3521回目の異世界転生 〜無双人生にも飽き飽きしてきたので目立たぬように生きていきます〜

I.G

三百十五話 決断

兄の体が次第に冷たくなる。
それが自分に兄が死んだという残酷な
現実を突きつけてくるようで、
タチアナは絶望の淵へと落とされ
ていくのだった。


「......っ!!!」


その感情が無意識に自分の体を
震わせ、タチアナは言葉にならない
叫び声をあげた。


「これでようやく人間の心を
捨てられたな?」


だが、悲しみに打ちひしがれる
タチアナに魔王は容赦なく言った。


「もうお前に人間に戻る道などない。
後はただ、その体を我に譲ればよい
のだ。」


「......」


タチアナの目にはもう光はなかった。
自分の顎をくいっと上げる魔王に
抵抗する気力などなくなっていた。


「......死んでしまいたい......」


「言ったであろう? 貴様は自身で
命を絶つことなどできぬ。」


「......殺してくれ......」


誰でもいい......誰か......私を......


「フハハッ!! 最後の言葉がそれか?
よかろう。タチアナという存在を
今ここで消してやろう。
そして、この我が! 新たな魔王として
再びこの世界に君臨するのだ!!!!
さあ! その体を我によこせ!!!!」


その時だった。


魔王とタチアナしかいないはずの
この玉座の間で、誰かの足音がした。


「誰だ。」


タチアナの体を奪おうとしていた魔王は
それを止めて、足音のした方に目をやる。


「ほう......まだ、人間がおったか。」


魔王の視線の先には、
先ほどタチアナが
ライジング・スラッシュ
で破壊した瓦礫の上に立っている
者がいた。


タチアナは、はっとして後ろを振り向く。
そこにいたのは......


「隼人!!」












ようやく魔王らしき奴を視界に捉える
ことができた。
長かった......今回の異世界は本当に
長かった。
だが、それももう終わりだ。
後は魔王であろう金髪の男を
倒すだけ。

だけど、なんでだ?
なんでタチアナが魔王と
一緒にいるんだ?


俺は


「名を名乗れ! 無礼者めが。」


と言ってくる魔王を無視して
辺りを見回してみた。


......それで俺はようやく自分がここに
到着するのが遅すぎたことに気づいた。
だが今は自分を責めている時間はない。
俺にできるのは、これ以上被害が
でないようにあの魔王を今すぐ殺すこと。


「お前が魔王か?」


「フハハッ!! この我に向かって
それを聞くのか? 」


「一応念のために聞いておきたいんだ。」


「......よかろう。いかにも。
我がまお──」


この金髪男が魔王であることを
確認した俺は、自慢げに自己紹介を
している魔王の顔を胴体から引き
ちぎった。


俺はそのまま右手に持った魔王の首を
地面に落とし、踏み潰した。


頭蓋骨が完全に粉々になるくらいまで
踏み潰した俺は、続けて頭を失った
魔王の体を


「ショック!!!」


電気で燃やし尽くした。


「クリア......」


体まで燃やしたのは、魔王レベルにも
なれば、自己再生とか何らかの
回復能力を備えている可能性がある
と自分の経験上から判断したためだった。


まあ、とにかくこれで目でも瞑って
いれば、またあの白い部屋で目覚める
だろう。


そう思って俺は、本当はタチアナの
視線から逃げる為に目を閉じた。


と、その時



「それで倒したつもりか? 滅絶!」


背後から魔王の声がした。

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