消滅の魔女と四英傑 〜天才少女、異世界へ降り立つ〜

酒粕小僧

不本意な異世界転移

神童と呼ばれたとある少女がいた。
彼女はありとあらゆることを理解し生み出した。
彼女の力により一世紀時代が進んだと言われている。
誰もが賞賛し褒め称えた。
しかし、彼女は今を生きるのに飽きていたのだった。
必死にならなくても手に入る。
ただ考えるだけでいい。


『私にそこまでの価値があるのだろうか』


彼女は自分自身のことを良くは思っていない。
彼女はいい意味でも悪い意味でも技術を革新していった。
最終的に彼女は自分自身が分からなくなっていた。
直接ではないが、大量の人を殺す為に手を貸してしまったのだ。
考えが甘かったのだ。
善意で手伝って欲しいと頼まれた結果がこれだった。
自惚れていたのだ。
良かれと思ってやった事が実際は、人を大量に殺す殺人兵器を生み出したことだった。
人の悪意というのを知るのには彼女はまだ若過ぎたのだった。


『私何のために生きてるんだろう』


そういう自問自答を繰り返す日々、いつもなら考えて数秒で答えが泉のように湧いて来る。
しかし、その問いはいつまで経っても出なかった。
そんなことを考えている時だった。
誰だったか憶えてはいなかったが彼女を呼んだ。
そもそも彼女は人の顔と名前を憶えられないほど人に興味を失っていた。
考えてみると両親の顔と名前すら憶えていないのだ。
そもそも、いたのかさえ怪しくなって来ていた。
しかし、一つだけ思い出した。
目が恐怖の色に呑まれた両親の顔が、その顔が彼女に向けられていたことを思い出した。
今やそんなことはどうでも良かった。
とりあえず彼女は呼ばれたので研究室に向かった。
そこには制作途中の転送装置試作機があった。
彼女の理論上では、物理的に接続された機械同士間での転送は可能だが、コストや色々な手続きが必要で現実的ではないと中断した計画だった。
この男はそれを引き継いだのだ。
別にそれをするのは怒りはしなかった。
いつもの事であるから別段怒りはしなかったのだ。
理論を組み上げたのは彼女だが、実行するのは別の者がやるのはよくある話だ。
だからといって、少なくとも彼女が蔑ろにされることはなかった。
報酬の一部をもらっていたし、名もそれなりに売れ表彰もされている。
男は彼女に転送装置内部に不具合がないか頼んだのだ。


いつもなら、設計図を出してどこが悪いか指摘するだけだったが、今回は直接見て欲しいとのことだった。
極々稀にこういう時もあるから彼女は全くの無警戒だった。
彼女が入った転送装置のハッチが閉じたのだ。
それに気付いた彼女は必死にハッチをこじ開けようとしたが、非力な彼女にはそれは叶わなかった。
その時彼女はガラス越しから男の恐怖に満ちた表情そして、『死ね。この悪魔』と唇が動いていたのだった。
それを見て彼女は理解した。
必死にならなくてもなんでも出来る彼女は、必死になっても何も得られないものにとっては恨まれて当然なんだと。
この男の顔は知っている。
いつかは憶えてはいないがかつての両親が見せた表情だった。
それに気付いた瞬間、彼女は意識がなくなったのだった。


目を覚ますと広い空間が広がっていた。


『ここは・・・』


彼女はあの転送装置が何にも接続されていないのを知っていた。
その際、転送を行なった場合どうなるかは分からなかった。
しかし、彼女はここで理解した。
接続先が無い場合、意図しない空間に飛ばされるということに。
だとしたら、これは生きているというのだろうかという疑問も出て来るが彼女は考えない事にした。


『何故ここにヒトがいる?』


彼女の頭上から光が差し込む。
脳内に直接響くような声だった。


『・・・成る程、理解した。それは難義なことであるな』


その声の主は彼女に何があったのか理解した。


『どうやら、おぬしの世界はおぬしという力を持て余してしまったようだな』


その声は彼女に対して同情的だった。


『そこで一つ提案なんだが、おぬしの力を余に貸してはくれぬか?』


勝手な事を言うと彼女は思った。
彼女はこれ以上何かに関わるのは嫌だった。


『勝手なことか、だがよく考えてみるがよい。おぬしのいた世界におぬしの居場所はあったか?切磋琢磨しあう仲間はいたか?』


今更、そんなことを考えてどうするのと彼女は思う。
彼女にとって、それは一番興味がなかったことだった。


『本当は怖いんだろ。自分の両親がそうだったようにおぬしに恐怖する顔を見るのが』
『!!』
『なんで分かるか?それはおぬしの過去が見えるからだ』


思い出してみるとそうだった。
彼女が良い成績を出せば出すほど、良い成果を出せば出すほど最初のうちは褒めてくれた両親もいつの日か余所余所しくなっていった。
両親は自分達の娘の才能が怖くなったのだ。


『そうだ。あの後、施設に入れられたんだ』


彼女はそれに関しては何不自由してなかった。
両親は何のために彼女を施設に預けたのか、当時の彼女は理解していなかった。
その時からだろうか、自分は特別なんだと彼女は思い出したのだ


『今ならよく分かる。私は特別なんかじゃなかった。ただ愚かなだけだった』


彼女が施設に預けられて四年が経った頃だった。
偶々、公園で論文を読んでいると目の前にベビーカーを引き世間話しをしている女性を見かけた。
その女性は見間違いようもない自分の母親だったからだ。
しかし、彼女が声をかけて返って来た言葉は彼女が思ってた現実を突き放すものだった。


「えっと、どなたですか?」


その声は冷ややかでとても冷たいものだった。
何回か会話をするが最終的には訴えると言ったものだ。


DNA鑑定をすれば分かると彼女は食い下がるが、するまでも無く分かる事だと話にすらならなかった。
ここでようやく彼女はあの時の両親の顔と施設に預けられた意味を知った。


それを知ったと同時に彼女は人に興味を失った。


『おぬしには悪意はなかったかもしれん。しかし、ヒトは得体の知れないものに恐怖するものだ。おぬしの両親はおぬしの中に得体の知れぬ何かを見たのだ』
その声は、彼女を説得するようなものだった。
『それで、どうする?余の話に乗れば前の世界では手に入れることができるぞ』
『・・・興味ないわ』
『ナニッ!!』


声の主はここまで引っ張っておいて断られるとは思ってなかった。


『生憎と今更、やり直したいとか思ってないの。残念だったわね』


彼女は声の主の話しに全く興味がなかった。


『どうやら、余はおぬしと言うヒトを少し見誤っていたようだ。おぬしは今の状況を理解しておるのか?』


声の主は別に慌ててはいないが、落ち着いてもいない。


『おぬし、肉体を失っている事に気付いてないな』
『・・・何となくそんな気はしたわ。アレに巻き込まれて無事で済むはずないもの』


彼女は声の主の言葉を特に驚いてはいなかった。
彼女にとっては当然な事だと思っていた。


『だとするとここは死後の世界ってこと?科学者の私は全く信じてはなかったんだけどね』
『ここは世界の狭間、ヒトが神と呼ぶ者が住まう場所』


それを聞いた瞬間彼女は今までの人生でないほどに笑
った笑ってやった。


『・・・まさか、ここまで笑わせてくれるとば思わなかったわ』
『おぬしには信心というものはないのか?』
『お生憎様、そういう感情は持ってないの。あるのは、損得感情くらいなものよ』


彼女は人に興味を失ってからは、損得感情しか持ち合わせていなかった。
メリットとデメリットでしか人を見れなくなっていたのだった。


『それに科学者に神の存在の問答をする時点で問題外ね。答えはいないに決まってるもの。そんな分かりきった答えを問答しても意味ないでしょ』


だから、彼女は笑ったのだ。
彼女が最も否定し、無意味だという存在が目の前に現れた。
自分の考えた答えが尽く覆されたのだ。
それが笑わずにはいられなかった。


『神を前にして言うこととは思えんな』


声の主は呆れるしかなかった。


『面白いわ。私の知らない事がまだあるなら、それを見てみたい。まだ見ぬ景色を見てみたい!!』


この時、神は気付いた。
彼女は人への関心を失った代わりに貪欲な程の知識を欲したのだと、そしてどうして『智の神』である自分が興味を持ったのか。
この者の満たされぬ感情は、前の世界では彼女の知識についていける者がいなかったからである。


『おぬしの心情の変化に感謝しよう。その前に、おぬしには肉体を授けよう』


「・・・何よ。ここ?」


彼女は光に包まれると目の前は暗闇の中だった。
上を見上げると断崖絶壁で谷底にいることを理解できる。
何かに導かれてここに来た事は憶えているが、その何かが霞みがかったように思い出せない。
その場に立ち上がると目の前に数枚の羊皮紙が落ちていた。


「えっと、なになに・・・」


彼女は羊皮紙を拾い上げそれを読む。

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