異世界転移に間に合わなかったので、転生して最強になろうと思う!

八百森 舞人

学校では、殺し合いが授業なのだろうか!

 「なぁなぁ教えてくれよ! なー」


 俺の試合? が終わり、次のドラヴィス対レミルの試合が今始まった所だ。
 正直、今の俺には“目標”というものが無い。学園にだって流れで来ただけだ。


 「なぁーなぁー」


 この世界に来て……生きていての目標はいくつもある。“生きるのに必要なお金を集める”というのも目標の一つではある。しかし、今の目標はあっても次の目標、それこそ将来の夢というのがない。


 「おーい! 聞いているのかー? 生きているのかー?」


 ならばと、今は何事にも通じ、何より楽しい事――魔法の勉強をしよう。そう思って必死に魔法の勉強の為、試合を見ていたいのだが――。


 「せ、先生! 大変だ! ア、アルトレア君が死んでいる!」


 「死んでねぇよ!? ちゃんと生きてますから!」


 邪魔の一言である。先程からキューテがうるさい。試合に集中していたいのに……。


 「はぁ。良かった……で、教えてくれ! あれはどんな魔法なのだ!?」


 「だから! エア・プロテクトの中にエア・カッターを仕込んで、プロテクトの方をバーストさせてその勢いでカッターを飛ばすんだよ!」


 もう五回ほど説明した筈なのに。


 「でもそれって固有魔法じゃ……?」


 「お前も知ってるだろ? 固有魔法は無詠唱では発動しない! 俺が詠唱したのはバーストだけだ。バーストは固有魔法ではない! 以上。証明完了」


 事実が語っているだろうに……。


 「でも、プロテクト、カッター、バーストで三つ使っているだろう?」


 それこそ常識だと言うように、キューテが自分の指を立てて俺の顔の前に突き出す。ちょ、試合が見えない見えない。


 はぁーと、自然に俺の口から溜め息が出る。


 「そもそも、固有魔法の原理知ってるのか?」


 「え、い、いやー……」


 あ、知らないのか……。


 「そ、それを勉強するために来たんだよ!」


 あ、逆切れた……。


 「そ、そうだよね!」


 隣で聞いていたのかアリスが共感する。


 「ん? アリスも知らないのか?」


 俺が聞くと、慌てて両手と首を振りながら訂正する。


 「ち、ちが、そうじゃなくって、知らないことを学ぶために……って所に私もそう思うなーって思って……」


 「え? アリスちゃんは知ってるの!?」


 この一言にアリスはたじろぐ。気持ちは分からなくもないけど、こっちに助けを求められても二度目の人生でも家族と、家庭教師としか殆ど喋って来なかった俺にはどうしようもない。けど、何となく頷いてみる。


 「う、うん……教え……ようか?」


 アリスは俺の頷きを――何となく自分で教えてみたらどう? っという風に受け取ったようで、落ちていた木の棒で、地面に小さな円を三つ書く。


 俺は邪魔が居なくなったので試合に集中。耳だけ隣に傾ける。……そんな器用な事、できる筈もなくキューテ達に向き直る。ドラヴィスは火、レミルは水を使ので、風対風。特に面白味は無い。勉強に面白さを求めるべきかと、言われれば即座に試合に集中するのだが……。


 「えっとね、固有魔法――ユニークスペルはね、同時に三つ以上の魔法を使う事、それに対するオリジナルのアレンジを持って完成なの」


 と、三つの円を線で繋いで三角形の頂点に円が重なる図を書く。これはタシューさんに見せられた事がある図だ。


 「で、レト君が言ってたのは……多分こうだと思う」


 今度は円を平行に並べて線二本でそれらを繋ぐ。


 「これだと、どうなんだ?」


 キューテが解説を求める。


 「あ、ごめんなさい。説明するの、忘れてた。この円の間の線は二重詠唱を表しているの。つまり、これは二重詠唱を二回。四重詠唱……だと、思う。凄いねレトく……きゃ!?」


 「あ、ごめん」


 アリスは俺が試合に集中しているものだと勘違いしていたのか、俺が覗き込んでいた所を振り返って驚く。


 「どうだ? キューテ。分かったか?」


 「んー……なぁアルトレア君よ」


 少し考え込んでいたのか不思議そうにこちらを向く。


 「なんだ?」


 「この絵からは分からないけどそれってじゃないのか?」


 アリスは何を言っているのか理解していなかったが、俺は感嘆した。凄く嬉しかった。俺はそれを思ってこの魔法を使ったのだから……。


 「そう! そうだ! 同じなんだよ」


 「へ? レト君? どういう事?」


 俺が喜んだのにびっくりしてか、アリスが訊ねて来る。嗚呼、今タシューさんの気持ちが分かった気がする! 考えを共有するのは楽しい!


 「アリス。さっきアリスはこの線は二重詠唱だと言ったが、それは違う。俺も最初は勘違いしてたけど、そうじゃない。キューテ、何が違うか分かるか?」


 「え? あ、あたし? あたしが不思議に思ったのは魔法は三つなのに詠唱は六つも必要なのかな? って」


 そう。これは所謂“暴論”だ。飛躍している。が、正しい。――正論? そんなの『科学』に任せとけ――そんな考えを持っていないとここにはたどり着けないだろう。流石はタシューさんだ。


 「よし。じゃ、アリス。この線はなぜ必要だ?」


 「え? 同時に発動させる為に魔法と魔法を繋ぐ為?」


 そう。繋ぐ為だ。魔法を同時に出すには繋がなければいけない。それは循環させ同期……今はこれ以上の説明は要らないか……。


 「つまり……魔力を廻す為だ。この真っ直ぐ……一本の魔法を廻すには一つの線に二つの詠唱が必要だ。でも、こっちの固有魔法はどうだ?」


 「元々……三つとも繋がってるから……線一つで詠唱が一つ……!」


 そうだ。と、俺は頷く。ま、受け売りなんだけどさ。これくらい格好つけても……いいよな?


 「ん? 待て、それじゃあ固有魔法は四重で詠唱するより簡単って事か? あたしがバカなのか?」


 話に着いて来ているから決してバカではないと思うが。


 「そうじゃない。キューテ、忘れてないか? 固有魔法にはオリジナルスペルが必要なんだ。そのスペルが威力を何倍にも増幅させる。それは自分のオリジナルスペルが自分の波長に合っているからだ。それが分からなければ固有魔法は使えない。分かったら使い放題なのかも知れないけどな。ま、固有魔法はそれだけの威力に不釣り合いだが、魔力消費量もそこそこあるらしいから、作り放題であっても使い放題って事では無いけどな」


 そう。俺は自分のオリジナルスペルがまだ無い。つまり、俺には固有魔法、とくに複合魔法が使えないのだ――。






 「そこまで!」


 お! 終わったか。勝ったのは……ドラヴィスか。流石だな。


 「次の試合はテリス、ロットだ。福田はシードで次からだ」


 「あの! 先生……その……」


 「どうしたんだ、テリス?」


 ん? アリスが呼ばれたので次の試合こそはと、思っていたが……。ロイルが先生と話しているな……。


 「あーそうだったな、すまん……ロット。テリスは不戦敗でお前は次、アルトレアとの試合だ」


 俺が呼ばれた。そういえばロイルは回復専門だって言ってたな……回復以外は護身程度しか魔法が使えないとか。だからここに入ったんだっけ。
 そんな事を考えながら俺は結界内に入る。


 次の相手はアリス。精霊魔法使いだ。これは貴重な機会だ。だが、戦い方が全く分からないのは困るな――。


 そんなこんなで、二回戦が始まった――。

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