異世界転移に間に合わなかったので、転生して最強になろうと思う!

八百森 舞人

閑話 姉妹は、懐いていた。

 痛い。熱い。冷たい。


 他にも色々な感覚、感触で目が覚める。
 と、その感覚は一斉に消えたので、夢の中での出来事と判断する。


 「ここは……」


 確か焦げた匂いのする屋敷で意識を失ったはずだが、そんな匂いはしない。俺は、そこまで広くもない部屋のソファーに横たわっていた。
 部屋には窓があり、日が差し込んでいる。恐らく朝か昼前くらいであろう。
 体を起こすと、腹に掛けられていた茶色いローブがはらりと落ちる。そこには、服は破れてはいるものの、全くといっていいほど、傷跡が見当たらない肌があった。


 「やはり魔法は凄いな……」


 自分で回復魔法が使えないのがとても惜しい。恐らくギルマスと一緒にいた人達が手当てをしてくれたのだろう。次に顔を見かけたら礼を言う事にしよう。


 俺はそのローブを羽織り、立ち上がる。部屋の窓とは反対に扉と、もうひとつの窓があったのだが、そこから見聞き出来るのはのは人々の喧騒や笑い声、どこかで見たことのある光景はギルドの酒場であった。
 すると、俺が窓から覗いているのに気がついた人物がテーブルから立ち上がり、こちらに歩いてくる。どこかで見たことのある人物はギルドの長であった。
 ギルマスは昼間から酒を飲んでいても良いのだろうか?


 「よぉ、起きたみてぇだな!」


 「酒臭い。あっちに戻れ」


 部屋が酒場と隣接されて居るからだろうか? 扉を開けた途端、むせる様なアルコール臭がする。


 「ガハハハハ! 大丈夫だ。俺は飲んでない」


 いや、そういう問題では……。


 「飲んでんのは酒みてぇなブドウジュースだ」


 それはワインという立派な酒ではないのだろうか?


 「はぁ……もういい……静かに落ち着ける場所は無いのか?」


 「んぁ? お前ぇさんも頭ぁ痛くなったのか? たかがブドウジュースだろ」


 ワインだろうに……てか俺は飲んでないし。


 「分かった。その酒臭さが取れたら話でも聞かせてくれ」


 「おう! んじゃ俺ぁもちっと談笑してくるか! ガハハハハ!」


 と、豪快に笑いながら去っていく。


 「はぁ……何があったんだよ」


 酒場は普段でも賑わっているが、今はそれより1.5倍以上賑わって……というより、うるさい。


 「福田さんが制圧したあの館……」


 「ん?」


 すぐ隣から声を掛けられる。酒場の方へ意識を向けていて気づかなかったが、壁沿いを近づいて来ていたらしい。顔を向けると目が合う。そこに居たのは受け付けに立っていた人であった。


 「無事に起きられた様で良かったです。聞いたところによると、お腹に相当な傷があったとか……。そして、その傷の処置をしても魔力が欠乏状態にあり、MP回復のポーションを数本使っても目覚めず……お疲れ様でした」


 ペコリとお辞儀をして笑う。最近――というか近年――俺の周りでは『お疲れ様』と言えば、ほぼ全てに皮肉の意味が掛かっており、本当の意味での労いを聞くと、どうしてか乾いた笑いがこぼれる。


 「ははっ……お疲れ様、か。それより、あの館がなんだって言うんだ?」


 「そうですね、大した事……と言えばそうなのですが……うーんここでは何ですし、場所を変えましょうか。会議室なら空いているでしょうし」


 と、喧騒を見つめながら言う。


 「ああ……確かにうるさい。丁度静かなところへ行きたかった」


 等、その旨を伝え了承する。すると、口許に手を当てて「ふふっ」と小さく笑う。


 「なんだ?」


 「福田さんはマイペースなんですね」


 良く言われるが、俺としてはそんなの冗談だろうと言いたい。ちゃんと時間も守れるし、空気も読めるのだ。俺は。


 「俺がか? 皮肉か?」


 「いえいえ、芯の強いお方はモテるものですよ? ……あの子達もそこに惹かれたのかしら……ふふっ」


 「ん? すまん聞こえなかった。もう一度……いや、さっさと行こう」


 ここにいては上手く聞き取れない。俺は聞き直すのを諦め、移動を促す。


 俺は会議室まで案内され、椅子に腰掛ける。腹に傷が無いのが少し違和感だったが、傷や怪我につい意識を向けてしまう様な感覚なので、時間が経てば消えるだろう。


 「今お茶を淹れますね」


 テキパキと湯飲みにお茶を淹れる姿を見ても、慣れている事が分かる。出された少し熱いお茶を飲み、喉を潤してから、先程言っていた館の事について改めて説明を要求する。


 「はい、そうでしたね……えと、スラムはご存知でしょうか?」


 「ああ、昨日行った。が、思っていたよりも静かだったな」


 埃が舞う廃れた感じの所だったのを思い出しながら言う。


 「ええ。一重に無法地帯と言っても、荒くれものが彷徨いているという訳ではありません。それは彼ら自身が自らが法を犯していると自覚しているからです。なので普段はむしろ静かな所でしょう。……そうですね、話は変わりますが福田さん。貴族に会った事はありますか?」


 「ああ、あるが?」


 王族は例外として、王城に居た時は貴族に会う事が多かった。そういえばクラスメイトにも居たな……ドリルと褐色が互いの家柄について言い合っていた気がする。


 「私達平民を治める立場の貴族は私達より身分が高いです。中には勘違いし、身分を特権の様に振りかざす貴族がいます。逆に平民と同じ立場で共に歩もうとするグレイス家や正しい上下関係を築こうとしているトランド家などは平民からの支持が高いです」


 クラスメイトの顔と名前が一致した瞬間であった。名字だけだが。


 「しかし、特権を振りかざし、自分より身分の低い者、つまり平民には何をしてもいいと、そんな考えが一部の貴族に深く根付いているのもまた事実です。しかし、自分より上の国が定めた法には流石に触れません。しかしそれは自分の手を汚さない、という事なのです。察しのいい福田さんならもう分かると思いますが、貴族は非、合法的な事をスラム街の無法者を使い、行っていたのです。無法者は捕まりたくないが故に貴族の庇護を受け、貴族は庇護を与える変わりに、自分では出来ない汚れた事を行って貰う……そんな関係がありました。その庇護というのが、あの館です」


 「なるほど……だが、それが分かっていたのであれば何故貴族の館の調査なり、取り調べなりをしなかったんだ?」


 地図を除けば非常に正確な情報が載ってあった報告書を思い出す。そう言えばあそこには犯人の目星や所在があったが、犯人に関する事がほとんどだったので、仮に犯人を捕らえてもアインの所へたどり着けたか分からない。あれ? そこまで有能な報告書ではなかったのか……?


 「先ほども言った通り、庇護があったのが一番の理由でしょう。我々冒険者ギルドの調査を受け付けないので、表だった調査は出来ませんでした。しかし、証拠は無いにしろ、その繋がりがあると踏んだギルマスは国に調査を依頼しましたが、貴族は脱税は愚か、犯罪の証拠が無い以上調べられないとの事で、無理でした。ならば他の貴族に相談してみてはどうかと、声が上がりましたが、どう横の繋がりがあるかが分からない以上、止めておいた方が良いと、ギルマスが指摘し、後は向こうが尻尾を出さないと、どうしようも無くなり、正に八方塞がりでした」


 お茶を飲みながら更に続ける。


 「そんな時です。ボヤ騒ぎがあり、近隣の通報がありました。それが件の館です。館の消火と調査を進めると、次々と証拠の山が出てきました。……しかし、やはり一番の証拠は福田さんがあの子を救出した地下牢ですね。あそこには他にも多くの人が捕まって居り、多くの人が奴隷として誰に買われた等の証言をしてくれました。勿論、奴隷は非、合法的な物なので、それらの証拠、証言を足掛かりに主犯格の貴族を捕まえる事が出来るでしょう。今はその準備を職員が進めており、警備員にも連絡してあるので、時間の問題でしょう。ギルマスや冒険者の皆さんも祝杯を上げて喜んでいるということです。皆さん、裏で犯罪が起こっているというのに手出しが出来なくてやきもきしていましたからね。かく言う私も少しスッキリしましたし……本当にありがとうございます。福田さんにはとても感謝しています。公式ではありませんが褒賞金も……」


 「いや、いい。別に金には困っていないし……そうだな、学園都市まで行きたいので、そこまでに必要な分は頼む。あと、腹が減ったので、沢山食わせてくれ」


 腹が減っているのは本当のことだが、どちらかと言うと眠くて半分以上話を聞いていなかったので、寝たいのが本音だ。
 少し目を白黒させ、驚いた表情が見えるが、俺が眠たいのが伝わったのか、了承する。


 「分かりました。それだけで良いと、おっしゃるのなら全力で用意致しましょう。お疲れの様子なので、私は戻ります。何かあれば呼んで下さい。では……あ、そうだ、呼んで来ますね」


 誰をだろうか? しかし、眠いので、腕を枕に机に突っ伏して目を瞑る。
 そういえば昨日から何も食べて無いな……通りで腹が減る訳だ。


 そんな事を考えながら意識が微睡みに落ちていくのだが、バァンという音でそれは邪魔される。それは扉が開いた音だったので、顔を上げると、二人の姉妹がそこにいた。


 「和樹っ!」


 「和樹さんっ!」


 姉妹はこちらに駆け寄って俺に抱きついてくる。眠い……。


 「どうしたんだ?」


 「あ、いや、その……」


 「お礼を言いに来た」


 俺が用件を訊ねると、姉――アインは少し躊躇うが、妹――マインが淡々と告げる。因みに、二人は同じ緑色の髪をしているが、姉は肩まで届いたセミロング、妹は前髪が揃ったボブと、長さが違う。


 「別に礼は要らんぞ? それよ――」


 「ありがとう」


 「あ、ありがとうございます!」


 火傷はもう治ったのだ。別にもういいが、ふと疑問を感じる。


 「そう言えばお前らってそんなキャラだったか?」


 あまり覚えていないが、無口なイメージがあった。あまり教室にこないし……。


 「いえ、その……あの……」


 と、いい淀む姉。


 「私達、主にお姉ちゃんが人見知り。ガッチガチ。私が居ないと駄目。むしろ私がいても駄目。私は素」


 「なるほどな。なんとなく分かった」


 「うぅ……」


 分かったが、ズバズバ言い過ぎでアインの方が涙目になってるんだが。


 「それで、私達、主に私が和樹と一緒に行動するからお姉ちゃんもついて来る。むしろお姉ちゃんがついて行く」


 同じ事ではないのだろうか? 何故わざわざ言い直した?


 「別に一緒に行動する必要は無いぞ? 学園に戻る馬車を頼んでいるからそれまでは別でも……」


 「ううん、一緒にいる。ね、お姉ちゃん」


 「は、はい! 和樹さん! よ、よろしくおねがしみゃす……うぅ、噛んじゃった」


 人見知りというかもうこれはコミュ障の域ではないのだろうか?


 「はぁ……俺が相手してやるからせめて噛まずに喋れるようになれ」


 「うぅ……はぃ」


 俺の眠気はそろそろ限界に達しそうだった。
 

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