異世界転移に間に合わなかったので、転生して最強になろうと思う!

八百森 舞人

暇が怖いのだが、時間を潰すのは恐ろしい!

 「旅行? 旅? ……と、まぁ君が求めているのはこんな返事ではないと思いますが。危険性があったとは言え……色々と、君には済まない事をしてしまいした。申し訳ないです」


 と、頭を下げて謝って来る。危険性があった、だから逃がしてくれた。俺は感謝はすれど、謝られる様な心は持っていない。


 「タシューさん、頭を上げてください。俺はタシューさんの謝罪は求めてないです。それよりも、お母さんやお父さんが生きている事は確実なのでしょうか? 安全なのでしょうか? また、会えますか?」


 「済まない。そしてありがとう。三つの質問の内、二つは確実に断言できる。君のご両親は生きているし、安全です。ただ、僕も会えていないので、最後の質問は答えかねます。……本当に申し訳ない」


 「いえ、そうですか……良かった……それは良かった……」


 良かった。安心した。心の荷が下りた。どこかで割り切った筈の心配や後悔、無念。それらが束なって出来た吐きそうな程張りつめた心の糸が少し緩んだ。


 「申し訳ない。僕には君の涙を拭う事は出来ない。それをすれば鉄の自分が錆び付いて脆くなってしまいそうだから……君にこれを」


 自然と涙が一滴溢れる。俺は目を拭い、タシューさんが懐から出した紙を受け取る。

 書いてあるのは地図だろうか? 四角い枠が並ぶ中、一つだけ赤い印が付けられていた。


 「これは……?」


 「見ての通り、汚い手書きの地図さ。この街の一角なんだけどね、ここで魔法書店っていう本屋さんをやっているおばあちゃんが居ます。彼女に話を通して貰えば僕とも連絡が取れるし、何かと便宜を図れるだろう……ごめんね、行かなければ……」


 タシューさんがそう言うと、微かな微風が前から顔を撫でる。思わず目が乾燥したため、自然と瞬きする。


 そこには、既に誰も居なかった。


 これは夢ではない。俺は紙切れをアイテムボックスへ収納して白衣に手を通す。

 少し丈が短いかも知れないが、臨時だし、十分だろう。流石に背中に傷を負ってますと周りに言いふらす様な格好でなければいい。

 俺はゆっくりと階段を上る。


 「はぁ……憂鬱だ」


 人は流される生き物である。が、稀に流れに逆らう者もいる。そういった者達は尊敬されたり、敬遠されたり、嫌悪されたり。芯があれば貫ける人もいるし、芯があるからこそ、折れればより高い所から落とされ、流され。

 人は流れに身を任せるようで、何も考えず、流される。流されて行く内に波に呑まれ、落ちていく。趣味や仕事、友人や伴侶はこれを救う命綱。

 尚、一番辛いのは流されている事を自覚していて、流される事である。


 そんな感じの哲学? は、やけに耳に入る。これは俺が脚色した物だが。

 今の俺は縄を見つけられずにいるのだろう。生き甲斐、目標、楽しみ、etc……。


 いや、楽しみはあるな。俺にとっての楽しみはポーション作りだ。得意な事は楽しい。魔法も楽しいな。


 だが、やはり一番大きいのは目標だろう。別に世界一の錬金術師になりたい訳じゃない。世界一の魔法使いになりたい訳じゃない。これらは趣味だ。


 「目標、ねぇ……」


 強欲の書にでも聞いてみるか……? いやいや、何かそれは決められてるみたいで嫌だ。


 考えながらゆっくり歩いていても所詮は階段一階分と廊下少しの距離、すぐに二階まで戻れた。

 俺が担当の四番目の教室へ行こうとすると、二番目の教室にいたキューテが大きな声で言った。


 「あ! あれがレト君なのだ!」


 俺が名を出されて向くと、回復したのか立ち上がった生徒達と目が合う。これはどうするべきか……手でも振れば良いのか?

 しかし、急に動いたからだろう。バタバタと倒れていく。まだ回復しきっていないのだ。そう思いたい。俺にそっちの気はないのだから。あ、女子はウェルカム。


 「キューテ、マイン。体力はあるようだから二本目飲ませてやれ……」


 「了解したのだ!」


 「おっけー」


 と、廊下に置きっぱなしの箱からマインとビンを運ぶ。

 俺が廊下を進むと、待たしても右側の教室から声が掛かる。


 「あ! あれがレト・アルトレア君さ!」


 ドラヴィスの声。振り向くと目が合うのは約三十人の男女。俺は学ぶのだ。手を振れば二の舞になる雰囲気。そうなれば皆は倒れるだろう。そうだ、安静にと声を掛けよう。ついでに動くなとも。


 「動くなよ、安静にしてろ」


 すると、バタバタとその場で倒れていく。


 「ドラヴィス、ロイル。二本目飲ませてやってくれ」


 「分かった」


 「うん、白衣似合ってるね!」


 俺は適当に返して担当の教室へ進む。この調子だと……。


 「あ、レト君!」


 アリスの声。顔を向けると目が合う……三十人と。

 どうやって対処すればいいと!? 下手に動けない。

 よし、ここまでの道のりを分析しよう。一つ目は手を振った、倒れた。意味が分からない。二つ目は声を掛けた、倒れた。意味が分からない。以上、どうすれば良いのか分からない。


 固まる俺と静まる生徒……気まずい。よし、いい機会だ。相手の生徒の特徴を確認しよう。顔つきはバラけているが、全員俺と同じ年齢位だ。俺と同じと言うのは少し背が小さくて中性的な顔で、周りの人から一、二歳下に見られる俺という事ではなく、十三、四歳という意味だ。

 個人個人は置いておくとして、全員に共通するのは制服だろう。男女の違いは置いておくとして、俺が着ている白衣の下の制服は紺をベースに銀色のラインが走っている。アリスや和樹の制服も同じくだ。

 だが、相手クラスの制服は紺ベースは同じだが、走っている線の色が赤色だ。これで制服の色がクラス毎に違う事が証明された……。


 バタッ……バタッ……バタバタバタ――。


 順に倒れていく。無理ゲーだったのだ。


 「アリス、和樹。二本目飲ませるから手伝ってくれ」


 「分かったよ!」


 「ああ」


 と、了解してくれ、三人で、ビンを口に運ぶ。空になった箱を持って、どうすれば良いか悩んでいると、和樹が近づいて来て、口を開く。


 「なあ、こいつらを運ぶときに言ってた戦争だって、もしかしなくても捕虜の事、だよな?」


 「当然。先生が何か言って来るのなら別だけどね。基本無干渉って感じだし、ただ捕虜と言ってもこいつらを扱うような真似はしない。帰りたいのなら帰ればいいと言うし、残りたいと言うのなら使わない教室を貸そう。そんな感じだ」


 「ふむ、そうか。だが文句はこっちではなく、あっちから来るだろ?」


 と、教室の窓を指差す。向こうに残ったのは十人程だが、諦めずにこちらに火の魔法を放って来ている。が、数メートルと行かない内に上から水魔法が降って、打ち消している。あ、レミルとアインに回復ポーション届けてついでに俺も助力してついでに作戦を実行しよう。


 「想定済みだ。あ、木箱いる? 俺ちょっと屋上に行って来るわ。ここは大丈夫そうだし。何かあったらキューテにでも走らせろ」


 「ああ、分かった」


 俺はそのまま階段を上がる。クラス棟は四階建てなので、二階から屋上までは三階分階段を登らなければ行けない。


 「最近は階段を上がってばかりな気がする。主に今日は」


 階段を上りきって屋上への扉を開く。


 屋上は広く、地球と違い、フェンスや何らかの機械類も無いので、とても解放的だ。


 屋上の縁にはレミルとアインが少し退屈そうな顔で淡々と水魔法を放っていた。


 「よっ! お疲れ」


 「ひゃあ!?」


 声を掛けると、アインの魔法が不安定になった。ああ、人見知りか。


 「アルトレア君ですの? どうかされまして?」


 「いや、そろそろ補給が必要かと思って見に来た。どんな感じだ? ああ、立ってるのもしんどいだろ座れ」


 俺が空き教室の隅に重ねられていて、数脚だけ拝借した椅子をアイテムボックスから出して促す。


 「あら、気が利くですの」


 「あ、ありゅがとうごじゃいます!」


 「ああ。どういたしまして」


 俺達は座ってポーションを飲みながら水魔法を飛ばす。


 「気付け薬、ありがとうございましたの。あれを飲んで、少しは落ち着きましたの」


 味と匂いが酷かった為、匂いをなんとかするべく、ハーブを調合したのが良かったのだろう。脳内メモに残そう。味についてはお察しの通り。


 「それは良かった。何か調子が悪かったら症状を言ってくれ」


 副作用かも知れないからな。


 「ええ。もちろんですの。……それにしても、この椅子しかりポーション瓶しかり、アルトレア君は結構アイテムボックスが広そうですのね」


 タシューさん出はなく、父から習った通りならこれは魔力量が多いかどうか相手に聞く隠語だ。ステータスを訊ねるのはマナー違反。特に貴族はそうだ。

 さて、どう答えるべきか。言葉通りに返すのなら大きいと正直に言うべきだが……。


 「いやいや、せいぜい家一つ分位だ。そんなこと無い」


 「へぇ! 良いですわね……どうですの、私と婚約しませんか?」


 予想外に大きな水魔法を打ってしまった俺とアインは数人を吹き飛ばす。あ、アインも一応聞いていたのか。これは山一つ分とは言え無い。が、使用魔力軽減が無かったらその位なので、嘘ではない。


 「ふふ、反応もかわいいですの」


 「お、お断りさせて頂きます」


 「あら、何でですの? 自慢ですが大きな家の生まれですわ。平民待遇改善政策の一貫として丁度いいかと思いましたのに……」


 俺貴族。一応貴族。言えないけど結構凄い所の貴族。なんなら辺境伯の息子。更には父さんがいなくなって現在辺境伯。


 「断る、政策に巻き込まれたくない」


 「あら、それは残念ですの、程よく好みでしてよ? もう少しお優しい方が好みではありますけど……」


 程よくってなんだよ、文句あんのか! いや、あって良いです。冒険者やってて良かった。冒険者マナーの口調になれた事に感謝。紹介状をくれたグラフィルさんに感謝!


 「俺はレミルみたいなお嬢様よりアリスみたいな可愛い系が好きだ。てことで断る」


 「ふーん、なるほどなるほど。これはいい情報が手に入りましたの。ロットさんも喜びそうですの。ふふっ」


 「な……お、おい、喜びそうって、言う前提は止めろよ!」


 「いえいえ、私、婚約を断られて傷心ですの。復讐にそのくらいはやって当然ですの」


 怖い。女子怖い。あれ、さっき報告会でアリスを呼び出して……ま、まさかこのための布石!? これが本物の貴族だとでも言うのか!?


 「ふう……久し振りに楽しかったですの……あ、そうですの、アルトレア君は確か、冒険者をやっていたと言っていたはずですの」


 「はぁ……ん? ああ、やっていた……と言っても数週間位だけどな」


 「お話でも聞きたいですの。こうしていてはつまらないと思いませんこと?」


 ようやく普通の雑談をする事が出来そうだ。


 「そうだな……まあ大層な話は出来ないが――」


 俺は適当に話した。結構オーク群れと戦った時とか、思いの外反応が良かった。たまにアインも入って来たので少しは人見知りが緩和されたのかもしれない。


 「良いですわね……」


 「レミルは冒険者に憧れでもあるのか?」


 「冒険者に、という訳ではありませんが、そうですの……いえ、それに近いと言うべきですの」


 と、まあ雑談をしていると、段々相手の攻撃に勢いが無くなって来る。


 さあ、そろそろ頃合いだ。


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