爆ぜろ!魔法少女いちごちゃん

空空 空

激走!電車型魔獣!その6

 空中に投げ出された体は、しかし地に落ちることはなく、二本の腕で受け止められる。
「これでもう大丈夫......と言いたいところだけど、ちょっとマズそうだ」
「大牙......」
 瞬間、大牙の跳躍に耐えられなかった地面が崩れ始める。
視界が白い破片で埋まる。
 その破片たちは私たちの上に覆い被さり、大牙の背中にも次々とぶつかっていく。
「大丈夫?小鳥?」
 そう言って私を降ろす。
さっきまで見下ろしていた街まで落下していた。
「大牙こそ......大丈夫?」
 それらしい外傷は見られないが、骨とかはどうなっているかは分からない。
「ボクは大丈夫だよ......多分」
「本当に......?」
 大牙が笑う。
「こんなときに強がっても仕方ないよ」

 ひしゃげて、ねじ切れて、瓦礫と化した電車の残骸に私は倒れていた。
体は痛むが、多分大したことはないだろう。
 目を開くと、海月が目に入った。
眼鏡はなくなり、体じゅう傷だらけになり、額から血を流している。
「海月......傷が......」
 海月が額を押さえて、息を吐く。
「誰のお陰でついた傷だと思ってんですか......」
「私......わた、し......ごめん、なさい......」
 目頭が熱くなり、視界が曇る。
 そんな私の頭に、海月は手を置く。
「次からはもっと慎重に......無茶はやめてください。ほら......立って」
 海月に手を引かれて立つ。
 大剣を拾い上げた海月が言う。
「空を見てください」
 言われるままに見上げると、あの魔獣が空にレールを敷いているのが見えた。
 海月が大剣の上に立つ。
「向こうも徹底的にやり合うつもりみたいです。乗ってください」
 足を踏み出すと、残骸の山が少し崩れる。その音がやたら大きく頭の中で響いた。
「私は......ごめん......」
「......大牙たちを探しに行ってください。合流出来たら、今日はもう撤退しましょう」
「うん......」
 海月は、空気を切り裂いて飛び立った。

 「ねぇ大牙、あれ......空」
「ん?」
 大牙が空を見る。
「なんじゃありゃ......」
 水色の光の粒がレールを形作り、白い空に模様を描いていた。
 魔獣がレールを敷きながら、空を縦横無尽に駆け回る。
 「とりあえず、いっちーたちと合流しないとね......。元の場所に戻ろうか」
「あの高さまで戻れる?」
「楽勝さ!魔獣が邪魔でもしない限り......」
 そう言うだけ言って、大牙が固まる。
「やっぱ、逃げよっか......」
「え、なんで?」
「魔獣と目があった」
 突風が吹き、私たちのすぐ横のビルが崩れる。その位置にはしっかり光のレールが敷かれていた。
「な、なるほど。確かに逃げた方が良さそうだね」
 大人しく、大牙の腕に収まることにした。
「そんじゃ、跳ぶよ!」
 言うが早いか、空中に跳び上がる。
ビルを蹴ってあちこちを跳ね回る。
蹴られたビルは、遠目に見ても分かるような凹みが出来ている。
「あれ......現実に影響ないの?」
「現実を模してるけど、メタフィールドみたいなものだから問題ないよ」
「え?何?めた......ん?」
「あぁ、やっぱこの例え伝わらないのか......」
 目まぐるしく流れる景色には、魔獣の姿は見出せないが、至るところに破壊の痕跡と線路が見える。
 大牙がビルの壁に鉤爪を突き立てて、一旦止まる。
「どうもレールに包囲されたくさいな......」
「あれって切れないの?」
 レールを指して言う。
「うし!試してみっか」
 壁を全力で蹴る。
その推進力を利用して、勢いのまま手近な線路に爪を立てる。
「うぉっ!切れた!」
 私は目の前で火花が散って、それどころじゃなかった。
 再びビルに張り付く。
「途切れたレールから落ちたりしないかな」
「流石にそこまで間抜けじゃないでしょ......」
 多少呆れるが、そうだったらいいなとも思った。
 しかし、張り付いていたビルが前触れなく崩れる。
後ろから押し出される形で空中に投げ出される。
「くっそ!うまく撒いたかなって思ったのに」
 悪態をつきながらも、着地は軽やかだ。
「ねぇ。もしかしたらなんだけど......あいつ、線路の切られた場所が分かるのかもしれない」
 もしそうだとしたら、誘導出来るかもしれない。肝心のどこに誘導すればいいかが分からないけど......。
「そう言うことなら、とりあえず切っちゃダメそうだね」
「いや、分かんないけど......」
 大牙が私を抱え直す。
「こう言うとき、多分みっきーなら切らないと思うんだ」
 そう言って、ビルの間を走り出す。
 右から左から、至るところからビルの崩れる音が聞こえる。
「もう一つ思ったんだけど、こんな状況ならみっきーは撤退を選ぶんじゃなかろーか?」
「え?じゃあ、ブランクから出るの?」
「いや......。多分合流した方がいい。みっきーのことだからね」
「じゃあ、二人を探さないと......」
「そうだね!」

 「そろそろ合流出来たでしょうか?いや......まだでしょうね」
 さっきから、魔獣の注意を引きつけようとしているが、どうもどっかの誰かさんが狙われてるようで上手くいかない。
 逃げ延びてる時点で、狙われてるのは大牙たちでしょうが、あれじゃいちごが近づけそうもありません。
「なんとか注意を引けないものでしょうか......」

 入り組んだ道を、右に行ったり左に行ったり。
 魔獣の攻撃がある場所にいるのだろうけど、そもそも脚の速さからして追いつけるはずもなく、距離は開くばかりだ。
 息も既に上がってしまっている。
それでも、追いつかなければ。
海月の為にも......。

 白い街並みに明らかにそぐわない物を見つける。
「大牙!ちょっと止まって!」
「え!?今!?」
 常に動き回っていないと、いつ死ぬか分からない状況なのでそのリアクションは無理もない。
「多分......遺物だと思うの」
「遺物の回収なんてしてる場合じゃないよ......」
 しかし、私は食い下がる。
「多分、あの形は武器だと思うの」
 私の目に入ったのは、大きな鈍色の鎌だった......はずだ。あれがあれば、もしかしたら状況が好転するかもしれない。
「だとしても......」
「お願い!」
 「うぅ、分かったよ。一回だけね。取れそうもなかったら諦めるんだよ」
 いまいち気は乗らないようだが、承諾してもらった。
 元々、遺物の回収を期待されてたわけだし、何より抱っこされてばかりじゃ、そのままの意味でただのお荷物だ。
「とりあえず、来た道を戻ってるけど......」
「あと二つ先の角」
「......分かった」
 約束の場所で、大牙に降ろしてもらう。
果たして、そこに鎌はあった。
空中に当たり前のように佇んでいる。
「確かにあるけど......」
 問題は取れるかだ。
この辺りのビルは大部分が崩れ、見つかるまでそう時間はかからないだろう。
「来た。一応ギリギリまで待つけど、そんなに距離が無いからそのつもりで」
 さっそく見つかってしまったみたいだ。
 遺物に手を伸ばす。
 すると、遺物の周りにヒビが入る。
 そのヒビの向こう側に確かに遺物を感じる。
 取れる!
「ダメだ!逃げるよ!」
「ちょっと、あとちょっと!」
 ヒビが広がる。
「もう無理だよ!!」
 「あぁ、もう!」
 ヒビに向かって、拳を突き出す。
確かな手ごたえと共に穴が開く。
 背中に、迫る魔獣の影がかかる。
風が髪を揺らす。
大牙が手を引く。
しかし、一歩も動かず、振り向く動作と同時に鎌を引き抜く。
 視界の端には魔獣。 
鎌の先端は確かにそこを捉えている。
 これは賭けだ。
生きるか死ぬか。
二つに一つ。
 もうどうにもなれと、空間の破片を掠めて、鎌を振り抜く。
 魔獣の鼻先を浅く斬りつける。
 かと思ったら、魔獣は風だけを取り残して姿を消していた。
 緊張した神経が弛緩する。
「あは......ははは......」
「うっそ......」
 大牙も唖然としている。
 私に至っては腰が抜けて立てなくなる。
 肩に熱の塊を感じる。
それが痛みだと感じるのに少し時間を要した。
「はは......肩抜けてるじゃんか......」
「あ、ごめん」
 大牙が私の肩を見下ろす。
今の私には、もう何が何だか分からなかった。


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