消滅の魔女と四英傑 〜天才少女、異世界へ降り立つ〜

酒粕小僧

祟の神

この世界には原初の四神『智』『力』『技』『財』の神である神が世界に存在した。
その後に、数多の神が産み落とされたとされ、『愛の神』もその一柱である。
しかし、その中には当然、災いをもたらす神も存在する。
その神のうちの一柱に『祟の神』と呼ばれる存在がいる。
自身を信仰しない者に嫌がらせで災いが降りかかる呪いをかけるかなり迷惑な神様である。
呪いとは自身に返って来るので好き好んで使う者はいないが、この神はその例外の最たるものである。
ただし、この神は『神徒』にその災いによるしっぺ返しを別の形で押し付ける事によって回避している。
それは抗えぬ欲求という形で現れる。
この欲求というのは人によって異なり、食欲だったり、金銭欲だったり、性欲だったりと様々である。
しかし、その神の神徒たる『土着神』の力は絶大で、
大地の眷属を使役できる上に土魔法が強化される。


フェラチア・アネルは昔、旦那と子供がおり裕福とは言えなかったが幸せに暮らしていた。
目の前に『祟の神徒』が現れるまではそんな幸せな日々が続くと思っていた。
その『祟の神徒』の女は自身を殺してくれとフェラチアに頼んだ。
それを当然、フェラチアは断ると『祟の神徒』は自分の首元に刃を当てる。
それに気付きフェラチアは止めようとしたが、既に『祟の神徒』は大量の血を流し生き絶える。
『祟の神徒』は生き絶える寸前に言った。


「これで解放される」
と穏やかな表情で言ったのである。


フェラチアはそれの意味が理解できなかった。
その時、彼女はこれが『祟の神徒』が仕掛けた神の試練という罠だとは気づかなかったのだ。
『祟の神徒』の神の試練は、自身の死を止めず罪悪感を抱いた者を『祟の神徒』にするという押し付けに近いものであった。
そして、彼女の人生が狂い始めた。


目の前で『祟の神徒』が死んでから、自身の性欲が抑えきれないのだ。
当時、夫は遠征に出かけておらず家には息子しかいなかった。
つい魔が差してしまったのだ。
気付くと息子に跨る自分と生き絶えて死んでいる我が子がいた。
そして、気付いた時には村の男の子供のほとんどが死んでいた。
そこでフェラチアは気付いてしまった。
今の自分は普通じゃなく、幼い男の子を見ると感情が昂ぶるのと性欲が抑えきれない性なのだと知った。
その証拠に大人の男性を見ても何も思わないのに対して男の子を見ると興奮しているのだ。


それが彼女の抗えぬ欲求というものだった。
それが最初にバレたのは当然、遠征から戻った夫だった。
その時から彼女は既に壊れていたのかもしれない。
以前まで愛していた夫を見ても何も感じなくなっていた。
気付くと夫は血と肉の塊となり自分の足下に転がっていた。
そして、彼女は同時に理解した。
傭兵稼業の夫を瞬殺できるまでに魔法が強くなっていたことに
彼女は村にいられなくなり旅に出た。


様々な場所に滞在したが、翌日には子供の死体が見つかり街にいられなくなってしまう。
そして、彼女はある少女に出会う、額の瞳と紅い瞳、肌や髪全て白いアルビノのサトリ少女との出会いが彼女を変えた。
抑えるのではなく受け入れなさいと自身の欲を拒絶するのではなく受け入れることを少女に言われ、その少女の協力もあり、ある程度は抑えが効くようになった。
彼女にとってその少女は恩人であると同時に親友とも言える存在である。
そして、サトリの少女は『祟の神徒』であることを彼女に伝える。
フェラチアはその時、あの女は知っていて自分を嵌めたのだと知った。
『祟の神徒』という呪いを自分に押し付けた事を知った。
それを嘆くと彼女は言った。


「そんな理不尽な神のいる世界など壊してしまえばいい。私はその為に生を受けた。一緒にこの理不尽な世界を滅ぼしましょう」


と語ったサトリの少女を見てフェラチアは思った。
この人こそ救世主なのだと、そしてこの呪われた力を彼女の為に使うことを決めた。


ーーーーー


「まさか、パントを倒した相手が私の目の前に現れるなんてね。でも、私をあんな作りものと一緒にされたら困るけど」
「誰かしら?あいにくと人の顔と名前を覚えるのは苦手なの。どうでもいい相手は特にね。だから、あんたの語る名前すら覚えてないわ」


クリスは既にパントが誰なのかすら憶えていなかった。
というより、存在自体は知っているが名前を憶えてはいなかった。


「まぁ、いいわ、私の子供達を返してもらう!!『岩石連射砲ロックミニガン』」


フェラチアは岩の弾丸をクリス目掛けて連射する。


「だから、攫ったのはあんたでしょうが!!『対物バリア』」


クリスは消滅の力を持つ盾により、岩の弾丸を防ぐ。


「忌々しい力、パントが倒されたのも納得ね。でもまだまだ甘いわ!!『分身土人形ダミークレイドール』」


フェラチアは大量の自身を模った土人形を大量に生み出す。


「さぁ、この大量の私の土人形に殺されるといいわ」
「なかなか面倒な事をしてくれるじゃない」
クリスは消滅の力を持つ弾丸と槍で襲い掛かるフェラチアを模った土人形を倒していく。
「ほらほら、まだまだいるわ」


クリスが倒す量より多くのフェラチアの土人形が生み出される。


「クッ、魔力が回復しきってない時にこれはきついわ」


クリスはゴーレムとの戦った時の魔力の消耗がまだ残っていた。


「やっぱり、魔力のゴリ押しは避けてこういうのも使うべきね」


クリスは収納魔法でしまっていた天穿槍『ロンド・グラン』を取り出す。


「な、な、な・・・」


その槍を出した瞬間、フェラチアが慌てだす。


「そ、その槍は、天穿槍『ロンド・グラン』失われた神装具の一つがどうしてここに!!」


クリスはフェラチアが言うほどこの槍がたいそうなものとは思えなかった。
ただ投げたら手元に瞬間移動して戻って来るだけの槍にそんな恐れられる程のことがあるか疑問でしかなかったのである。
そこで、クリスはこの槍には自分の知らない機能が眠っているんじゃないかと思った。


「あるものはあるのよ。現実を知りなさい。それにこれにそこまで恐る力があるとは私には思えないもの。仮にあるとするなら教えて欲しいところね」
「・・・知らないなら、問題ないわ。あなたを殺した後に回収すればいい話だからね。それなら普通の槍と変わらないわ」
『やっぱりこの槍、何かあるわね。手元に戻るだけならそこまで恐れる機能ではないわ。それなら、『反物魔法』の方が強力だもの』


クリスは槍で迫り来る土人形を倒していき、必要に応じて『反物魔法』で応戦する。
そして、隙を見ては本体に消滅の弾丸を放つが、土人形を壁にして防がれる。


「まさか、その乱戦の中で私を狙う余裕があるなんて見上げた根性ね」
「あんたと同じ顔の土人形を相手しないといけないなんてゾッとするわよ。まったく、あんたのあの汚物のせいで私の知り合いに向ける目が変わったら責任はどうとってくれるのかしら?」


汚物とは、フェラチアが書いていた手記のことである?


「分からないことを言ってるんじゃないわよ」
「なら、あなたの書いてた悪趣味な記録とでも言えばいいかしら?感謝しなさいよね。あんたの黒歴史を抹消してあげたんだから。いや、もう遅いか」


クリスはフェラチアを揶揄うかのように言う。


「まさか、あなたはあの大天使まで奪う気!!アレだけは絶対に渡さない!!」


フェラチアの大天使とはライチェスの事である。


「あんたが、『大』という言葉を使うと言葉自体が穢れそうだわ。あえてどの部分が『大』とかは言いたくないから言わないけど、そいつは私が来た時には既にいなかったわよ」


クリスは恥ずかしそうに顔を紅く染めながら話す。
あの手記を読んだことで大天使がライチェスだと知っているからであった。


「あくまでしらを切ると、仮に逃げていたとしてもあなたを始末した後にまた捕まえればいいわ」


クリスは「こいつ死んだな」と思った。
ライチェスは愛の戦士と目覚めた事により、ゴーレムを歯牙にもかけず圧倒でき、更には『剣帝』ことアシュナも一緒なのだ。
物に数を言わして勝った気になってるこいつなど相手にすらならないとクリスは考える。


「流石にそろそろこれを使っても良さそうね」
「まだ、何かするつもりかしら?でも無駄よ」


クリスはフェラチアの土人形に槍を突き刺し、それを襲い掛かる土人形に投げ当て消滅の槍で消滅させ、距離を取るが土人形はクリスを取り囲む。
「終わりよ『起爆解放リリース』」
「!!」
フェラチアが手を前に出し拳を握ると同時にクリスを取り囲む土人形が爆発する。


「うわあああああ!!」


クリスは爆発の爆風で吹き飛ぶ。


「う、うぅ・・・」


クリスは辛うじて立ち上がる。


「なかなかしぶといわね。でも、私にはいくらでも兵を生み出せる。どれだけ戦おうが無駄、あなたの体力、魔力が共に尽きた時、あなたの負けよ」


フェラチアは再び自身の分身土人形を生み出す。
クリスの魔法をフェラチアは単純な物量で押し通す。
魔力を先の戦いでだいぶ消費したクリスには厳しい相手だった。
万全の状態ならなどとクリスは考えない。
それは言い訳でしかなく、いつだって万全の状態で戦える訳がないとクリスは理解してる。


「あら?一体いつからあなたの勝利条件が変わったのかしら?私を殺して子供達を取り戻せれば、あなたの勝ちじゃなかったの?」
「あなたが抵抗さえ出来なければ結果的には変わらないわ」
「そう、私も甘かったわ。物事において大切なのは過程ではなく結果だということをね」


クリスは表情一つ変えず淡々と話す。


「最も優先すべきは過程よりも結果、過程が悪くても結果さえ良ければいいのよ」
「あなた、何言って!!」


クリスは『闇喰ダークイーター』を子供達目掛けて放つが、土人形によって阻まれる。


「あらやだ、疲れてるせいか手元が狂ってしまったわ」


クリスはワザとらしく両手首をブラブラさせながらフェラチアに話す。


「・・・あなたワザと狙ったわね!!私の天使達と知ってて狙ったわね!!」


フェラチアはクリスに対し怒りを露わにする。


「さあ、選びなさい。あんたが無抵抗を貫くならこの子達を助けてあげる。それが嫌ならあんたが抵抗するたびに一人ずつ消えてもらうわ。最終的に誰もいなくなっても、あんたに全責任を被ってもらえばいいわけだもの。さて、この誰もいない状況で子供達が消えたら怪しまれるのは一度捕まったあんたと子供達を一度は助け、あんたを捕らえた私、さて、怪しまれるのはどっちでしょう?」


クリスは悪い笑みを見せながら話す。


「あなた、自分の言ってること分かってるの?」
「あら?あらあら?何寝言言ってるのかしら?私はさっき言ったはずよ。最も優先すべきは過程よりも結果だって、もしかしてこんな手は使わないとでも思ってたの?甘いわ。とんだ甘ちゃんね。使えるものは全て使うわ。あんたはどうやら私という人間を勘違いしていたようね」
「この悪魔め」


フェラチアは憎々しげにクリスを睨む。


「好きに呼ぶがいいわ。私はお金さえいただければそれでいいの」


今のクリスは完全に悪役である。


「さて、抵抗したらどうなるか、分かってるわね」


クリスは和やかに槍を構える。

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