異世界転移に間に合わなかったので、転生して最強になろうと思う!

八百森 舞人

サバイバル学習、ニュークス戦!

 「距離は……丁度一キロって所か」


 俺は木に登り、目を凝らす。辺りは完全に夜の闇で包まれているが強化した目で見ればニュークスの顔を覆う白い仮面を見つけることは容易い。


 「はぁー……『エア・バレット』っ!」


 俺は直径五十センチ程の空気を圧縮した弾丸を作りだし、放つ。五十センチもあるからそれはもう銃弾じゃなくて砲弾じゃないかという質問は受け付けない。エア・バレットで発動する魔法はエア・バレットなのだ。たとえ威力が爆弾程あっても。


 見えない風の弾丸は真っ直ぐ飛んで行き、ニュークスに当たる。
 しかし、風圧でよろけただけで傷は見当たらない。やはり威力が弱い風魔法ではだめだったようだ……すると「キィィィィィイ」という耳をつんざく鳴き声が聞こえると同時にニュークスの皮膚から黒い霧が噴出し、辺りに留まることで完全に姿を確認出来なくなってしまった。


 「仕方ないな……行くか」


 俺は遠距離からの決着を諦め、仕方なくエア・プロテクト、バーストで黒霧の一歩手前まで進んだ。そこまで近づくと一歩ニュークスが歩みを進める度にドゴォォォという轟音と揺れを間近に受け、更には暴風が吹き荒れている。ついでに、


 「キヤァァァァァア」


 という威嚇のような鳴き声も聞こえていたり……。
 一歩近づいてくる毎に耳を塞いでジャンプしてフライで飛ばされない様にするこっちの苦労……という名のイラつきも考えて欲しいものだ。


 「ったく……縄跳びじゃねぇんだよ!」


 俺は黒い霧で悪くなった視界をイライラと共に吹き飛ばす勢いで強化した腕にに風属性を合わせ全力で拳を振る。


 「『エア・ブロー』!」


 拳から放たれた風の流れで黒霧は霧散したがまだ夜にしては暗い、まるで影の様な……ん? 影……影かっ!
 俺が上を向くと案の定、家一つ分ありそうな広さの足がゆっくりと俺を踏み潰そうとしていた。しかも、もうすぐそこまで。


 「おいおい……嘘だろ……くふっ!」


 避ける事は出来そうだがその後の衝撃波はもろに当たるだろう。その場に留まって受け止めた方がいい。と、両手をクロスして受け止めてから思った俺はゴツゴツした石のような足の裏で袖が擦りきれるのを感じながらどうしようかと思う。重さ自体は身体強化で受け流せているのだがその分ズブズブと脚が地面に埋まっているのだ。もう踝まで埋まっている。


 「避けた方が良かったか……あ、いいや。『アイテムボックス』……むぐ」


 俺はアイテムボックスから直接口に小瓶を出し、中身を飲み干す。中身は数分間だけ皮膚に酸からの耐性を得る事が出来るポーションだ。副作用として耐性を得ている間、体が硬くなり動きにくくなるが身体強化していれば問題ない。
 そしてもう一本。


 「ほいっと」


 俺の右手からアンダースローで投げられた小瓶の中身はもちろん強力な酸だ。
 酸といっても表面を溶かすような物ではなく、どんどん体に浸透して骨や肉は溶かさずに脳や臓器などだけを溶かす物だ。対怪物用に一本だけ持っていたがこいつの素材と交換なら……赤字になるだろうか?


 「キィィィィイイイイヤァァァァア」


 と、耳をつんざく声が森に反響すると同時に俺の上にのし掛かっていた巨大な足はその本体と共に横に倒れる。
 そして数分。


 「本当に近所迷惑だな!」


 と、独り言を叫んでも反応は無い。
 更に念のため、


 「やったか?」


 と、小声で呟くがフラグ反応は無し。俺は半分埋まっている脚を抜いて近寄る。手をかざすと、ちゃんとアイテムボックスにしまえたので完全に討伐は終わった。
 俺は安堵のため息を吐いてまだ強張る体を魔力で動かし、小屋へ向かった。














 固まっていた手足がようやくスムーズに動かせるようになった頃、俺が作った小屋に明かりが灯っているのが木の隙間から見えた。
 俺は少しだけ足取りが重くなるのを感じつつ小屋のドアに手を掛ける。あれだけ爆音を響かせればアリスも起きているだろう。内緒にしていた事は怒られるだろうか? それとも優しいから心配してくれているのだろうか? 俺はそっとドアを開けた。


 「レト君っ……!」


 俺がドアを開けるや否やアリスがこちらに駆け寄って来た。その目にはうっすらと光るものが見える。奥に座っているロイルも安堵の表情をしていることから怒られる、という展開にはならなそうだ。


 「心配かけて悪い、アリス。……それに、ロイルもありがとな。起こしてごめん」


 「本当に大変だったんだよ。僕は音に驚いただけで済んだけどパニック状態のアリスちゃんを宥めるのにどれだけ苦労したか……。音に驚いて飛び起きたアリスちゃんを宥めるために近づいたらぬいぐるみに殴られるし、レト君が居ないことに気づいた時に声をかけようと近づけばぬいぐるみに蹴られたし、外に出ようとする所を止めたら叩かれたし……さんざんな目にあったよ」


 指を折って苦労を数えるロイルは安堵したからか眠たそうな欠伸をする。正確な時間は分からないがもう日を跨いでいるだろう。俺は月が見えない曇りの夜空に一瞬目を向けた後、頭を擦り付ける様に抱きついて来たアリスに声を掛ける。


 「ほんと、心配かけて悪かったからちょっと離れてくれませんかアリスさん?」


 「……ぅん」


 心配してくれてるかなぁとは思っていたがここまでされると反応に困る。……しかし特に嫌な気持ちは湧かないのだが動けないので離れてもらい、中に入る。むしろ嬉しかったりするのだが、心配させた俺には素直に喜べない。


 「あ、レト君……服が……」


 「ぁ……ひゃう」


 アリスが離れた為、俺の全貌が明らかになった訳だが、俺の服は酸で穴が開いてしまい、ボロボロになっていた。


 「あ……」


 俺の数少ない服が……まあいいや。




 俺はその後、昨日、一昨日と夜更かしした分の睡魔に襲われ、眠りについた。規則正しい生活の弊害がこんな時に現れるとは……。
 

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