3521回目の異世界転生 〜無双人生にも飽き飽きしてきたので目立たぬように生きていきます〜

I.G

10話

「おい! お前ら何やってんだ!!」


そう大声を出して駆け寄ると、石を投げ
ていた村の子供達は揃って逃げていった。


「大丈夫か!?」


身を屈めたままじっとしている
リリィに声をかける。


「血が......あいつら......何てことしや
がる......」


「いい......」


「いいわけないだろ」


──嫌な予感がしたんだ。念のために
タオル持ってきててよかった。


「ほら、傷口見せてみろ」


拒むリリィの腕を無理矢理掴み、
タオルを巻く。


「何でこんな酷いことされてんだ?」


「......」


「オマカさんはこのこと知ってるのか?」


「知るわけないでしょ」


その声は、低く、冷たかった。


「じゃあ、何で言わないんだ」


「言う? あの人のせいでこんな
目に遭ってるのに?」


「......え?」


タオルを巻いていた隼人の腕が
一瞬制止した。


「ど、どういう......」


「パパのせいでいじめられてるのに!
それを言うの!?」


リリィの瞳は潤んでいた。


「な、なんでオマカさんのせいで
お前がいじめられるんだよ」


「......ほんと......あんたって何も
知らないんだね......もういい......」


すっと立ち上がったリリィは、そのまま
隼人の元を去っていった。


その後、家に戻った隼人を待っていたのは、
いつもと変わらない優しく、そして
強いオマカさんだった。


「あら  おかえり。疲れたでしょ?
お風呂にでも入ってきなさい」


「はい......」


──俺は......一体あの時.....彼女に何を
言えばよかったのだろうか......


『あんたってほんと何も知らないんだね』


その言葉が脳裏に去来する。


どうしても、彼女の怒りと悲しみを滲ませた
あの表情が、忘れられなかった。


翌日。時刻は昼過ぎ。川辺にて、
いつものように一人でいたリリィの隣に
誰かが座った。


「......ボランティア活動はいいの?」


「午前中に終わらせてきた」


「家事は?」


「それも終わった。修行は今からする」


え? と戸惑いを見せたリリィの前で、
突然隼人は立ち上がる。


「家事とボランティアを午前中に、
修行は午後から一人でしたいって
オマカさんにお願いしてきた」


腰の帯に刺していた二本の木刀を
するりと抜く。


「一人じゃ修行にならないでしょ」


「ある程度の知識は教えてもらった。
後は、体に叩き込ませるだけだ。夜は組んでくれるって言ったしな」


ぶんっと一振り。


「魔法は?」


「それは、二週間後。まずは......
基礎作りからだとよ......」


ぶんぶんぶんっと三振り。


「じゃあ何でここでするの......」


「別にどこだっていいだろ」


「そのぶんって音うるさい......」


「そうか? この風を切る音
気持ちいいだろ」


「耳障り......」


そう言いつつも、リリィはそこから
離れようとしなかった。


「まあでも......俺が近くに居れば、
石は飛んで来ないだろ」


「......え......?」


隼人はそれ以上、何も言わなかった。


「変なの......」


それから、疲れきって木刀を
振るのを隼人が止めるまで、リリィは
じっとその修行を眺めていた。


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