3521回目の異世界転生 〜無双人生にも飽き飽きしてきたので目立たぬように生きていきます〜

I.G

二百二話 再会を夢見て16

どこまでも続く水平線を眺め
ながら、はぁとため息をつく。



これでよかったのだと自分に
言い聞かせながら。



そんな惨めな自分を馬鹿にするかの
ように、空を飛んでいる鳥達が
やたら自分の上で鳴いていた。
くるりと振り返ってみれば、もう
そこには三日月島は見えなく
なっていた。


これでいい。


心の中で何度も自分が言ってくる。
つまりそれは、本当は会いたかった
という本心を隠すために無意識に
自分が言ってくるのだ。


「死ぬほど後悔する......か......」


すると、不意に彼の言った言葉が
頭の中でよみがえる。
異世界から来たという謎の
青年はそう自分に忠告した。


「わしはもう......いいんじゃよ......」


あの人の無事な姿を見れただけで
もう十分だ。
それに、自分には倒さねばならない
敵がいる。


長老は心残りを消すように
目に闘志を燃やす。


「ん? なんじゃ?」


するとその時、小さな謎の物体が
船に投げ込まれた。
長老はそれに駆け寄り、拾い上げて
はっとする。


「ファラ......リオ......」


まさか!?


長老は直ぐさま、そのファラリオが
投げ込まれた海に目をやる。


バチャン!


何かがすぐそこの海面で跳ねたかと
思えば、そこにははっきりと
上半身が人間で下半身が魚の生き物の
影が海面に写っていた。
そして、そのままその影は
長老の気配に気づいて、
すーっと海の底へと消えていった。


「人魚姫様......」


呆気にとられた長老はもう一度、
その投げ込まれた五本のファラリオ
に目を移す。
確かな確信はない。
たが、もしもこのファラリオが
あの時、自分が最後に植えた
五本のファラリオだとしたら......


「......人魚姫様......これは......
つまり......」


太陽の光を浴び、黄金に光輝く
ファラリオに自分の目から絶え間なく
溢れ出す涙がぽつぽつとかかった。


『ナギはこのファラリオを
植え終わったらもう来なくなるの?』


いつだっただろうか......昔、そんな
ことを人魚姫様は言っていた気が
する。


「......ですが人魚姫様。わしは
まだ、あなたのところには
戻ることができません。
わしにはまだ、倒さなければ
ならぬ敵がおるのです。
ですが、もしも......もしも
わしがその悲願を遂げたら、
その時は必ず......」


自分があの時、植えたファラリオを
人魚姫はここまで泳いで
自分に返しにきた。
それはつまり......
またいつか必ず、そのファラリオを
植えに帰ってきて。
そんなふうに人魚姫は
言ってくれた気がした。


長老は涙を拭い、前を見る。


「長老。会議の時間です。」


すると、長老はタチアナに呼ばれた。


「うむ。今行く。」


くるっと後ろを振り向いた長老の
目にはもう涙はなく、いつもの
ように頼もしく堂々と歩きはじめた。
そんな彼を、タチアナをはじめとする
多くの職業達が尊敬していた。


「占ってほしいことが
あるのですが─」


「うむ、任せなさい。」


彼の心にはもう一つのくもり
などなく、あったのはただ前に進む
という気持ちだけだった。


いつの日か来るであろう
再会を夢見て......





コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品