爆ぜろ!魔法少女いちごちゃん

空空 空

激走!電車型魔獣!その3

 夜に沈んだ街を、買い物袋片手に歩く。
 どこかのビルから漏れる光が、星を呑み込んで帰り道を照らしていた。
 今日は、姉から“彼女”を貰い受ける日だ。きっと、もう着いているだろう。
「また賑やかになるわね......」
 一人で居るのは、学生時代から苦手だった。大人になって、より一層苦手になった。
だから......。
 新しい家族との対面に胸を躍らせて、家へ向かう。
トゲの生えた記憶から目を逸らして......。

 なんて言うか、その......申し訳ない?
 一緒に遊んでた友達が急に先生に怒られだしたら、誰だって少し気まずくなると思う。
 ティーパックから始まって、今はもうそこから発展して日々の行いについても説教されている。
 夕方から始まった説教だったけど、もうすっかり夜だ。
 私だけテーブルに着いて、立ってる海月さん、正座する二人を眺めている。なんだこれ?
「いや、本当にすみません」
 海月さんが言う。
「あぁ、いや......お構いなく」
 説教が終わったのか、いちごちゃんたちも椅子に座り出す。最後に海月さんが私の正面に座って、全席が埋まった。
 横からいちごちゃんが顔を近づけて、小声で言う。
「小鳥ちゃんも気をつけて、海月すごい口うるさいから」
「みっきーは恐いよ」
 大牙も便乗するが、海月さんの視線で、元の姿勢に戻る。
「反省の色が見えないですね」
 だが、いちごちゃんはエスカレートする。
 椅子が倒れるような勢いで立ち上がり、海月さんを指差す。
「ええい!いつまでも横暴に屈する私じゃないぞ!」
「いや、でもコンセントに豆電球挿したり、スプレー缶爆破したりするのはどうかしてると思う」
「あれは凄かったな!」
「あんた、横暴の意味知ってて使ってんですか?」
「ぐふぅっ......」
 いちごちゃんが打ちのめされて、力なく座り、上半身をテーブルの上に投げだす。
「あなたはマトモみたいで助かりましたよ」
 そう言って私を見る目は、「あんたは何もしでかすな」と言っている気がした。
 突然、部屋のドアが開く音がする。
見ると、茶色いゆったりした服を着た大人の女性が立っていた。
「あっ......」
「随分賑やかにしてたけど、もうすっかり打ち解けたみたいね。椅子がもう一脚要るか......。ともかく、これからよろしくね。私はあなたのお母さんの妹、時雨 幸しぐれ さちよ」
 そう言って、穏やかに微笑む。
「......結構似てる」
「あら、そう?」
「あ......いや」
 声に出てたか......。
「ふふっ......。じゃあご飯にするから、少し待ってね」
 私の頭上に手が伸びる。その手は私の頭を撫でていった。なんか......少し恥ずかしい。
「じゃ、海月ちゃん。少し手伝って」
「はい」
 そう言って二人は台所へ入っていった。
 撫でられた頭がなんだかムズムズして、頭に手を置く。
「なんか......なんだろ?」
 一人でぼんやりしてると、いちごちゃんが話しかけてくる。
「小鳥ちゃんって......料理できる?」
 何かを期待するような眼差し。
「い......一応、出来る......と思うけど」
「そっかー、出来るのかぁー」
 声から抑揚が抜け落ちる。大牙も残念そうな顔をしている。
期待通りの答えじゃなかったみたいだ。
「えっと......?」
「いやね、ボクらはみっきーと違って料理出来ないから、掃除当番なんだけど......。掃除当番は増えないかぁ」
「増えないかぁ」
 二人が、ジト目でこっちを見る。
「料理は、海月さんだけで大丈夫......なんじゃないかな?多分」知らないけど。
「「はぁ」」
 もう半ば諦めているようだった。

 テーブルの上に料理が並ぶ。椅子もどこかから持ってきたのか、一つ増えている。
 白米に、なめこ汁、鯵の開き。
なんか朝食みたいだ。
 最後に叔母さんが、大皿を中央に置いて食卓が完成する。餃子だ。
おかず過多では?
「さて、みんな揃ったところで、一つ真面目な話をします」
 全員の視線が叔母さんに集まる。
 その叔母さんが私に視線を送り、話し始める。
「魔獣については知ってるよね?」
「え......は、はい」
「魔獣には、対抗する手段がない......と、そう考えられているわよね。けど......」
 溜まった唾を飲み込む。
「魔法、少女......」
「あれ?誰かブランクで小鳥ちゃんに会った」
 ゆっくりと、いちごちゃんが手を挙げる。
「まぁ......ちょっとネタバレがあったみたいだけど、話を続けるわ。私たちはね、魔獣の討伐と、魔獣の居る空間......私たちはブランクと呼んでるけど、そこの探査をしているの」
「えっ....と?」
「つまりボクたちは、世界を救う正義のヒーローってワケさ」
「そゆこと」
「......まだ成果は挙げてないですけどね」
「そして、私たちはブランクでの記憶が残る体質のあなたに協力してほしいの」
 私がここに来た理由って......。
「魔法少女になれってことですか?」
 遠くで走る車の音が通り過ぎる。
「それは、色々な理由で不可能なのだけれど、出来ればこの子たちと一緒にブランクに入ってもらいたい!」
 自分が言っていることが無茶ぶりだと分かっているようで、大袈裟なくらい頭を下げる。
「......この子たちが居れば、命の心配はないので、どうか」
「いや......よく分かんないし、それに......わざわざ私がそうする意味ってあるの?」
 そう。いちごちゃんたちが、居るから充分のはずだ。魔法少女になれば、おそらく特別な力が手に入るのだろう。現にいちごちゃんは、何も道具を使わずに爆発を引き起こしていた。
それなのに、魔法少女になれない私が必要な意味が分からない。
「それは......あるにはあるけど、言えないわ」
 叔母さんがうつむく。
料理から立ち昇る湯気が、私の呼吸で揺れる。
「分かった。やる」
 正直よく分からないけど。今まで多くの人を見捨てて一人逃げ延びてきた。それは、きっとよくないことで、でもどうしようもなくて、それなら償いって訳じゃないけど、やってもいいんじゃないがと思った。
「......ありがとう小鳥ちゃん、あなたは勇気のある子ね。さて、私たちには真面目な雰囲気は似合わないわ。食べよっか」

 食事が終わると、皿洗いを海月さんに任せた叔母さんが私を廊下に連れ出した。玄関の左側だ。奥の方には和室が見えた。
 夜の冷えた空気が溜まった廊下で、叔母さんが話し始める。
「実はね、あなたのお母さんもあなたと同じ体質なの」
「え?」
「あなたのお母さんは、ブランクでのことを覚えてる。ブランクには『遺物』って言う特別な物があるの。それが唯一ブランクから持ち出せる情報なの」
「はぁ」
「あの子たちも、もちろん遺物を見つけたことがあるわ。でもね、持ち帰れなかったの。ブランクとはまた少し違った空間にあるみたいで、見えてるけど、触れることすら叶わなかったって。見えてるだけで、そこにあるわけじゃないから当然ね」
 叔母さんが一息つく。
「そこで、あなたのお母さんが関わってくるの。あなたのお母さんは遺物を持ってくるのに成功した。ちゃんと、見せることも出来るわ」
 そう言って私に、石の塊のようなものを手渡す。魔獣の表皮と同じような、混じりけのない白色で、水色の光の筋が走っている。表面はツルツルしていた。
 手のひらで転がす。これが遺物であると証明出来るような事実はないが、偽物だったらどうと言うわけでもないので、言葉に詰まる。綺麗だとは思った。
「でも、お母さんからそんな話、聞いてない」
「それは、あの人にとってはただのアクシデントみたいなものでしかなかったから。それは、『幻想砲』......のかけら」
「かけら?」
「そう。かけら。あなたのお母さんがブランクから逃げ出すときに使ったら、壊れちゃったって。私は、このかけらを集めたいと思ってるの」
「それは......どうして?」
「幻想砲はね、世界に穴を開ける力を持っているみたいなの。魔法少女や、あなたも多少出来るでしょう?でも、それとは比べ物にならない程強力なの。だから、ブランク自体を切り離すことが出来るかもしれない」
 叔母さんが、かけらごと私の手を包み込む。
「あなたなら、それを集めることが出来るかもしれない。それがあなたに協力してほしい理由よ」
 この人の言ってることは、親が出来たから、私も出来るかもしれないと言うことだ。
「無茶苦茶じゃんか」
 叔母さんが、笑う。
「そ。無茶苦茶。だからあなたに、あなたじゃなきゃダメな理由を聞かれたとき答えられなかった。でも、引き受けてくれたからには、言っておかないとね」
「後出し......」
「卑怯でごめんね」
 そう言って笑う姿は、やっぱりお母さんによく似ていると思った。

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