3521回目の異世界転生 〜無双人生にも飽き飽きしてきたので目立たぬように生きていきます〜

I.G

二百六十七話 フリーズランド27

「あのオスに帰れとでも
言われたのかや?」


「ピィ......」


寂しげな表情でフリーズランドに
戻ってきたペルーに
吹雪姫は尋ねる。


「......ソナタにそんな表情を
させるほど、ソナタはあの二人が
好きなようじゃの......
無事に魔王に勝利して
くれればよいが......」


「ピィ!!! ピィピイ!」


「わかっておる。
あの二人が強いことも。
じゃがの......はたして、
魔王を倒せるか......
わらわには予想ができんせん......」


ペルーは吹雪姫の不安な表情を
見て、はっと隼人達の向かった
先を見る。
しかし、もうその先には隼人達の
姿は無く、ただペルーの不安が
積もるのみだった。











                    【上の大陸】



ペルーと別れてから三十分ほど、
俺達は全速力で走り続け、
ようやく魔王のいる上の大陸に到着した。


「想像以上に暑いな......」


俺が寒さ対策としてあげた
マントが今度は逆に負担となって
いるようで、タチアナは襟元を
ばたつかせている。


「水なら余裕あるし、ほら
これやるよ。」


「いや、しかし......これでは隼人が......」


「俺はいらないよ。もうすぐこの
世界からいなくなるし。俺が持って
たら水が勿体無い。」


「......寂しいことを言うなよ。」


「え?」


タチアナは少し歩みを止めたが、
俺が振り向くと再び歩きだした。
しかも、今度は俺よりも速い
小走りで。


「先程から君の言葉は冷たいぞ。」


「......」


「確かに君は私では想像もつかない
くらい多くの人と別れをしてきたの
だと思う。だから、一つ一つの
別れを悲しんでいては、君の心が
持たないことも私は理解している
つもりだ。
だが......だからと言って、先程からの
君の態度はなんだ!
ペルーにとって、君との
出会いは──」


「タチアナ。いいんだよ、これで。
俺は忘れられたいんだ。皆から。
じゃないと、俺も忘れられ──」


「何を言っているのだ! 私は
君のことは忘れないぞ! たとえ、
君がもうすぐこの世界から
いなくなろうとも、私は君を決して
忘れない。」


「タチアナ。俺はお前を忘れる。」

 
「......どうしてそんなことを
言うんだ......」


「それが一番互いにとって幸せだから。」


「そんなことあるものか!
だって、私にとって君は── 」


その時、俺達の前に迫っていた
魔王城で爆発音
が聞こえてくる。


「!? 今のは──」


「じゃ、魔王城も見えてきたし、
俺そろそろ行くわ。」


「え!?」


「ありがとな。いろいろとタチアナ
には世話になった。ここまで
来れたのもお前がいてくれたからだ。」


「ちょ、ちょっと待ってくれ......
私は......私はまだ君に......」


走り出そうとしていた俺の服を
引っ張って何かを言おうとしている
タチアナのその手を、そっと丁寧に
引き剥がす。


「たぶん、これでタチアナと会うのも
最後だ。だからさ、最後に
言っとくよ。
さっき言ってた夢、本当に
いいと思った。
だから、絶対に捨てるなよ。
夢は絶対叶うなんて言わない。
けど、人間夢持ってないと
腐る生き物なんだ。
お前にはずっと輝いていてほしい。」


「......待ってくれ......私は......
何と言えばいいのか......」


必死に言葉を探している
タチアナを一瞬待とうとした
自分もいたが、そのタチアナの探し
出した言葉を聞いてしまえば、
俺の心が崩れそうになる予感が
したため、俺は


「じゃ、元気でな......」


と、俺を呼び止めようとする
彼女の声を無視してそのまま
魔王城へと一人で乗り込むのだった。

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