消滅の魔女と四英傑 〜天才少女、異世界へ降り立つ〜

酒粕小僧

アシュナ・テイゼンVS真・騎士流

リュンが敗北した。
その結果が映像に映し出される。


「リュンが!!そんな!!こんなことが!!アイツは特別生の中では一番の雑魚だったはずだ!!リュンなら歯牙にもかけず勝てる相手だったはずだ!!」


ゲイズは自分の仲間の敗北が信じられずにいた。


『強い!!正直、私も彼が特別生の中で特に抜きん出てるところはないと思ってました。しかも、あの銃は断魔銃『ライネル』伝承では魔力を必要としない代わりに使う度に自分の命を削るものだったはず・・・彼はアレを撃つのにまったく躊躇いがなかった』


断魔銃の引き金を引くのが生半可な覚悟でできることではない事はエリックは知っていた。
あの銃こそが彼の強さを象徴しているようであった。
死ぬ事よりも自分の誇りや矜持を守ることこそが彼には命よりも大切なのである。


「なんなんだ。あの銃は、あんな話し聞いてねえぞ。なんなんだアレは・・・」


ゲイズはあの銃を知らないようだった。


「アレは断魔銃『ライネル』自分の命と引き換えに相手の魔力を削る魔法使い殺しの銃です。名前くらいは聞いたことあるでしょう」
「なん・・・だと・・・」


ゲイズはリュンが負けた理由を理解した。
あの銃は『魔力増幅剤ブースター』の天敵であったことに
いくら『魔力増幅剤ブースター』で魔力を増やせても削られては意味がなく精神が侵されるだけなのだ。


「な、何かの間違いだ。あんな温室育ちの選ばれただけのガキがあの銃を使える訳がねえ」


それに関してはエリックも認識を改めた。
エリック自身、あの特別生の面子の中ではライチェスは平凡な方だと思っていた。
しかし、今の戦いでライチェスも充分な怪物だということを知った。






「うーん、ライちゃんどこー」


アシュナは強制転移で飛ばされ学園内を彷徨っていた。
机の引き出しや棚を覗き混んでもライチェスの姿はない。
そもそも、ライチェスが収まるような場所ではないのだ。
アシュナは訳もなく扉を開け閉めを繰り返して入る。


「うう、ライちゃん」


アシュナは今すぐにでもライチェスに会いたかったのである。
好きな人の側にはいつでもいたいのだ。
大きな通路を抜けると屋上に出た。
そこには、ジンクとジェニスとリカルドが一人の人間の少女に追い込まれていた。


「がはぁ!!」


ジンクがその少女に吹き飛ばされる。


「その程度で私と剣を交えるとは恥を知りなさい」


少女は盾と一体化した鞘に剣を納める。
ジンクの身体はかなり傷だらけであった。


「どうして?治癒魔法が効かないの!!」


ジェニスがジンクの傷を治癒魔法で治癒するが傷が一向に治らない。


「それは高位の呪傷です。超級クラスの治癒魔法じゃないと治癒は難しいでしょう。次は貴女てすか?ゲイズからは殺しても構わないと言われてるので遠慮はしませんが」


ジンクは気を失い、リカルドも立ち上がれる程ではない。
ジェニスに打てる手は最早なかった。
その少女は剣を振り下ろすとジェニスの前に小さい人影が現れその振り下ろした剣を防いでいた。


「『剣帝』!!」


少女の剣はアシュナの刀に受け止められる。


「まさか、『剣帝』が来るなんて、なんて運がいいんでしょう。貴女のような子供には過ぎたる称号です。私が貰い受けましょう」
「いいよ。その代わりライちゃんに会いたいな」


アシュナはアッサリと『剣帝』の称号を譲る。


「まさか、ただで譲れると思ってます?自惚れるのもいい加減にして下さいよ。その称号は剣で相手を倒して手に入れられる称号です。貴女がそうだったように」
「別に欲しかった訳じゃないもん」


少女は剣を打ち込むが、アシュナはそれを打ち返す。
一振りしただけで少女は吹き飛んだ。


「うぐっ・・・かはっ」


少女は唇を切ったのか血を吐く。


「その刀、噂通りですね。私はギィナ・レントル、騎士流の使い手です」


ギィナはヒビの入った刀身を元に戻す。


「何度壊されようと何度でも元通りです。しかし、その刀ではこんな盾も役に立ちませんね」


ギィナは腰に下げた短剣を取り出す。


「うーん、『騎士流』にそんなのあったかなぁ」


『騎士流』という剣術はアシュナは知っていた。
主に人間が扱う剣術の一つで盾と剣を扱う剣術である。
人間は鬼人との交流が特に多い種族なのでその技を何度も見た。
しかし、『騎士流』に二刀流は存在しない。
『騎士流』は盾と剣を基本としているからである。
「貴女もそういうんですね。『騎士流』は古き良き格式ある剣術です。しかし、それでは駄目なのです。剣術とは常に進化をしないとならないのです」
「ふぁーー」


アシュナは可愛く欠伸をした。


「子供には理解できない事ですが、父上が編み出し完成させたこの剣術こそ『真・騎士流』なのです」
『早くライちゃんに会いたいなぁ』


アシュナはギィナの話しすら聞かず、ライチェスに会うことしか考えていない。


「くっ、随分と余裕ですね。いや、剣士なら剣で語れと言いたいのですか!!」


もちろんアシュナはそんな事は考えていない。
ギィナは剣を構える短剣を前に出し長剣を後ろに構え半身の姿勢をとっている。
アシュナは迂闊に攻撃しない。
アシュナの中ではあの『騎士流』は知らないが、『騎士流』は主にそのほとんどがカウンターである。
それこそが、『騎士流』の剣術だとアシュナは祖父から聞いていた。
そして、祖父は『騎士流』が相手の場合、絶対に攻撃を最初に仕掛けてはいけないと言っていた。
アシュナはあの短剣の意味を構えを見て理解した。
あの短剣が盾の役割を担っているのだ。
打って来た相手の攻撃をあの短剣で捌き、もう片方の剣で攻撃するのだ。
しかし、アシュナは攻撃を仕掛ける。
アシュナの持つ、超重刀『黒曜』の前では全ての武器が灰燼と化す。


その圧倒的な攻撃力と破壊力がこの刀の力なのだ。
ギィナが攻撃を防ぐとアシュナは吹き飛んだ。
ギィナは攻撃を短剣で防いだだけだったのである。


「いたたた、うーんどうしてだろ?」


アシュナは吹き飛ばされたがその理由が分かっていない。
そして、考えようとしないのだ。


「まったく、どうして前の『剣帝』はこんなお馬鹿さんに負けたのでしょうか。子供だからと油断でもしたんでしょうね」


アシュナは懲りずに何度も斬りかかるが何度も防がれ何度も吹き飛ばされる。






「アレって、まさか、反力剣『リフレク』!?だいぶ昔にガラーディン皇国の皇城から盗まれた剣がどうしてここに!!」


ガラーディン皇国とは人間の国である。
反力剣『リフレク』はガラーディン皇国の御神三剣の一つであった。
その剣は傭兵になりすました賊に盗まれたという話しである。
その短剣の力は攻撃するとその力が自分に返って来るが、攻撃されるとその力を相手に返す短剣である。
御神三剣の中では最も使い難く、これを扱う者があまりいなかった為、御神三剣の中で最も影の薄い剣なのだ。
相手の力が強いほど返せる力が強いが、当時に同じ力を持つ盾があったのでよりその影の薄さを増したのだという。
なので、その剣に関しての警備は杜撰そのものだったのである。
そして、その力を失うと同時に盾の力を失ったのだという。
後で調べるとあの剣は、聖盾にその力を付与させる為に使われており、反力剣の恩恵を失った盾は反射の力を失ったという。
影は薄かったが、その剣の力は本物であったという。


「・・・その剣、私の攻撃を跳ね返してるの?」
「それを素直に答えると思います?」
「その剣ではなく盾の話しなら、おじいちゃんがよくしてくれたよ。おじいちゃんのおじいちゃんがかなり苦しめられたと自慢のように話してたって・・・その時はその意味は分からなかったけど、きっとおじいちゃんのおじいちゃんもこんな気持ちだったのかな。要するにその剣に勝てれば今の私に勝った事になるんでしょ。私が私の力に打ち勝った事になるんでしょ」


あまりにも無邪気にも傲慢な言葉にギィナは呆気に取られる。


「そこまでの強がりをよく言えたものです」


ギィナは短剣を前に出し踏み込む。


「『ラヴェル』」
ギィナは短剣を前に突き出しアシュナはそれを防ぐと短剣を引き頭上から長剣を振り下ろす。
アシュナはそれを鞘で受け止める。
短剣を下方から突き上げるとアシュナは間合いを取る。
ギィナは更に間合いを詰め長剣と短剣を同時に突き出す。
アシュナはそれを斬り伏せようとするとギィナは長剣の方の手を引き、短剣でその攻撃を受ける。
アシュナは反力剣の力により吹き飛ぶ。


「フフ、どうです?なかなかの力でしょう?魔力の消費が多いのが不便ですが、これがあればどうとでもなります」
ギィナは、『魔力増幅剤ブースター』を使い魔


力を補充する。


「うぐっ・・・」
アシュナは転びそうになるが立ち上がる。


「まだまだ行きます!!『ノクターン』」


ギィナは長剣と短剣を同時に振り下ろす。
アシュナはそれを受けずに背後に跳び避ける。
明らかに誘ってるのが分かったからだ。


「!?」


アシュナの足元が突然沈んだのだ。
その隙をギィナは見逃さなかった。


「かかりましたね。私が魔法を使えないと思っていたようですね」


ギィナは土魔法によりアシュナの足下を取ったのだ。


「『レクイエム』」


ギィナは短剣を振り下ろし、それを鞘で受け止めて反射を回避し、その反動で回転して下から迫る長剣を刀で受け止める。
「・・・今のはやったと思ったんですけどね」
「うん、今のは危なかった。凄く興奮したー。『剣帝』程ではないけどね。アレが血湧き肉躍るって奴なのかも」


アシュナは刀を鞘に納める。
アシュナは刀じゃなく鞘の方を持つ。






「う、うう」


ジンクは意識を取り戻しゆっくりと起き上がる。


「・・・ジンク!!」
「おい、一体どうなってやがる。あの剣士と『剣帝』が戦ってるように見えるが」
「ねぇ、本当にあの子前の『剣帝』を倒せる程強いの?」


ジェニスはボロボロのアシュナを見ながら話す。


「なんだ、手酷くやられてるじゃねえか。こりゃあいい」


ジンクは何やら楽しそうだった。


「何言ってるのよ。このままじゃやられるわよ」
「ハハハ、やっぱりそうだよな。喧嘩は相手にも華を持たせてやらねえとな!!例えそれが自分より格下だろうがな!!やっぱりお前さんは俺っちが最も尊敬する爺さんが自慢するだけはある!!」
「一体何を言ってるの?」


ジェニスはジンクが何に納得してるか分からなかった。


「俺っち達のいや、鬼人の悪い癖だ。相手が格下だろうと華を持たせたくなっちまう。これは鬼人の性って奴だ。戦いを純粋に楽しみたくてギリギリまで手を抜いてしまう。力が強ければ強い奴ほどその傾向が強く死ぬ直前にならないと本気にならない奴もいるくらいだ。寝てたから分からねえが、あの『剣帝』は技を使ったか?使ってねえだろ」


ジェニスが見た限りだとただ剣を振ってるだけだった。


「あの『剣帝』は技を出してからが本番だ。いいねいいねー、『剣帝』の技を生で見れるなんて」


ジェニスはここまで興奮しているジンクを始めて見たと同時にドン引きしていた。
鬼人にとって強さこそが美しさであり、魅力なのだ。


「あの構えって」


ジェニスはアシュナが鞘を持つ構えを指指す。
「『遊剣』の構えの一つだな。だが、アレは『遊剣』とは少し違う『遊剣』の構えは真ん中辺りを持つが、アレは上過ぎる」


ジンクも同じ剣術を使う為、その剣の構えは知っていた。


「『遊剣』ね。その剣術は知っています。先程戦いましたからね。大した事ありません」
「そうかなぁ、前の『剣帝』さんと遊んだ時はこれに四苦八苦してたよ」


アシュナは鞘から刀を天に放ち鞘に納める。
刀と鞘が鎖で繋がっているが、刀を剣玉のようにして遊んでいる。


「それに私は『遊剣』じゃなくて『參纏剣サンテンケン』だよ」


アシュナは鞘から刀をギィナ目掛けて放つ。


「見切っ!?」


アシュナは鎖に指を引っ掛け刀の軌道をずらす。
ギィナは短剣でそれを防ごうとしたが軌道をずらされ、回避せざるを得なかった。
アシュナはその刀を鞘に納めキャッチする。


「『刺刀』」
アシュナは更に刀を放つ。


「何度も同じ手が!?」


アシュナは手元の鞘と鎖で軌道を変える。


「!?」


ギィナの短剣を持つ手に鎖が絡まると、アシュナは鎖を振り上げる。
刀を手元に引き戻すと同時に空中に放り投げられたギィナは、風魔法で落下の衝撃を抑えようとしたがそれはアシュナの放った鞘が打ち払い、そのまま落下する。


「ガバァッ!!」


ギィナはそのまま地面に叩きつけられ倒れた。


「うーん、『剣帝』さんの方が強かったなぁ。だってこんな簡単に壊れなかったもん」


ギィナは、アシュナの攻撃を跳ね返す事しか考えていなかった。
アシュナはその隙を突いたのだ。
この『刺刀』の強みは軌道が不規則で読まれ難い事である。
そして、鎖を使う絡め手を使えるからだ。


「なっ、勝ったろ」
「確かに勝ったけど、あの技ってジンクが防がれてた技よね」
「俺も正直あんなの見たことねえ。爺さんでもあそこまでの芸当はまず無理だ。まるで鎖に意思でもあるかのような動きだからな。あの圧倒的な強さ憧れるぜ」


その後、ジンクが彼女のファンクラブを設立するのはまた別の話である。

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