれて…
これなら体が動かせるようになる。
しばらく時間を置いて、指から順々に動かしていくと、起き上がれるぐらいには動けるようになった。
まぶたも動いた。
あたりを見渡すと、どうやら僕が運ばれたのは、山小屋のようだ。
僕が今まで置かれていた場所は、ベッドの上。ちなみにまだ家主は戻ってきていない。
立ち上がって、壁に貼ってある地図を確認すると、目的の場所にだいぶ近い場所だった。
これなら、昼のうちに着くことができるだろう。
「はぁ…」
ため息が出てしまう。
その時だ、ガチャリと扉が開いた。
「ただいま、ごめんね遅くなっちゃ…って死体がない!?…ってあなたは誰!?何者!?」
「……。」
あー、めんどくさいことになっちゃった…
仕方ないからいないうちに出て行こうとしたのに…はぁ。
「もしかして死体の人??え、でも完全に死んでたよね?生きてたの?」
「……。」
「しゃ、喋れる…よね?」
「喋れるよ。」
僕が喋ると、その子はびっくりした様子で「死体が喋ったー!?」と言っている。
まぁ、死神だから脈も鼓動もなくても生きられるわけだけど、こうも驚かれるとは思われなかった。
その子はエルフの男性らしい、耳がとんがってたからね。
「もしかして…アンデットだったりする?」
「違うよ…僕はルーア。ただの死神だよ。」
「死神!?アンデットじゃん!じゃあ俺死ぬの?」
「いや、殺さないよ、めんどくさいし。」
第一僕は案内係だ。
そんなことは出来ないし、しない。
怯えきってたエルフだったが、僕がまったく敵意がないことを感じたのか、少し落ち着いた様子で、僕の身なりを確認する。
「もしかして、その軽装で山登ってきたの?ルージアの国境の山脈を?徒歩で?」
「うん。」
「マジか…そりゃ凍傷で倒れるわけだよ。」
一様僕の身なりは上下が白い長袖シャツに黒の長ズボン、上にファー付きの黒いコートがいつもの服装だ。
夏でも冬でも一度も変えたことはない。
「凍傷ではだいぶ世話になったね……おかげでだいぶ良くなった……ありがとう。」
まぁ、次から気をつけることにしよう。
そう思って、扉を開けて出ていこうとすると、「いや、ちょっと待て!?」と体を引っ張られた。
「俺が送ってあげるよ!また倒れると大変だろ?」
「…別にいい。」
「よくない、絶対よくない…というかどこに向かうつもりなんだ?」
「魔女のとこ。」
そう言うと男はあからさまにカエルを潰したような声を出す。
「魔女…って冬の魔女のこと?会ったら殺されるよ?」
「その時はその時だよ…それに僕、死なないし。」
そして僕は扉を開けて、外に出る。
後ろで「ほ、本当に行くの!?なぁ!」って声が聞こえたけど、気にせず歩き出す。
でも、昨日より積もった雪のせいで、足はうまく動かなくて、すぐにうつ伏せに雪に突っ込んだ。
我ながら…すこし…恥ずかしい。
「あーもー!言わんこっちゃない!!近くまで送ってあげるから、家に入れ!準備はできてるから!」
「……。」
もう別にいいとは言えなかった…。
暑いとか…
もう僕にはわからない。
痛いとか…
眠いとか…
それもわからない。
味も…たとえそれが愛する人が作るものだろうと。
僕にはわからない。
生きれば、生きるほど。
知識と経験は後を追いかけてくるけれど…
僕はだんだん人間から遠ざかっていく。
それが僕の罪。
それが僕の罰。
「…とは言っても、さすがに寒さは堪えるな…。」
冬山の中、僕はとぼとぼ山道を歩き回っていた。
いや、山道とも言えないね、あたり一面真っ白だし、右も下も左もわからなくなってしまった…。
吹き付ける吹雪も一層勢いを増していくし、方角もよくわからない。
うーん…どうしよう…
死ぬわけではない分、死への恐怖は全然ないけれど、体がだいぶ言うことを聞かない。
手も指を曲げることすら出来ない。
きっと凍傷の症状の重いものになってしまったのだろう…さっきまで青白かった肌が黒くなり始めている。
「はぁ……疲れた……こういう時に寝れたらいいのにな……」
ついに足が動かなくなり、僕はその場にうつ伏せに倒れ込んだ。
まるで布団に顔を埋めたみたいな感覚に、一周回って気持ち良さを感じる。
仕方ない…しばらく吹雪が止むまでボーッとしていよう…
僕は静かに目を閉じて、時間が過ぎるのをひたすら待つことにした。
ガザっ…ザッ…ザッ…
誰かの足音が聞こえた。
多分、生き物の足音だろう。
ザッ…ザッ……
足音が急に止まった。
何か見つけたのかもしれない。
「え、まさか………えぇ!?」
ザッザッザッザッザッ!!
凄い勢いで足音がこちらに向かってくる、もしかしたら僕のほうに何か見つけたのかもしれない。
どちらにしろ、まだ体は動きそうにないから動かないけど…見つかるといいね。
と思った時、足音は僕のすぐ隣でピタッと止まり、僕の体の上の雪を手早く退けた。
あー…何かは僕の方だったのか……
「ちょ、あなた大丈夫ですか!?ねぇ!」
ぐるっと仰向けにされて、強い日差しがまぶた越しに目に突き刺さる。
日差しがあると言うことは、日が昇ったということだ。良かった、吹雪止んでて。
「返事がない…脈もない…堅いし冷たい…もしかしてもうダメだったのかなぁ…。」
いや、ダメってわけじゃないよ。
単に体が固まってるだけだし、元から僕は死んでるし…と言っても今は動けないし、言葉で伝えることも、目を開けることもできないけど…
「…どうしよう…置いてったらダメだよな.ひとまず何処かに運ばないと、よいしょ。」
声の主は僕のガチガチになった体を担いで、何処かに向かって歩き始めた。
随分よろついていたけど、しばらく担がれているとドアを開ける音が聞こえて、暖かい暖炉の音が聞こえた。
どうやら、家に着いたらしい。
「ふぅ…疲れた…ちょっと待ってろよ、今穴を掘ってきてあげるから。」
どうやら僕の墓穴を掘ってくれるらしい。
声の主は僕を暖炉の近くに置いて、外に向かってしまった。
良かった、暖炉の火の近くに置かれて…
これなら体が動かせるようになる。
しばらく時間を置いて、指から順々に動かしていくと、起き上がれるぐらいには動けるようになった。
まぶたも動いた。
あたりを見渡すと、どうやら僕が運ばれたのは、山小屋のようだ。
僕が今まで置かれていた場所は、ベッドの上。ちなみにまだ家主は戻ってきていない。
立ち上がって、壁に貼ってある地図を確認すると、目的の場所にだいぶ近い場所だった。
これなら、昼のうちに着くことができるだろう。
「はぁ…」
ため息が出てしまう。
その時だ、ガチャリと扉が開いた。
「ただいま、ごめんね遅くなっちゃ…って死体がない!?…ってあなたは誰!?何者!?」
「……。」
あー、めんどくさいことになっちゃった…
仕方ないからいないうちに出て行こうとしたのに…はぁ。
「もしかして死体の人??え、でも完全に死んでたよね?生きてたの?」
「……。」
「しゃ、喋れる…よね?」
「喋れるよ。」
僕が喋ると、その子はびっくりした様子で「死体が喋ったー!?」と言っている。
まぁ、死神だから脈も鼓動もなくても生きられるわけだけど、こうも驚かれるとは思われなかった。
その子はエルフの男性らしい、耳がとんがってたからね。
「もしかして…アンデットだったりする?」
「違うよ…僕はルーア。ただの死神だよ。」
「死神!?アンデットじゃん!じゃあ俺死ぬの?」
「いや、殺さないよ、めんどくさいし。」
第一僕は案内係だ。
そんなことは出来ないし、しない。
怯えきってたエルフだったが、僕がまったく敵意がないことを感じたのか、少し落ち着いた様子で、僕の身なりを確認する。
「もしかして、その軽装で山登ってきたの?ルージアの国境の山脈を?徒歩で?」
「うん。」
「マジか…そりゃ凍傷で倒れるわけだよ。」
一様僕の身なりは上下が白い長袖シャツに黒の長ズボン、上にファー付きの黒いコートがいつもの服装だ。
夏でも冬でも一度も変えたことはない。
「凍傷ではだいぶ世話になったね……おかげでだいぶ良くなった……ありがとう。」
まぁ、次から気をつけることにしよう。
そう思って、扉を開けて出ていこうとすると、「いや、ちょっと待て!?」と体を引っ張られた。
「俺が送ってあげるよ!また倒れると大変だろ?」
「…別にいい。」
「よくない、絶対よくない…というかどこに向かうつもりなんだ?」
「魔女のとこ。」
そう言うと男はあからさまにカエルを潰したような声を出す。
「魔女…って冬の魔女のこと?会ったら殺されるよ?」
「その時はその時だよ…それに僕、死なないし。」
そして僕は扉を開けて、外に出る。
後ろで「ほ、本当に行くの!?なぁ!」って声が聞こえたけど、気にせず歩き出す。
でも、昨日より積もった雪のせいで、足はうまく動かなくて、すぐにうつ伏せに雪に突っ込んだ。
我ながら…すこし…恥ずかしい。
「あーもー!言わんこっちゃない!!近くまで送ってあげるから、家に入れ!準備はできてるから!」
「……。」
もう別にいいとは言えなかった…。
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