爆ぜろ!魔法少女いちごちゃん

空空 空

空白の幽霊 その2

 放課後。
駅の近くのショッピングモールで、いちごちゃんと買い物をしていた。
日用品の補充だけして帰るつもりだったが、突然雨に降られてしまった。
そして......。
「夜だ」
「夜だね」
 雨が止むまで待機していたが、その頃には、陽はどっぷりと落ちてしまっていた。
「今何時......?」
 いちごちゃんに訊く。
「さっき時計見た時は七時半だった」
 一応、公衆電話で連絡はしたが、やはり遅くなりすぎだろう。
「急いで帰らないとね......」
 雨は降っていないが、空模様はまだ怪しい。
 不安ながらも、外へ踏み出すと、濡れた路面を車のライトが滑っていた。
 車の走行音と、私たちの足音だけが聞こえる。
「ねぇ......小鳥ちゃん?」
「ん?」
 ビニール袋が脚にぶつかって、揺れる。
「ブランク通って帰らない?」
「え......?危ないでしょ......」
 魔法少女は能動的にブランクにアクセスできる。
あれ以来も、何度か調査に潜り込んでいる。
「でも......暗いし、怖いし......」
 いちごちゃんが俯き気味に言う。
「んー......。でもなぁ......」
 二人だけの時に魔獣に遭遇したらたまったものじゃない。
「大丈夫だよ!調査に行った時も居なかったし......」
 いちごちゃんが手を合わせて、私を見上げる。
「まぁ......じゃあ、しょうがないなぁ」
「やった!これで一安心だよぉ......」
 いちごちゃん私の手を握る。
「じゃあ、いくよ......!」
 景色が一瞬歪む。
雨上がり特有の匂いが消えて、世界から一切の暗闇が払拭される。
 真っ白な世界。
空も道路もビルも、全てに色がない。
 不気味ではあるが、少なくとも幽霊は出なさそうだ。
それに妙に居心地がいい。雑音がないからだろうか。
 いちごちゃんが辺りを見回して言う。
「大丈夫そうだね」
 白く塗り変わった世界には、魔獣の影はなかった。
「いちごちゃん、最近例の気配とか感じるの?」
 歩きながら話す。
「......それが、さっぱり」
「じゃ、結局気のせいじゃんか」
「そんなこと無いさ。......多分」
 不服そうだが、あまり自信も無いようだ。
「確かに前は感じたんだけどなぁ......」
 真っ白な空を見上げて、ため息混じりに呟いていた。
 私も釣られて、何もありはしない空を見上げる。
混じり気のない白だけが、そこにあった。
「あた......」
 空を見上げたまま歩いていると、急に立ち止まったいちごちゃんにぶつかった。
「ちょ......何?どうしたの?」
 いちごちゃんが勢いよくこちらに振り向く。ツインテールが私を掠めた。
 そんなことは御構い無しに、いちごちゃんが嬉々として叫ぶ。
「ビビッと来たぁぁぁあ!」
「何が......?」
「気配を!久しぶりに!感じたのだよ!」
 だとしたら嬉しく無いことな気がするが......。
「えっと......じゃあ逃げる?」
 私が言い終わる前に、いちごちゃんが変身する。
「様子見くらいなら無茶じゃないよ」
「えぇ......」
 果たして様子見で済むだろうか。
ただでさえ、今のメンバーは機動力がない二人組だ。
 いちごちゃんが手でひさしを作り、辺りを見回す。
すぐにその動作は終わり、今度は錆びたロボットみたいにぎこちない動作で私の方を向く。
 動きが独特で、ちょっと面白い。
「あれ......」
 ポーズを変えずに、固まったまま、焦り顔で言う。
「どれ......?」
 そんなに分かりやすく強そうなら、すぐ見つかりそうなものだが......。
「あれ、あれ......!」
 いちごちゃんが、遠くのビルを指差す。
そこには......。
「人......?」
 遠いものだからよく見えないが、ビルの天辺に人......らしきものが立っていた。
 表情は分からないが、黒い髪に、異様なまでに白い肌の対比が目立つ女の人だ。
その佇まいはまさしく、幽霊のようだった。
「こ、小鳥ちゃん......やっぱ普通に帰ろうよ」
 顔には汗が浮かんでいる。おそらく、暑さによるものではないだろう。
私もなんとなく、背筋に寒気を覚える。
「でも、人だとしたら助けないと......」
「あうぅ......」
 私も覚悟を決めなければならない。
 いちごちゃんの肩を掴んで、体の向きを固定する。
「私盾にしないでよ......」
「いや......」
 別に怖い訳では無いが、手を離すのをためらう。
 そして......。
「「あっ......」」
 少女の姿が、消えた。

 「あれは、やっぱり幽霊だったよ」
「幽霊なわけないでしょう。......全く、二人とも危険な行動は謹んでください」
 遅い夕食を摂りながら、今日の事件の報告をする。
「でも、じゃあ何だろね」
 大牙が私の皿から、おかずをつまみ食いしながら言う。
手で食うな、手で。
「まぁ......考えられるのは、ただの人か、それかもしくは......魔法少女......でしょうね」
 大牙の手の侵入を箸で防ぎながら、ぼんやりと聞く。
「魔法少女って、他にも居るんですか?」
「そりゃ居ますよ」
 海月さんは、一瞬だけ大牙を見た。
 大牙は視線に気づかないまま、箸と格闘している。
「だとしたら、早く見つけてあげないと......」
 いちごちゃんが、食事の手を止め呟く。
「ええ。そうですね」
 そう言って、海月さんは少し苦い表情をした。
 

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