3521回目の異世界転生 〜無双人生にも飽き飽きしてきたので目立たぬように生きていきます〜

I.G

三百二十二話 決断8

ついさっき俺が自分の首を切り落とす
という奇行に走ったのは、別に俺の
頭が狂ったわけではない。
一度、あの白い部屋に戻って神様に
とある頼み事をしたかったのだ。
その頼み事というのが、タチアナを
俺と同じ転生者にしてくれないか?
という馬鹿げたものだった。
勿論、誰かを俺と同じ転生者
にして欲しいなんて今まで神様に
お願いしたこともなかったし、
俺自身、思い付きもしなかった。
だが、どうしても俺はただ
タチアナがこの世界の為に生け贄に
なるのはかわいそうで、何かタチアナが
救われる方法はないかと絞り出したのが
これだった。

けれど、いざ神様にタチアナという
女性を俺と同じ転生者にしてくれ
ないかと頼み込むと、神様は首を横に
振って俺の案を断固拒否した。

というもの、話を聞けば、
二人も面倒を見るとなると
神様の負担が重くなるらしい。

更に、それを許してしまったら
隼人君は今後も、誰々を同じ
転生者にしてくれ! と頼み込むじゃろ?
とまで言われた。

いいえ、俺は二度とこんな頼み事は
しません。ですから、タチアナだけは......!

そう頼み込んでも頑なに神様は
首を縦に振らなかった。


なら、こちらにも考えがあると
俺は神様に


「もしも、神様が俺の頼みを
了承してくれないのなら、俺は
今後一切異世界を救いません。」


と、はっきり言った。


すると、神様は汗をだらだら流し
ながら


「......そ、それは......困るのう......」


と、眉をしかめた。


そして、結局神様は今までの
俺の功績に免じて今回は許してくれた。


ただし、二度とこんな頼み事はして
こないことと、とある条件を
俺に課した上での了承だったが、
まあ、とりあえずその事はいい。


タチアナが救われる道があったんだ。
今はそれが成功するように専念しよう。


「よし、じゃあタチアナ。始めるぞ。」


俺の言葉にタチアナは頷く。


「いいか? 絶対に俺から離れるなよ。」


と、俺がそう言ったのにも理由がある。

神様から聞いた話によれば、
どうやら神様はいつも俺が死んだり
クリア条件を満たしたりすると、
俺の魂だけをキャッチして......
後はよくわからなかったが、まあ、
とりあえず、同様にタチアナの魂も
わけわからん方法であの白い部屋まで
持っていくらしい。
その時に、俺の魂の近くにタチアナの
魂があった方が見つけやすいから、
彼女を殺す時には彼女に
触れた状態で頼むとの事だった。


すると、タチアナが少し恥ずかしそうに
俺の手を握ってきた。


それに思わず俺も動揺しかけたが、
隣にいた鬼灯が俺を殺意の含んだ
眼差しで睨んでいたので、俺は必死に
平常心を装った。


「タチアナ......本当に後悔はないな?」


「無論だ。」


「死ぬこともできない、もしかしたら
永遠の時を生きなきゃいけないのかも
しれないぞ? 辛いことだって、きっと
たくさんある。」


「確かに......そうかもしれない。
だけど、きっと君と一緒なら
大丈夫。そんな気がする。」


不思議だ。
タチアナのこの笑顔を見てると、本当に
そんな気がしてしまう。

俺も......タチアナと一緒なら......
この糞みたいな異世界生活を
乗り越えられる気がしてしまった。


「わかった。ならもう覚悟はできて
るな?」



俺はタチアナが強く頷いたのを確認し、
自分のリュックからレッドブックを
取り出した。


右手はタチアナと手を繋いでいた為、
左手だけで何とかとあるページを開いた。


そのページにある魔法が記されてあった。


俺はただタチアナを殺すのではない。


この魔法を使って、タチアナの夢を
叶えるのだ。

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