消滅の魔女と四英傑 〜天才少女、異世界へ降り立つ〜

酒粕小僧

魔法都市クレイガルド

魔法都市クレイガルド、ここはかつて魔人が栄華と繁栄をもたらした地でクレイガルド領の都市である。
中央の広場には店が立ち並び、街の図書館には世界中の本が集まっているという。
この街は四割が研究所などの研究施設、二割がギルドを含む商業施設、残り三割が民家である。
そして、魔人の街だけあって魔人が多い。
そして、龍人や鳥人が次に多く、人間や獣人がちらほらと見られる。


「何というか、人間や獣人は少ないとして、鬼人がまったくいないわね」
「そもそも、龍人、鳥人、魔人は魔の民と呼ばれて魔法に特化した種族ですからね」


それに対して、鬼人、獣人、人間は力の民と呼ばれている。


「人間では師匠のように高い魔力を扱える方は滅多にいません」
「そういえば、人間は魔力が乏しいけど、物に魔力を定着させるのが得意だったかしら?」
「『付与魔法』って言って人工的に魔装具や魔道具を生み出す事が出来る魔法です。正直、あんな器用なことが出来るのは人間くらいですよ」


『付与魔法』は実際やるとかなり難しいらしく即席の付与は誰でも出来るらしいが、永続的に魔力を付与するには熟練の腕がないと難しいらしい。
実際に、クリスもやってみたが出来なかった。
前の世界でもそうだが、熟練の職人って凄いんだなと思ってしまった。
そう考えると自分に出来たことは理論を組み立て実験して結果を出す事しかやってなかった。
こういうのはおそらく考えて出来るようなものではなく、長年の経験と勘が、必要なのだと感じた。


「そういえば、収納魔法は上手くいきましたか?」
「最初は慣れなかったけどもう慣れたわ」


クリスはガレスからもらった天穿槍『ロンド・グラン』を収納魔法でいつでも使えるようにしている。
パントとの戦いを教訓にクリスは、天穿槍『ロンド・グラン』を使いこなせるようにした。
したはいいが、やはりガレスが言ったように天を割ることは出来なかった。


「それにしても祭りまであと四日あるのに凄い賑わいね」


クレイガルドは多くの人で賑わっている。


「『マギナフェスタ』は一月かけて準備をしますからね」
「かなり力が入ってるようね。これは私も頑張らないといけないわね」


クリスはいつも通りのやり方で稼ごうとしている。
当然、こういうイベントでは悪い事を働く連中も多くなるからだ。
警備がいるからと言っても全ての悪事を見つけられる訳がないのである。


「とりあえず、宿を取るわ」


クリスが選んだのはどう見ても貴族が使うような高級な宿だった。


「お客様、何名様ですか?」


清楚な服を着た男がクリスに人数を尋ねる。


「三人よ。一人部屋一部屋と二人部屋一部屋あいてる?」
「かしこまりました。金額はこれほどになりますが」


その金額は一部屋一ゴルドだった。
一般的な宿は一部屋五十シルバである、
そう考えるとなかなか良心的であった。


「さて、部屋割りだけど・・・」
「僕は一人部屋の方で」


クリスが言い出すとライチェスが割り込む。
ライチェスの表情がかなり必死である。


「私はライちゃんと一緒がいいな」


アシュナは当然こう答える。


「まったく、落ち着きなさい。一人部屋は私、二人部屋はあんたらよ。子供は子供同士仲良くしなさい。他のお客さんの迷惑はかけないように、以上」


まるでクリスは引率する先生のようである。


「やったー」
「・・・」


アシュナは物凄く喜んでいるが、それとは対照的にライチェスは落ち込んでいる。
終わったとかそういう表情をしていた。


ーーーーー


クリスが部屋に入るとその部屋は貴族が使うだけあってかなり豪華だった。
戸棚を開けると魔法によって温度管理された葡萄酒があった。
前の世界でいうワインセラーという奴だろう。


「そういえば、酒って何歳から飲めるのかしら」


クリスはこの世界の酒の扱いを知らなかった。
そもそも向こうでは飲んだことすらなかったのだ。


「一応、人間と魔人は十八から飲めることになってますね」


クリスの質問に答えるのは隣にいるニーナだった。


「へぇ、種族によって違うのね」


ニーナはいてもいなくても変わらないと言う事ですついて来ている。
「ところで、良かったのですか?」
「何が?」


ニーナはライチェスとアシュナの事を言っている。


「あの二人のことですよ。何か間違いが起きなければいいですが・・・」


ニーナはそう言いながらも何やらニヤニヤしている。


「残念ながら、あんたの期待してることは起きないわ。アシュナに至っては箱入りだし、ライチェスみたいなヘタレにそんな度胸あるとは思えないわ。それに二人はまだ子供よ。あんた何考えてるのよ」


クリスは呆れながら答える。


ーーーーー


「やったーまた勝った!!」
アシュナとライチェスは部屋にあったオセロで遊んでいた。
「・・・まだ、やるのかい?」


アシュナは次のゲームを始める準備をする。


「うん!!」
『まったく、どうして僕がこんな目に』


ライチェスはクリスがいる隣の部屋の壁を見つめている。


ーーーーー


クリスは通信術式でミュラーと連絡を取る。


「へぇ、『マギナフェスタ』って魔法の大きな祭典なのね」
「それとは対照的に武の祭典というのも存在するな。そっちは『戦技聖覇祭』という祭りで、己の武を競い合う祭りだ。世界各地から強者どもがやって来る」
「なら、アシュナは出るかもしれないわね」
「奴が出るなら俺も出るがな。あの時の決着をつけないと気が済まん」


ミュラーはアシュナに売られた喧嘩の決着をつけたがっている。


「あれだけ迷惑かけてまだ懲りてないの?あんたの頭はアシュナ以下ね」
「撤回を要求する。俺はあんな戦うことしか考えない脳筋と一緒にするな!!」
「子供の言うことを一々間に受けてあんな事をしでかしたあんたが言うことではないわ。あんたらが起こした衝撃波で割れた校舎のガラスを全部弁償したのは何処の誰だったかしら?あんたらは私に迷惑をかけたんだからそれ相応の誠意ってものがあるものじゃないの?」
「うぐっ」


ミュラーは痛い事を突かれ言い返せない。


「だから、その誠意を見せてもらうためにアシュナは快く協力してくれたのにあんたと来たら、文句を言うことばかり一丁前で、少しはアシュナを見習ったら?」
「い、いや、あの鬼人の娘は、もっと不純な理由があってだな」


ミュラーはアシュナはライチェス目的で引き受けただけだと言いたいのだが、クリスは聞く耳を持たない。


「あんたはどこまで自分のしでかした事の重大さを理解してないわけ?私が聞きたいのは反省をしてるかしてないかそれだけよ。それ以外の言い訳なんて聞きたくないわ。私にこれ以上余計な迷惑をかけないこと、それが私があんたに望むことよ」
「あ、ああ」
「返事は?」


クリスはサングラスの奥でギロリと睨む。


「はい」
「よろしい、今回はお留守番だけど行儀よく待ってるのよ」
「俺は犬か・・・」
「躾をしっかりすれば言うことを聞く分、犬の方がマシね」


クリスはミュラーには呆れるしかなかった。
ただでさえ、クリスカースト底辺の男なのだ。
クリスはこの男を信じていいのか本気で考えてしまった。
ライチェスはヘタレだが、やる時はしっかりやってくれる頼りになる男だとクリスは確信している。
もしかすると特別生の中で一番頼りになるんじゃないかとすら思っている。
最初は調子に乗ってる子供というイメージだったが、ここまで頼りになるとは想定外だった。
それ以上に彼には強くなろうという向上心があり、クリスとしては好感が持てたのがある。
ただ、アシュナの前ではしっかりして欲しいところではあった。


ーーーーー


道に迷った魔人の少年が親を探していた。


「どうしたの?ボク?」


その少年を見て女は声をかける。


「パパとはぐれちゃった」
「あらそう、それなら一緒に探してあげる」
「本当!!」
「ええ、もちろんよ」


少年は親を探すのを手伝うという女について行く。
その女は徐々に人通りの道に入って行く。


「本当にここにいるの?」
「ええ、この先にいるはずよ」


少年が更に奥に進むとそこは袋小路で何もなかった。
それに少年が気付いた瞬間、女は少年の首に薬品を打つと少年は意識を失った。
その倒れた少年を女は抱きかかえその場を去った。

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