異世界転移に間に合わなかったので、転生して最強になろうと思う!
王都に行くけど、二大学園って何だろうか!
空は茜色に染まり、レトが去った後の会議室。そこには二つの人影があった。
「んあ? なんだ? 帰らねぇのか?」
一つはテスト後も会議室に残り、採点をしていた大男――ギルマスことガレッタ。
もう一つは顔に不満の影を落としている蒼い髪の青年――ハント。
ギルマスは採点を続けている為、顔は上げていない。が、目の前の青年が自分に文句を言いに来た事は気づいているようで、
「何か不満があったか? お前はほぼ満点に近い成績で合格した筈だが?」
「はい。有り難うございます。俺もやっとBランクに上がれます」
このハントという青年、一言で言えば正に、秀才だった。
個々人で配られる枚数の違い、それは勿論ガレッタがその者に合った問題を作るのだが、受けるランク毎に基本的な枚数、減点箇所、時間など、全て大まかではあるが定められているのだ。特にレトを除き今回のランクアップテスト、Bランクテストが一番上のランクで、枚数も無論一番多かった。
ハントはその全てをクリアし、それ故に受かる筈の無い者が受かった事に憤っていたのだ。
「何故……何故Eランクの試験で態度から減点されていないのですか?」
それはレトの事であった。
「ふむ……何故お前が採点方式の事を知っているのかはこの際どうでもいいとして、確認をしよう。お前、入ってから数ヶ月でここまでランクを上げるのは凄い事だとは思う。ま、それはランク上げだけに集中してたからだが……お前は一つ思い違いをしている」
淡々と採点しながらガレッタさんは言う。
「僕が何か間違いでも? 失礼かもしれませんが、僕はあなた以上にこのギルド……この街を知っているかと。この街に来て始めの一ヶ月はそれに時間を食われましたが……」
気になれば徹底的に、知識の水が一滴も残らない程に調べ上げる。それが秀才の狂った考え形だった。
「自分が治めている同然の街を一ヶ月でか……そりゃ凹むな」
「はぐらかさないで下さい。不正じゃ無いんですか?」
ハントは尚も詰め寄る。
「すまんすまん。別にそんなつもりは無い。そうだな……お前、この街の事、ギルドの事、調べたんだろうさ。それプラス、試験の勉強、実践試合の為の訓練、大変だろうな。ま、端的に言うと、まだ調べて無いことがあるって事だ。お前は確かにBランクに上がった。どうせお前の事だ……Cランクの時はBに上がるため、Dランクの時はCに上がるために勉強したんだろ? じゃあ質問だ。Aに上がるために勉強したか?」
「それは今日帰って……っまさか!?」
「ああ。あいつはお前の一歩先を進んでた。しかも実践試合も一発クリアだぜ? 途中からはずっと話し込んでたみたいだけどな。あいつはお前さんよか年下だ。お前が他人より賢いとすれば、あいつは人じゃ無いレベルの力って差もある。当分はあいつを目指せ――」
その日、ハントは自分でも気付かずに、生まれて初めて悪態をついた。
試験が終わり、ホッとしていた翌朝。俺はギルマスに無理やり――ほぼ誘拐に近い手段で王都に連れて行かれた。
「――ぷはっぁはぁはぁ……ガ、ガレッタ……さん。マジで死にかけたんですけど!?」
俺は麻袋から出され、猿ぐつわを外され、目隠しを取られた所で目の前にいるギルマスに言った。尚、まだ鎖で縛られている。
「死ななかったから良いじゃねえか」
と、大笑いしながら俺の鎖を引きちぎる。外すんじゃなく、引きちぎるって……。
「ってか何でこんなこと……ってここどこですか!?」
改めて周りを見渡すと、先程までいた宿とはまるでかけ離れており、広い空間と壁に掛けられた装飾品の数々がキラキラと光り眩しい。
「ここは王の家、王城だ。因みにここは応接室」
ガレッタさんはさらっと言う。
「お、王城ってな、何で?」
「忘れたのか? お前さんはAランクになって王様に面会しに来たんだろ?」
「あー、で、でもそれって強制だったんですか?」
「……」
「……」
俺とガレッタさんの間に沈黙が生まれる。これ、誘拐罪……。
その時、ドアがコンコンコンとノックされる
「失礼致します。オルベイ様、アルトレア様。王がお呼びに」
「よ、よーし行くかー」
あ、逃げた。まあ特に……連れてこられた方法以外は気にしていないから……許すか?
俺はガレッタさんと共に迎えに来たメイドさんの後をついて行く。
流石は王城、中は広く同じような景色が続き、大分歩いた気がしてくる。が、やがて一つの大きな扉にたどり着く。
扉はギギギと重く開き、中へと道を作る。
とても広い空間。一面に広がる赤い絨毯や左右に控える近衛兵、そして何より、豪華絢爛な王座に腰かける人物から迫力を感じる。
「入れ」
王様自ら発した声はガレッタさんとはまた別の、重い圧力を感じた。背筋に冷や汗が滲むのを感じる。
俺は中へと進む。ここで重要な事に気付く。そう、どこまで進めば良いのか? と。
王様の前に階段のような段差も無ければましてや「ここまで」って書いた黄色いテープもない。
俺は思った。嗚呼、いろんな事を教えてくれたタシューさんよ――何故俺に礼儀を教えてくれなかったのですか? と。
こうなればもう、どうにでもなれだ。
俺はそのまま進んだ。
進めば進むだけ俺に向く切っ先が増える。
もうガレッタさんの足音は聞こえない。が、振り向きたくても振り向けない。国王に背を向けるなんて失礼と推測する。
俺はまだ進む。俺を取り囲もうと一歩踏み出した兵士を王様は腕と腕を威圧で制する。もうめっちゃ怖いのだが!?
俺は考えた俺が王様なら、相手が信用出来ない魔法使いなら――。
俺は進む。そして俺は王様の一歩手前――。
いつでも斬れる位置に留まった。
俺は声が上ずるのを必死にこらえ、膝を付き、頭を下げる。
「レト・アルトレアです。自分に何か御用でしょうか? そして……失礼しました」
「いや、正直に言おう。面白かった。なかなか儂に近付けるものはおらぬ故、いい余興になった。アルトレア君、もう下がってもよいぞ? 儂は君を信用している」
胃に穴が空きそうだ。緊張していたときより胃痛と頭痛が酷い。
が、俺は安心して後ろに下がり、ガレッタさんの隣に戻る。それを見て、国王様が話始める。
「君に来てもらったのは色々と理由があるが、最も重要な事から。話していこう。今、儂の治めるこのセルカトブルド、そしてエルフの国、コノビートスが冷戦状態にある。理由は分かるな?」
「両親……ですか?」
「うむ。現在も捜査させておるが、手がかりは何も見つかっておらぬ。アルトレア辺境伯夫妻……君の両親だが、二人の指輪には特殊な魔法が掛けられていて、二分毎にその時の体調やHP、MPなどが両国でモニタリングしていたのだ」
そして――。
「ある時を境に二人とも、情報が送られて来なくなった。これが事実上の死――いや、記録上の死と見られておる」
「それってどういう……」
「現在、遺体は見つかっておらぬ。不謹慎かもしれぬが、だからこそ、冷戦で留まったと思っておる。犯人は戦争を起こしたい……異種族を忌み嫌う者だろうと予測は立てておるが、何も見つかっておらぬが故、打つ手が無くなってしまった。が、守りを固めることくらいはできよう。そこでアルトレア君。君を呼んだのだ……」
俺は少しの間周りの音が聞こえなくなった。記録では二人は死んだ。でも……でも……実際には死んでないかも知れないっ――そう思うと涙が出そうになった。俺は首を振って意識を話に集中させる。大丈夫、母さんや父さんは死んでない。そんな気がする。
「つまり、君の安全が第一なのだ。そこで君にはここ、王都で過ごしてもらえると助かる。さしあたって君は丁度十三歳と、国立の学園に入学できる年だ。学園に入り、寮で暮らして貰えると助かる」
「わかりました。手続きはお願いしてもよろしいでしょうか?」
「ああ。特待生として特別クラスへ編入させよう。その前に選んでくれぬか? 学園は二つある。どちらかへの編入にするが……剣術学園ヘヴァーネ、魔法学園ヘヴィール……名前は似ているが、要約すると剣術を使うか魔法を使うかどちらかを選べというわけだ。君は魔法を得意とする様だが剣術学園に入ることもできる。が、やはり魔法学園を推奨する。どちらもかじった程度では入学すら危うい位だ。卒業しても学校に居続けることもできる。が、卒業すればもう一人でも並の相手では勝てないと思うので自由にしてもらっても構わない。出来れば王都、王城で勤しんで欲しいものだが」
と笑う。
まぁこれは一択だ。
「はい。魔法学園でお願いします」
自らアウェーな環境に飛び込む方がおかしい。
その後、色々と説明して貰った後、俺は王城を後に魔法学園に向かった。
因みに、案の定俺の異名は『強欲』に決まりだそうだ。――穴があれば入りたい。
「んあ? なんだ? 帰らねぇのか?」
一つはテスト後も会議室に残り、採点をしていた大男――ギルマスことガレッタ。
もう一つは顔に不満の影を落としている蒼い髪の青年――ハント。
ギルマスは採点を続けている為、顔は上げていない。が、目の前の青年が自分に文句を言いに来た事は気づいているようで、
「何か不満があったか? お前はほぼ満点に近い成績で合格した筈だが?」
「はい。有り難うございます。俺もやっとBランクに上がれます」
このハントという青年、一言で言えば正に、秀才だった。
個々人で配られる枚数の違い、それは勿論ガレッタがその者に合った問題を作るのだが、受けるランク毎に基本的な枚数、減点箇所、時間など、全て大まかではあるが定められているのだ。特にレトを除き今回のランクアップテスト、Bランクテストが一番上のランクで、枚数も無論一番多かった。
ハントはその全てをクリアし、それ故に受かる筈の無い者が受かった事に憤っていたのだ。
「何故……何故Eランクの試験で態度から減点されていないのですか?」
それはレトの事であった。
「ふむ……何故お前が採点方式の事を知っているのかはこの際どうでもいいとして、確認をしよう。お前、入ってから数ヶ月でここまでランクを上げるのは凄い事だとは思う。ま、それはランク上げだけに集中してたからだが……お前は一つ思い違いをしている」
淡々と採点しながらガレッタさんは言う。
「僕が何か間違いでも? 失礼かもしれませんが、僕はあなた以上にこのギルド……この街を知っているかと。この街に来て始めの一ヶ月はそれに時間を食われましたが……」
気になれば徹底的に、知識の水が一滴も残らない程に調べ上げる。それが秀才の狂った考え形だった。
「自分が治めている同然の街を一ヶ月でか……そりゃ凹むな」
「はぐらかさないで下さい。不正じゃ無いんですか?」
ハントは尚も詰め寄る。
「すまんすまん。別にそんなつもりは無い。そうだな……お前、この街の事、ギルドの事、調べたんだろうさ。それプラス、試験の勉強、実践試合の為の訓練、大変だろうな。ま、端的に言うと、まだ調べて無いことがあるって事だ。お前は確かにBランクに上がった。どうせお前の事だ……Cランクの時はBに上がるため、Dランクの時はCに上がるために勉強したんだろ? じゃあ質問だ。Aに上がるために勉強したか?」
「それは今日帰って……っまさか!?」
「ああ。あいつはお前の一歩先を進んでた。しかも実践試合も一発クリアだぜ? 途中からはずっと話し込んでたみたいだけどな。あいつはお前さんよか年下だ。お前が他人より賢いとすれば、あいつは人じゃ無いレベルの力って差もある。当分はあいつを目指せ――」
その日、ハントは自分でも気付かずに、生まれて初めて悪態をついた。
試験が終わり、ホッとしていた翌朝。俺はギルマスに無理やり――ほぼ誘拐に近い手段で王都に連れて行かれた。
「――ぷはっぁはぁはぁ……ガ、ガレッタ……さん。マジで死にかけたんですけど!?」
俺は麻袋から出され、猿ぐつわを外され、目隠しを取られた所で目の前にいるギルマスに言った。尚、まだ鎖で縛られている。
「死ななかったから良いじゃねえか」
と、大笑いしながら俺の鎖を引きちぎる。外すんじゃなく、引きちぎるって……。
「ってか何でこんなこと……ってここどこですか!?」
改めて周りを見渡すと、先程までいた宿とはまるでかけ離れており、広い空間と壁に掛けられた装飾品の数々がキラキラと光り眩しい。
「ここは王の家、王城だ。因みにここは応接室」
ガレッタさんはさらっと言う。
「お、王城ってな、何で?」
「忘れたのか? お前さんはAランクになって王様に面会しに来たんだろ?」
「あー、で、でもそれって強制だったんですか?」
「……」
「……」
俺とガレッタさんの間に沈黙が生まれる。これ、誘拐罪……。
その時、ドアがコンコンコンとノックされる
「失礼致します。オルベイ様、アルトレア様。王がお呼びに」
「よ、よーし行くかー」
あ、逃げた。まあ特に……連れてこられた方法以外は気にしていないから……許すか?
俺はガレッタさんと共に迎えに来たメイドさんの後をついて行く。
流石は王城、中は広く同じような景色が続き、大分歩いた気がしてくる。が、やがて一つの大きな扉にたどり着く。
扉はギギギと重く開き、中へと道を作る。
とても広い空間。一面に広がる赤い絨毯や左右に控える近衛兵、そして何より、豪華絢爛な王座に腰かける人物から迫力を感じる。
「入れ」
王様自ら発した声はガレッタさんとはまた別の、重い圧力を感じた。背筋に冷や汗が滲むのを感じる。
俺は中へと進む。ここで重要な事に気付く。そう、どこまで進めば良いのか? と。
王様の前に階段のような段差も無ければましてや「ここまで」って書いた黄色いテープもない。
俺は思った。嗚呼、いろんな事を教えてくれたタシューさんよ――何故俺に礼儀を教えてくれなかったのですか? と。
こうなればもう、どうにでもなれだ。
俺はそのまま進んだ。
進めば進むだけ俺に向く切っ先が増える。
もうガレッタさんの足音は聞こえない。が、振り向きたくても振り向けない。国王に背を向けるなんて失礼と推測する。
俺はまだ進む。俺を取り囲もうと一歩踏み出した兵士を王様は腕と腕を威圧で制する。もうめっちゃ怖いのだが!?
俺は考えた俺が王様なら、相手が信用出来ない魔法使いなら――。
俺は進む。そして俺は王様の一歩手前――。
いつでも斬れる位置に留まった。
俺は声が上ずるのを必死にこらえ、膝を付き、頭を下げる。
「レト・アルトレアです。自分に何か御用でしょうか? そして……失礼しました」
「いや、正直に言おう。面白かった。なかなか儂に近付けるものはおらぬ故、いい余興になった。アルトレア君、もう下がってもよいぞ? 儂は君を信用している」
胃に穴が空きそうだ。緊張していたときより胃痛と頭痛が酷い。
が、俺は安心して後ろに下がり、ガレッタさんの隣に戻る。それを見て、国王様が話始める。
「君に来てもらったのは色々と理由があるが、最も重要な事から。話していこう。今、儂の治めるこのセルカトブルド、そしてエルフの国、コノビートスが冷戦状態にある。理由は分かるな?」
「両親……ですか?」
「うむ。現在も捜査させておるが、手がかりは何も見つかっておらぬ。アルトレア辺境伯夫妻……君の両親だが、二人の指輪には特殊な魔法が掛けられていて、二分毎にその時の体調やHP、MPなどが両国でモニタリングしていたのだ」
そして――。
「ある時を境に二人とも、情報が送られて来なくなった。これが事実上の死――いや、記録上の死と見られておる」
「それってどういう……」
「現在、遺体は見つかっておらぬ。不謹慎かもしれぬが、だからこそ、冷戦で留まったと思っておる。犯人は戦争を起こしたい……異種族を忌み嫌う者だろうと予測は立てておるが、何も見つかっておらぬが故、打つ手が無くなってしまった。が、守りを固めることくらいはできよう。そこでアルトレア君。君を呼んだのだ……」
俺は少しの間周りの音が聞こえなくなった。記録では二人は死んだ。でも……でも……実際には死んでないかも知れないっ――そう思うと涙が出そうになった。俺は首を振って意識を話に集中させる。大丈夫、母さんや父さんは死んでない。そんな気がする。
「つまり、君の安全が第一なのだ。そこで君にはここ、王都で過ごしてもらえると助かる。さしあたって君は丁度十三歳と、国立の学園に入学できる年だ。学園に入り、寮で暮らして貰えると助かる」
「わかりました。手続きはお願いしてもよろしいでしょうか?」
「ああ。特待生として特別クラスへ編入させよう。その前に選んでくれぬか? 学園は二つある。どちらかへの編入にするが……剣術学園ヘヴァーネ、魔法学園ヘヴィール……名前は似ているが、要約すると剣術を使うか魔法を使うかどちらかを選べというわけだ。君は魔法を得意とする様だが剣術学園に入ることもできる。が、やはり魔法学園を推奨する。どちらもかじった程度では入学すら危うい位だ。卒業しても学校に居続けることもできる。が、卒業すればもう一人でも並の相手では勝てないと思うので自由にしてもらっても構わない。出来れば王都、王城で勤しんで欲しいものだが」
と笑う。
まぁこれは一択だ。
「はい。魔法学園でお願いします」
自らアウェーな環境に飛び込む方がおかしい。
その後、色々と説明して貰った後、俺は王城を後に魔法学園に向かった。
因みに、案の定俺の異名は『強欲』に決まりだそうだ。――穴があれば入りたい。
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