3521回目の異世界転生 〜無双人生にも飽き飽きしてきたので目立たぬように生きていきます〜

I.G

二百三十八話 五年前4

風のような刃が容赦なく俺の
首を狙ってくる。



「あ! 靴紐が!」


俺はわざとらしくなって
しまったが、咄嗟にしゃがむ口実を
作ってその刃をひょいっと
かわす。


「な、何をやっているのだよ!」


「この男......! 無垢なタチアナを......!」


暴走した鬼灯をタチアナの兄ちゃんが
止めに入る。


「ご、誤解です! 俺別に何にも──」


「!? まさか......寝込みのタチアナ......
襲わなかったの......」


すると、目を皿にして鬼灯は
俺を見てくる。


止めろよ、その顔。まるで
襲うのが当たり前みたいじゃんか。


「何を勘違いしているのだ、鬼灯。
私は彼と一夜を行動しただけだ。」


「嘘......だってさっき......服脱が
されたって......」


「あれは──」


タチアナは毒状態に陥ってしまった
のを俺に助けられたことを詳細に
説明した。


「......そう......じゃあお前いいやつ。」


そして、ようやく鬼灯の興奮は
収まり、誤解を解いてくれたが


「......あと腰抜け......」


と、罵倒された。













「じゃあ、後は兄様にいろいろ
聞くといい。ほら、行こう。鬼灯。」


「......うん......!」



その後、散々俺を玉無しだとか、
去勢された回復魔法士だとか様々な
異名を俺に名付けた鬼灯を、
流石に俺を可哀想に思ったタチアナが
船の中に引っ張っていってくれた。



「それで、俺に聞きたいこと
とは何なのだよ。」


残されたのは俺とタチアナの
兄ちゃんだけ。ようやく、
話が切り出せると俺は口を開いた。



「実は俺、五年前にここで失敗に
終わった任務について知りたくて。」


「? ちょうど俺はそのことについて
調べていたのだよ。」


「ええ。それについては
ヨーテルさんに聞きました。」


「ほう、あのトンガリ帽子が
そんな奇行を......」


そう言って彼は船の方に目を
移すが


「すまない。」


とすぐに俺の方を見た。



「それで、一体隼人はどこまで
そのことについては知っているのだよ。」


「俺が知ってるのは五年前に
ヤナハに在住するほとんどの
職業者達が、この島に連れてこられて
全滅したということくらいですね。」


「......だいたい合っている。」


「だいたいですか?」


「ああ。全滅はしていないのだよ。」


「え!? まさか生き残りが!?」


「......これを生き残りと言って
いいかどうか......」


「どういうことですか?」


「うーん、これを言っても君には
信じがたいことだと思うのだよ。」


「構いません。教えてください!」


すると、あまりに強く
問い詰め過ぎため、タチアナの兄ちゃん
は眉をひそめた。


「隼人。先に聞いておきたいのだが、
何故そんなに五年前について
知りたいのだよ。」


「俺はその五年前に参加した
ある人達を探しているんです。」



その言葉にタチアナの兄ちゃんは
ひそめた眉をもとに戻して、
少し悲しそうな顔をしながら言った。


「......そうか、ならば先に言って
おく必要があるのだよ。
......はっきり言う。その五年前に
参加した者全員が行方不明になっている。
この意味がわかるか?
この敵地である島で五年前に
姿を消したんだ。
だから、もう誰一人として
生きてやしないのだよ。」

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