3521回目の異世界転生 〜無双人生にも飽き飽きしてきたので目立たぬように生きていきます〜

I.G

三十五話 鳥と少女5

客が入店したのを知らせる
鈴のついた扉を開く。


「ここって……」


メグが中を見渡し、そう呟いた。


「ん? お、あんちゃんじゃ
ないか! いらっしゃい!
それと……居酒屋で働いてた……
メグちゃんだったけか?」


「え!? ガビルさん!?」


メグは彼を見て驚嘆した。





俺は以前、ガビルさんに約束の
酒を奢った。
これは俺が情報を供給してくれた
ガビルさんへのお礼だったのだが、
彼はわしからも何かお返しが
したいと言って、今度自分が
経営している雑貨店に顔を出してくれ
と言われた。
なんでも普通の店には売ってない
品々を多く仕入れているそうで、
安くでそれらを売ってやると
ガビルさんは俺に言ったのだった。


「なんだ、メグ、ガビルさんと
知り合いだったのか?」


「知り合いっていうか、私がバイト
してる居酒屋の常連さんなの。」


「そうそう。あそこの酒は
美味いからなぁ……今度また行くから
店長によろしく言っといてくれ。
それで、なんでまたあんちゃんが
メグちゃんと一緒に? って
その抱いてる鳥は一体何なんだ?」


質問が止まらないガビルさんに、
あれこれ説明し、
この鳥について載ってる本はないかと
尋ねた。


「鳥が載ってる本ね……確か……
おぉ、あったあった。」


奥から取り出してきた分厚い本を
ぱんぱんと叩くとホコリが舞う。


「えらく古い本ですね。」


「そりゃそうさ。何百年も
前に探検家達が書いた書物なんだから。」


そう言いながら、ホコリが
まだついている本の表紙を開く。

ページ毎に絵で描かれた鳥と、
右にはその鳥についての
情報が執筆で書かれていた。


「ていうか、開いちゃって
あれですけど……いいんですか? 
中見ちゃって。」


「はっは、見るだけなら
別に構わんよ。
それに、わしらの祖先が
努力して書いた物を店の
奥に置いていたら呪われそうだしな。」


「ありがとうございます。」


「店長に今度ガビルさんが
来たら安くで売ってくれって
頼んでおくからね!」


「お! それはありがたい。
よろしく頼むよメグちゃん。」


そんなやり取りをしてガビルさんは
仕事の方に戻る。
俺とメグはページをめくりながらペルーに
似た鳥の絵を探す。そして



「あった、これだ。」


「……ファミリーバード? 初めて
聞く名前……」


「えぇっと、なになに……下の大陸と
フリーズランドを行き来する渡り鳥……
フリーズランドってどこにあるんだ?」


「確か……八個の島の中にそんな
名前の島があったような……」


メグは必死に記憶を呼び戻そうとする。


「あ、大丈夫だ、メグ。最後のページに
地図が載ってある。」


その地図は以前、ガビルさんと
見たあの地図そのものだった。


「え!? フリーズランドって
上の大陸に一番近い島じゃん!
こんな遠くからペルーは来たの?」


メグは聞いてもわからないであろうに、
ペルーに尋ねる。


「ピェ?」


翻訳すると、
何言うとるかわからん。
と言っている。


「卵を孵化させる為、気温の
高い下の大陸にやってきて、
ひながある程度成長するまで子育てを
する。ひなが飛べるようになると、
家族揃って飛び立ち、気温の低い、
氷に覆われたフリーズランドに
移動する。フリーズランドに行くのは
肉食動物が少ないからだと考えられる、
か……」


「家族と一緒に……」


メグが何か言ったような気がしたが
そのまま読み続ける。


「本来、渡り鳥は本能的に
飛び立つ方向が分かるが、
このファミリーバードは例外だ。
ファミリーバードはある程度
飛べるようになったとしても、
フリーズランドへの方角が
わからないので、自身で
飛び立つことはしない。
飛び立つ時は常に親と同じだ。
親と飛ぶ事によってファミリーバードは
フリーズランドへの道が
初めて認識できるようになる。
そしてまた、彼らが大人となり、
卵を羽化させようと再び下の
大陸へと一斉にやってくる。
ファミリーバードがフリーズランドから
下の大陸にやってくる間隔は
約四年だということも判明している。」


「じゃあ……ペルーが飛び立つには
親が一緒じゃないといけないって
こと?」


「そうらしいな……それに、
メグは五ヶ月前にペルーを
拾ったんだろ? ということは、
恐らくペルーの親はもう
フリーズランドに飛び立った後かも
しれないな。」


「家族に……置いて行かれたった
ってこと……?」


メグはひどく悲しげな顔を
浮かべる。


「かもな……この島で見つかったのは、
親と一緒に飛んでいる途中で
別の鳥か何かに襲われたからかも
しれない。」


メグは腰をおろして、ペルーと
目線の高さを同じにし、
優しく撫でる。


「ねぇ、隼人。ペルーの親は
いつ来るかな……」


「……早くて三年ぐらいだろうな……」


「そう……だよね……
ペルー? 大丈夫だよ?
それまで私がそばにいるから。
一人にしないよ?
きっとペルーの親も必ず
迎えに来てくれるからね?
だから心配しないで。」


メグは不思議そうに見詰めてくる
ペルーを何度も何度も撫で続けた。

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