爆ぜろ!魔法少女いちごちゃん

空空 空

激走!電車型魔獣!その8

 ビルの隙間を吹く風が、髪を揺らす。
下を見れば、道路は遥か遠く。
 私は今、鎌を片手に光のレールの上に立っている。

 「ねぇ......そういえば、遺物どうしたの?さっちーに見せてから見かけないけど......」
 リビングのテーブルの下で、アイスを舐めながら漫画を読んでいた大牙が訊いてきた。
「えっと......」
 これは非常にめんどくさい質問だ。感覚的なもので、説明が難しいのだ。
 眉間に皺を寄せ、絞り出した言葉を呟く。
「なんか......仕舞える......」
「は......?」
 大牙は分かっていなそうだ。
「んで、出せる......」
 そう言って、鎌を取り出す。
横に伸ばした腕の周囲の空間が歪み、音もなく鎌が出現する。
 少し紫色を帯びた鈍色の大鎌。
この部屋にはひどくミスマッチだ。
「おぉ......すげぇ」
 大牙のリアクションを頂戴してから、仕舞う。
空気に滲むようにして消えていった。
「あ、そうだ」
 大牙が、何かを思い出したかのように言う。
「何?」
「これ、いちごちゃんには秘密なんだけど......」
 大牙がそこまで言った時、部屋の扉が開かれる。
 いちごちゃんを連れた海月さんの入室だ。
「いちごが、また気配を感じたみたいです。もう合ってんだか合ってないんだか分かりませんが、これより作戦会議です。そののち出発です」
 いちごちゃんはまだ少し不安そうな表情をしている。
 いちごちゃんを隣の席に呼び、座るよう促す。
 大牙も立ち上がって席についた。
 海月さんが立ったまま続ける。
「今回の作戦の要は小鳥さんです」
 そう言って、私に視線を送る。
「え?......私?」
「はい。あなたの遺物が、魔獣に明確なダメージを与えました」
「他の人が使えばいいんじゃないの?」
「遺物には、波長のようなものがあって、それが合わないと使用出来ないことが幻想砲から明らかになっています。現にあれは今のところ、幸さんとあなた以外が持った時には発光しません」
「まじか......」
 いちごちゃんが、小さな声で異議を唱える。
「でも、小鳥ちゃんには二人みたいな機動力がないし、危ないよ」
「それは百も承知です。しかし、手がないわけじゃありません」
 大牙が呟く。
「誘導......」
 レールを切れば誘導できるかもしれない。実際に私が考えたことでもある。
「レールを切られたことが認識出来るのはほぼ間違いないです。こちらでも確認済みです。と言ってもあなた方が補足されてからは目もくれなかったですがね......」
 それでも、まだいちごちゃんは折れない。
「それでも、危ないよ......。私、小鳥ちゃんが死んじゃったら、やだよ......」
 昨日から、すっかり自信をなくしてしまっている。
「私たちだって嫌です。だからその事態を招くわけにはいきません。私と大牙は、小鳥さん付近のレールを断ったのち、魔獣の攻撃ルートを絞るため他のレールを壊して回ります。なので小鳥さんの命は、あなたに預けます」
 いちごちゃんが、息を呑む。
「そ、そんなの......」
 いちごちゃんが私を見る。
「小鳥ちゃんは......それでいいの?」
 そう。一番危険なのは私なのだ。
上手くいかなかったら死ぬのは私なのだ。
 なのに、不思議と抵抗はない。
「私はやれると思う」
 私には戦う理由があるのだ。
それに気づいた。
 泣きそうになっているいちごちゃんの顔を見て、そしてその頭に手を乗せる。
 いちごちゃんに笑いかける。
「大丈夫だよ。私に任せな」

 昨日と同じ場所だ。
世界が白く滲む。
しかし周りの人々はブランクに取り込まれない。
「狙いはボクらだけってことね」
「餌の選別をするなんて贅沢なやつですよ」
 既に変身を済ませた二人が振り返り、私たちを見る。
 一度いちごちゃんに視線を送ってから、ゆっくり頷いた。
 大牙が私といちごちゃんを脇に抱える。
 ビルは昨日の惨状が嘘のように、傷一つ付いていない。
ただ一つ、昨日の通りなのは空のレールだけだ。
 それを目指して、大牙が跳び上がる。
 舌を噛みそうになりながらも、いちごちゃんに語りかける。
「大丈夫。上手くいくよ」
「うん......」
 レールの上に辿り着く。
 すぐさま大牙がレールを切って離脱した。
 戦闘開始だ。

 レールが断たれるのを待っていたのか、突然姿を現し、まっすぐそちらへ向かう。
小鳥の立っている場所に、横からぶつかるルートだ。小鳥たちからはビルで見えない。
 大剣を傾け、加速する。
魔獣の前まで滑り込み、そのレールを寸断する。
 私をその目で捉えた魔獣が、ターゲットを変更しようとするが、私が離脱すると経路を変え、再び小鳥の方に向かって走り出した。
「やっぱり、止まってる方を狙いますか......」
 都合のいい動きをしてくれたので、内心盛り上がる。
あのままのルートで行くと、正面衝突だ。流石に反応出来ないってことはないだろう。

 「あのまま行くと......」
 魔獣のルートを確認する。
「お、さっそくいいルートに乗ってくれてるねぇ」
 あとは二人しだいだね。
目を細めて、小鳥ちゃんたちの方を見る。
「後で小鳥ちゃんにもあだ名つけよぉ」
 魔獣の選択肢を一つに絞るために、再びレールを蹴る。
尻尾が風を切る感覚が心地よかった。

 正面には鎌を持った小鳥ちゃん。
後ろはレールが切られ、接続が断たれている。
 音が近づいてくる。
それに伴って、小鳥ちゃんが身構える。
 その体を絶対に傷つけさせはしない。

 数十メートル先のカーブを曲がってくるのが見える。
作戦は概ね上手くいっているようで、予定通りのルートだ。
 鎌を握る手が汗に濡れる。
鼓動が早まる。
 私が見つめるのは、ただ一点。
 足に振動が伝わる。
息を吸って、吐く。
距離が縮まる。
接触まで......さん、にい、いちっ!
 レールを蹴って横に跳ぶ。
鎌の刃はしっかりと魔獣を捉えている。
 いける!
衝突の衝撃が鎌から腕に伝わる。
痺れる腕で鎌にしがみつく。
目をぎゅっと瞑り、魔獣がこと切れるその時を待つ。
 しかし、その時は来なかった。
その衝撃のまま、体が押し出されて......。
 予期せぬ事態に動転する。
なんで切れない?
どうして!?
分からないまま、どうしようもないまま宙を舞う。
死は、すぐそこにあった。

 目の前の小鳥ちゃんが吹き飛ばされる。スローモーションみたいに、時間の流れをゆっくりに感じる。
 計画が破綻した。
また一人、魔獣の犠牲者が......。
「なんて言ってられるか!!」
 叫ぶ自分の声が遠くに聞こえる。
 小鳥ちゃんと同じように、横に跳び、そして小鳥ちゃんを受け止める。
 その勢いのまま景色は流れ、背中がビルに打ち付けられる。
あまりの衝撃に、息が止まる。
目の端には、涙が滲む。
けど......小鳥ちゃんは私の腕の中で息をしている。
 ビルに指を立てていると、幸い窓枠に引っかかり落下は免れた。
 指の腹が熱くなって、血を垂れ流す。
 そんな中、去りゆく魔獣の後ろ姿を捉える。
「この距離で......当たるかな......」
 当たる当たらない以前に、当たっても効かない。
でも、一矢報いてやりたかった。
 私の視線の先が、走る魔獣が、爆発する。
 私の力だ。
誰も救えない私の力だ。
 ところが、煙の中から魔獣が落下していくのが見える。
その体は歪み、赤熱している。
「効いた......?」
 街の中に撃ち落とされて、ビルを薙ぎ倒す魔獣をもう一度爆破する。
今度は全く影響を受けていないみたいだ。
「どういうこと......?」
 そこに海月が飛んでくる。
「分かりました。勝てます。あいつの注意を引き続けてください。もう逃がしませんよ......」
 ビルから降ろしてもらい、魔獣のもとへ向かう。
もう体表は冷えて元の色に戻っている。
 意識の無い小鳥ちゃんを背負って、何度も爆破しながら走る。
だが、やはり効かない。
 魔獣は、先程の攻撃が相当頭にきてるみたいで、地べたにレールを敷いて真っ直ぐにこちらを目指す。
 そのレールを跨いで、仁王立ちして叫ぶ。
「かかってこいよ!」
 私は魔法少女。
そう。
「魔法少女いちごちゃん!参上だ!」

 「大牙、いいですか?絶対に見つからないでください」
 連続して起こる爆発が、地を抉り、敷かれたレールを破壊し、街を照らす。
「いいけど......だって効かないよ」
「大丈夫です。効きます。出来る範囲の最大威力で叩きこんでください」

 呼吸するたびに、身体中が痛む。
でも、この足を止めちゃいけないし、止めるつもりもない。
 魔獣を爆破しながら走る。
歪んだその体を見れば、あと一撃で仕留められそうなのに、攻撃は全く通らない。
 魔獣を挟んだ向こう側に、海月が見える。氷片を棘のようにして飛ばしているが、当然ぶつかって砕け、魔獣の体を濡らすだけだ。
 だが、魔獣もレールを敷いては壊されてを繰り返して、自慢のスピードを失っている。
「いつまでこうしてれば......」
 膠着状態の終点が見えない。
「ここは......?」
 小鳥ちゃんが目を覚ます。
「ちゃんと守ったよ」
 そう言う私を見て、何故か笑った。
 爆発で溶けた氷の水溜りの中で身動きの取れない魔獣。
「見ての通り、泥試合だよ」
「海月さんが飛んでくる......」
「え......?わっ!」
 猛スピードで飛んできた海月が私たちを掻っ攫う。
「な、何?」
「準備完了ですよ」
 私たちのすぐ後ろに、レールが伸びる。
 しかし、そのレールが届く前に......。
 極太の稲妻が走る。さっきまで私がいた場所も、空気を焦がす青い光が包んでいる。
 その光の柱が消える頃。
体から、光を失った魔獣が横たわって動かなくなっていた。
「どういうこと......?」
「あの魔獣は、恐らく予測した攻撃を無効化する能力だったんです。だから、今回魔獣に姿を見せていない大牙に頼ったんです。まぁ何であれ、私たちの勝ちですよ」
 やがて魔獣は光の粒となって消えていった。
 世界に色が戻り始める。
「ブランクが閉じますね」
 そう言って地面に降り、変身を解く。
私もそれに合わせて、元の姿に戻る。
 その時には、私たちは街を歩く人ごみの中に居た。

「かっこいいとこ見せられると思ったんだけどなぁ」
 椅子の上に胡座をかいて、大牙とアイスを食べる。
「まぁまぁ」
 かっこいいとこを見せつけた大牙が笑う。
本当は私がスパッとやって、終わるはずだったのに。
「あれ?そう言えばいちごちゃんは?」
「また部屋に引きこもってるよ」
「え?また?何で?」
 いちごちゃんの個人的な問題は、もう解決したものだと思っていたのに。
 アイスを咥えたまま、階段を駆け上がる。
部屋の扉を開けると、いちごちゃんがベッドで漫画を読んでいた。
「なんだ......」
 ただ漫画に夢中になってるだけか......。
「なんだとはなんだ。大怪我してるんだぞ」
 不服そうに言うが、声は小さい。
と言うのも、肋骨をやってしまったみたいなのだ。胸にはバンドみたいなのを巻いている。かなり痛いらしい。
「ごめんって......」
 ベッドに腰掛け、いちごちゃんの額に手を置く。
「ありがとう」
 午後の柔らかな日差しが、部屋には満ちていた。
 

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