消滅の魔女と四英傑 〜天才少女、異世界へ降り立つ〜

酒粕小僧

完全の愛

ラチェットン・イーガルはフロス家の歴史の中でも最も魔力と才能に恵まれた者だった。
両親からは、フロス家の血を色濃く受け継いだと何度も聞かされていた。
彼が血統主義になるのは当然だった。
彼が評価されるのは自分のことではなくフロスという血統だったからだ。
しかし、フロス家を継いだのは自分ではなく姉だった。
彼にとってそれが納得できないのは当然だった。
彼には実力もあり実績もある。
姉は特に実力もあるわけではなく実績もある訳ではなかった。
そもそも、姉は祖父と祖母に長い間預けられていたのでラチェットンは姉のことをよく分からなかったこともあった。
だから、いきなりしゃしゃり出て来た姉がフロス家当主となるのは納得できなかった。
だからこそ彼は考えた。
姉の息子達を利用して自分がフロス家当主に成り上がろうとしていた。
彼のプランには、兄のラコフ、三男のレインズの二つのプランがあった。
その二人には魔法の英才教育を行い援助もしていた。
落ちこぼれの烙印を押された次男のライチェスのことは失敗作などと蔑んでいたり、彼に友人が出来ると友人の家族もろとも配下の力で行方不明にしていた。
しかし、彼にとって最も重大な誤算が生じる。
それが、アシュナ・テイゼンの存在だった。
修行の一環として街にいたらしく、最初に彼女の使用人に刺客を差し向けたが、何度も返り討ちにされ、それならと彼女に刺客を差し向けると彼女の使用人以上に強く、相手にしてられないとやめる配下も現れていた。
それほどまでに彼女は強かったのだ。
そして、ライチェスの失踪だった。
最初のうちは探す素ぶりはしたが、探す気は無かった。
どうせ、人攫いにあって奴隷になってるか既に死んでるかと思っていたので気にも止めてなかった。
ラコフがライチェスに敗北したと聞くまでは知らなかった。
ラチェットンはライチェスが生きていることよりもラコフが敗北したことに驚いた。
ラチェットンは何かの間違いではないかと思いライチェスに刺客を差し向けると差し向けた刺客は戻って来ることはなかった。
そこで、急遽ラチェットンはプランを変更せざるを得ない状況になった。
実はここでラコフとレインズにしていた援助を打ち切った理由により傷心だった彼等を慰めたのが兄が獣人、弟が人間だったのだ。
そして、この二人は差別的な発言ばかりするラチェットンに距離を置き始めていたのだった。
彼の更なる誤算はライチェスがエディノーツ学園の特別生に選ばれ、了承したことだった。
辞退させようと色々画策したが、本人が了承した場合、本人以外は取り消せないと何度も言われた。
だからこそ、依頼という形で呼び出して縁談を無理矢理やろうとしていたのだった。
ここでの彼の一番の誤算は一度は自分に負けた相手が、圧倒的なまでの力を身に付け自分の目の前に立っていることだった。


「私は貴様に対し疑問に思った事がある。お前が行方不明になった時もそうだった。貴様は前会った時よりも力を付け返って来た!!そして今回もだ!!何故だ!!」


ラチェットンは氷の壁でラチェットの断魔弾を防ぐ。


「あなたに話した所で永遠に分からないことだから話しても無駄だよ」
「がはっ!!」


ラチェットンは一瞬でライチェスに背後に回られ、氷の壁に蹴り飛ばされ、氷の壁に激突する。
ライチェスは地面に寝転ぶラチェットンに向けて断魔弾を容赦なく放つ。


「ああああああ!!」


ラチェットンから魔力の一部が吹き飛ぶ。


「遊んでる暇があるなら、少しは本気を出しなよ。その度に僕が返り討ちにしてあげるから」


ライチェスは表情一つ変えず、容赦なくトリガーを弾く。


「うぐぅ!!『氷結監獄フロストプリズン』」


ライチェスは氷に閉じ込められる。


「ハァハァ、やった、やったぞ。これで貴様は動けん、動きさえ封じてしまえばあとは・・・!!」
「・・・あとは、なんだって?」


ライチェスは氷を内側から割り脱出した。


「残念だけど、『神通力』さえあればあなたの攻撃は事足りるよ」


ライチェスはトリガーを何度も弾く。


「!!」


ラチェットンは氷の弾で迎え撃つ。


「うがっ!?いぎっ!?かはっ!?」


しかし、ラチェットンはライチェスの断魔弾を迎え撃つ事が出来ない。
ライチェスは魔力を視認出来るので発動した瞬間に撃ち落とせるのと、『神通力』を目に集中する事で動体視力を引き上げ、高い精度の射撃でラチェットンの魔法を相殺しつつ断魔弾を当てている。


「『影剣刃シャドウセイバー』」


ラチェットンは影の刃をライチェス目掛け無数に放つ。
この魔法は影以外視認できない刃を飛ばす。
しかしそれもライチェスに全て撃ち落とされる。
魔力を視認出来るのでこの魔法に意味などなかった。


「うぐぐ、『闇喰無限刃イーターブレード』」


ラチェットンは闇に飲み込み破壊する刃をライチェスに振り下ろすが、ライチェスは涼しい顔で避ける。
神通力と魔力を視認する力によって使う魔法を読んでいるので当たらないのだ。


「何故だ!?何故当たらん!?」
「いい加減、遊んでないで本気でやりなよ。それが許されるのは鬼人くらいなものだよ。彼等は遊びでも充分強いから許されるんだ。むしろ、遊ばないと龍人以外は大概瞬殺しちゃうからね。あなたのような出来損ないの三下がそんな真似したところで不愉快なだけだよ」
「貴様ぁぁぁあああ!!調子に乗りおって!!誰が出来損ないの三下だと!!」


ラチェットンは浮き出た血管をピクピクさせて激怒している。


「僕のこれも遊びだよ。あなたを瞬殺したんじゃ、僕の気は収まらないからね」
「貴様、今遊びが許されるのはあの出来損ないだと言ったではないか!!」
「何を言ってるんだい?僕は彼等が許されるのは遊びでも充分強いからと言ったはずだよ。それなら、遊びでも充分、あなたよりも強い僕には許される特権という訳だ。それなら、僕もそろそろ遊びを終わらせよう。僕の『完全の愛パルフェタムール』でね。あなたも『絶対零度アブソリュートゼロ』を使うといい」
「いいだろう!!その言葉後悔させてやる!!『絶対零度アブソリュートゼロ』」
ラチェットンは自身最大の魔法を放つ。
辺りが一瞬で凍り付く中それでも凍り付かない者が目の前にいた。
「何だい?その程度があなたの最大級だと言うのかい?だとしたら期待外れもいいところだよ。愛の前では全てが無力ということかな?」
「な、なんだ、き、貴様のそれは!!」


ラチェットンがライチェスに指をしながら話す。
ライチェスは虹色に輝く闘気オーラを纏っている。


「『完全の愛パルフェタムール』僕の最大級の魔法さ!!この魔法はあらゆる攻撃からその身を守り癒してくれる最大級の防御魔法だ」


ライチェスの『完全の愛パルフェタムール』は『聖なる慈愛』で強化された治癒魔法が付与された何層もの空気の層で攻撃の威力を殺し、『神通力』で得た力で防いでしまう。
そして、全ての属性をコントロールすることで全ての属性の耐性を得ている。
馬鹿げた防御性能と回復性能を持つ闘気オーラを纏う魔法である。
ライチェスが生み出したアシュナを守るという意志を体現した魔法である。
だからこそこの魔法は強いとライチェスは確信している。


「な、何故、そんなもので、私の最大魔法を防げる!!」
「これが愛がなせる意志の力だからだ!!」


ライチェスは断魔銃と絶魔銃をラチェットンに向ける。


「『乱魔狂撃弾』」


ライチェスはラチェットンに『断魔の力』を二つ同時に放つ。


「な、なんだ!!これは!!止まれ!!止まれ!!」


ラチェットンは自らの魔法で肉体が凍り始めていた。
ライチェスが打ち込んだ弾は相手の魔力を暴走させる弾である。
二つの『断魔の力』を干渉させ魔力を暴走させる技である。
しかし、ライチェスや鬼人のように自身の魔力のコントロールに慣れてる者には一瞬しか効かないデメリットが存在する。
しかし、ラチェットンにそんなことが出来る訳なく、自身の魔法を自身で受けている。
ライチェスはラチェットンが暴走してる時点で決着が付いたのでアシュナの元へ近寄る。


「シュナ、どうだい?僕は君に相応しい相手になれたかい?」
「うん、ライちゃんはやっぱり凄いよ。昔から私を驚かしてくれる。むしろ、私の方が相応しいのか不安になっちゃうもん」


シュナは涙を出していたが、嬉しそうな表情をしていた。
それを見てライチェスはアシュナを抱きしめる。
ライチェスはもう一度この子を守ろうと心に誓った。
しかし、ライチェスは背後で喚いているラチェットンが耳障りで仕方なかった。


「さて、後はあなたをどうするかだけど・・・」


ライチェスはラチェットンに断魔銃をこれが最後だと言わんばかりに向ける。


「シュナに土下座して今までの言動の謝罪をするか、このまま自分の魔法に抗い続けて魔法使いとして終わるか好きな方を選びなよ」


ライチェスはアシュナに土下座するか、魔法使いとして終わるか選ばせる。
一度、魔法による暴走を起こすと最悪、その後遺症により魔力の行使が不安定になってしまい、まともに魔法が使えなくなることがある。


「ふ、ふざけるなぁぁぁあああ!!こんなもの・・・ああああああ!!」


ラチェットンはそれでも抗い続ける。


「ああ、そう・・・これでも結構譲歩したんだけどね」


ライチェスはダメ押しで更にラチェットンの魔力を暴走させる。


「お、おお、凍る、私の、身体が・・・凍って・・・」


ラチェットンは憎々しげな視線をライチェスに向ける。


「絶対に許さん、ぜっ、た、い、に・・・こ・・・ろ・・・」


ラチェットンは完全に凍り付き動かなくなった。


「・・・許してくれとは言わない。何故なら、あなたのした事を僕は許す気など無いのだから」


ライチェスは疲れたような憂い顔でラチェットンに話しかける。
もちろん返って来たのは、ただの沈黙だった。

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