牧之原智花は人を殺さない

もやもや

16

街灯のない真夜中の住宅街を歩いているようだった。暗くて物寂しい、腹の底からhとを不安をさせる空気が漂っていた。
「もうアステリアに着いたのかな」
「さすがにまだでしょ」
数分歩いていくと廃屋のようなものが見えてきた。
 築何百年といってもよいくらいの木造の廃屋で、少なくとも何者かが住んでいるような雰囲気はない。
 家というよりは小屋といってよいだろう。
「なんか出てきそうだね……」
 毘沙門天の声は珍しく怯えているように智花は感じた。智花は申し訳と程度についている、ドアノブを握りゆっくりと引いた。
 小屋の中はさらに暗闇が強く感じた。
「いらっしゃい。今度はあんたがアステリア担当かい」
 突然聞こえた声に智花はすぐに身構える。
目が慣れぼんやりだが人陰のようなものが見えた。
「そうよ」
 智花は応える。
「だったらあそこに大きな穴が開いているだろう。あそこに飛び込むんだ」
「ねえ。こっちの世界に戻ってくるにはどうすればいいの?」
「熊野は言わなかったのかい? 仕方がないねえ」
 大きくため息をする音が聞こえた。
「この穴に飛び込むと祠の前に出る。その祠の前で、羽ペンを貰ってきただろう。それで宙にこう書くんだ。『我現世に戻る』とね。そうすればここに戻ることができる」


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