3521回目の異世界転生 〜無双人生にも飽き飽きしてきたので目立たぬように生きていきます〜

I.G

三百十三話 光13

「兄様。さっきのあの王様という奴の
態度は一体何なのだ!」


一時はヒヤッとした瞬間もあったが、
何とかその場を切り抜けた二人は
城から出て、初めて城下町へと
足を延ばしていた。



「よすのだよ。あのお方はこの世界で
最も偉いお人だ。」


「だからと言って兄様をいじめて
いい理由にはならない!」


城から出ても王様の態度に腹を立てて
いるタチアナに、バーゼンははぁと
ため息をついた。


「兄様......? 一つ聞いてもいいか?」


「?」


「マゾクとは一体何なのだ? あの
王様が言っていたではないか。」


「以前、タチアナには俺達が人間という
種族だと教えたな? 魔族とは俺達
人間の敵なのだよ。」


「な、なら! 私は兄様の敵なのか!?」


きっとタチアナは王様に自分が
魔族ではないかと疑われたことを
引きずっているのだろう。


「そんなはずないのだよ。タチアナは
人間だ。」


「そ、そうなのか。」


「そうなのだよ。」


それを聞いて笑顔を取り戻した
タチアナだったが


「も、もう一つ聞きたいことがあるの
だが......」


と、再び深刻な顔になる。


「ソフィアとは一体誰なのか教えて
欲しいのだ。」


その言葉でバーゼンの歩みはピタッと
止まった。
ソフィアとはバーゼンの姉の名前だった。



「どうしてその名前を......」


「兄様の部屋にある何冊かの本に
その名前が記載されていたのだ。
この間、気になってそのことを
母様に尋ねたら、泣いてしまわれ
てな......兄様に聞こうか迷っていたの
だが......」


「ソフィアとは俺の姉の名前なのだよ。」


「兄様には姉様がいるのか! 
今はどこに? 私も会ってみたい。」


姉が死んだことなど知るはずもない
タチアナは、遠慮のない笑顔で
バーゼンに質問してくる。


「もう......いないのだよ。」


「......え?」


「殺された。魔族に。」


「......すまない......兄様......やはり......
聞くべきではなかった。」


「いいや、いずれ話しておこうと
思っていたから、ちょうどよかったの
だよ。」


バーゼンは止まった足を動かし始める。



「俺には五つ上の姉様がいてな。
いつも優しく、美しく、強くて......
とても尊敬できる人だったのだよ。」


だけど、本当は裏ではとても努力
していて、自分の部屋でこっそり
泣いていることもあった。
姉はそれをバーゼンに見られないように
していたが、バーゼンはそんな一面が
姉にもあることを知っていた。

だからこそ......誰よりも努力していた
姉を殺した魔族への憎悪と無力な自分
への怒りが今になって沸き上がって
来てしまった。


「俺が行くべきだった......俺が姉様
の代わりに死ぬべきだった。」


「あ、兄様?」


タチアナの声はバーゼンの耳から
どんどん遠ざかっていく。


「俺が無力だったせいで......姉様が!!」


バーゼンは怒りに任せて拳を強く握った
為、手のひらから血がぽたぽたと落ちて
きている。

我を失ったバーゼンにはタチアナの
呼ぶ声ももう聞こえていない。


こんな何もできなかった無力な自分に
生きてる価値などあるのか?
いっそのこと......死んでしまおうか......


バーゼンがそう思ったその時、彼は
何かに抱き締められた。
いや、相手が自分より小さくて
抱き締められたというよりかは、
相手に抱きつかれたと表現した方が
いいかもしれない。


「兄様......すまない。私が変なことを
聞いてしまった。謝るから......どうか
泣かないでくれ。」


バーゼンはタチアナの温もりによって
ようやく正気に戻ることができた。

どうやら、自分は無意識の内に泣いて
しまっていたらしい。

バーゼンはもう大丈夫なのだよ。
といって優しくタチアナの頭を撫でる。


そうしていると、バーゼンはタチアナに
出会う1ヶ月前までこの気持ちにとらわ
れ続けていたことを思い出した。
そして、タチアナに出会ってからは
その気持ちが薄れていたことにもようやく
気づいた。
自分だけでなく、娘を失って
悲しみに暮れていた母と父もまた、
タチアナという光によって暗闇から
解放されていたのだろう。


「兄様。決めたぞ!」



タチアナは急にばっとバーゼンの顔を
見上げる。


「私はもう二度と兄様や母様、父様を
泣かせない! 二度と兄様達の
大切な人を失わせない! 
だから私は! 私は魔族という兄様達の
敵を滅ぼしてみせる!
私がこの世界のヒーローになって
みせる!」


まだ十五才にも満たないこんなにも
幼い少女が、これほどの言葉を
自分の前で言ってのけた。
落ち込んでいる自分を励ます為に
言ってくれただけなのかもしれない。
けれど何故かバーゼンはその時、
本当にこの子が世界を救ってくれる
のではないかと思えてしまった。
なぜなら、その時のタチアナは
そう思わせるくらい希望に満ち溢れた
光を放っていたのだから。

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