異世界転移に間に合わなかったので、転生して最強になろうと思う!

八百森 舞人

閑話 異世界転移したけど、自己紹介は覚えていない。

 そのクラスは、今日、異世界に転移した。








 いつも通り、俺は登校後、朝の読書を始める。今日も俺こと和樹かずきの親友、修は来ない。


 いつからだったか、あいつは学校に来なくなってしまった。


 理由や原因は、知らない。たまに、家に行って、遊んだりはするが、なぜ学校に来なくなったのか聞いてみても、いつもはぐらかされたり、体調が悪いから、と返される。俺の勝手な想像でしか無いが、修は嘘をついてる気がするのだ。今日も放課後に、行ってみるつもりだ。


 特に、やる事もないが、修とは喋っているだけで楽しい。オタ友として、共通の話題を持っている事はありがたい。あいつは、世界観が、みんなと違うような気がするし、学校に来なくなってから、更にそれが強まった気がする。




 予鈴が始まって、ぞろぞろと、他の生徒が席につく。ちなみに俺の席は、左からも後ろからも二番目と、結構地味な席だ。
 扉が開き、先生が入って来る。先生が扉を閉めた音を皮切りに教室が静まる。


 「っ!!」


 そう、文字通り、


 俺は、耳がいい方だとは思う。いつもは、窓の外の車の音や、信号機の電子音が聞こえる筈の俺の耳には現在、一切の音が聞こえなくなっている。


 他にも数名、この異常に気づいている生徒がいる。辺りを見渡し、気づいた者同士でサインを手のしぐさで送っている。


 昔、小学生の頃に宇宙空間や真空空間では音が聞こえない、という現象を知った時のことを思い出す。


 あれは、空気を伝わって、振動する音は、殆ど空気が存在しない宇宙では振動しないため、音が伝わらないというような感じがだったと思う。


 だが、ちゃんと息は出来るのはなぜだろう? そう不思議に思っていると、突然、


 「あ、あ、聞こえておるかね? 未来の英雄達よ!」


 と、頭に声が響く。
 流石に、ここまで来ると全員が異常に気づく。一斉に、オロオロしたり、ビックリして、涙目になっているのも、数人、後、ガッツポーズしているのが、男子の大半……。


 「簡潔に用件を言う。今、我は、君達とは違う次元にいる。そして君達を、こちらの世界に、呼び寄せたいと、思っている。何故このような事をしているのか、そう、疑問に思っている者もおるとは思う。しかし! 今は時間がない。なので、お主らには今ここでそこの扉から出れば、転移に、巻き込まれずに済むようにしておいた。親、友人とは、離れたくないのも分かる、無理をする必要はない。後、三十秒だ。そして、異世界ともなると、時差があるのも当然かと思う。なので、質問は控えて欲しい」


 しかし、誰も出ていこうとはしない。すると、床に、光輝く魔方陣が出現する。


 因みに、俺は出ていこうとは思っていない。退屈な毎日より、異世界で、命を懸けた冒険がしたい。そう思っているのは、ここにいる全員だろう。誰も出ていこうとはしていない。


 「では、始めるぞ」


 魔方陣の光が、次第に強くなってくる。


 頭がガンガンと、響いて、色んな音が、大音響で流れる。


 あれ? 今一瞬……そう思って、後ろの方の扉を見る。そこには……。


 「修……」


 こちらに手を伸ばす、修の姿があった。


 俺は、修の名前を呼ぼうとするが、視界が白く染まり、思わず目を閉じる。


 「未来の英雄達よ! 来るがいい! 我のいる世界へ……に!!」










 目を開けると、赤いカーペットに広い空間、大きく豪華な扉の反対側には金や、宝石が散りばめられている椅子、そこに座り、堂々としている人がいる……そんな空間に俺はいた。


 視界に映る光景の中に、修は、いなかった……。


































 あれから俺たちは、今回の出来事を起こす原因となった、について、この国、セルカトブルドについて等、色んな事を教えてもらった。あの声の主は、案の定、王様だったりした。そこまで聞き終えると、大きな窓から夕陽が見えた。


 「む! 話していると、時間と言うものは早く過ぎるものよの。さて、とりあえず話さなければいけぬ事も無くなったか……では、皆のものも腹が減っていると見受ける。今夜は宴だ! 思う存分食うと良い。準備が出来るまでは各自に用意しておる個室に、行って休むのが良かろう。以上じゃ! またあとで。」


 と、王様は、締めくくり、奥にある扉から出ていく。


 話が終わり、背を伸ばしつつ、メイドに案内された部屋に入る。内装はとても豪華で、テレビとかで見る海外のホテルのスイートルームのようだ。勿論、一級ホテルの、だ。


 しばらく、部屋を見て回った後、ベッドに寝転び、王様の説明をなんとなく、頭の中で蘇らせる。


 この国に関しては、もう、ザ・ファンタジー、としか感想が出ない……。


 王城の回りに街がある、円形の国で、主に王城・貴族街・ギルド等の施設・商店街・住宅街と、並んでいるが、施設と商店街、が混ざったりしているため、そこは曖昧らしい。


 まぁなんといっても、ギルドとか冒険者は異世界感出てるな。


 あまり詳しいことは聞けなかったから、この国については、こんなもんだな。


 この世界には、九つの種族に国があり、そのうちの一つが、魔物国家・ララフィジア、と言い、近隣の国を襲い、奪い、殺し……とにかく残虐な種族らしい。
 道に出るような魔物とは違い、知性ある魔物……魔族が集まった国ではあるが、魔物は魔物。その場にとどまる、世界規模の群れと、王様は考えているらしい。


 その中でも、一際目立つ力量を持った者……魔物の王、魔王が集まり、会議だとか、喧嘩だとか、力比べだとか、(諸説あるらしい)のために世界が滅びかけるのが、魔王の集い。


 俺たちの役目は、その殲滅、もしくは仲裁だ。


 魔王はほかの魔族とは格が違い、勇者と言われる英雄でもギリギリらしい。


 と、コンコンとノックが響く。


 「お食事のご用意が出来ましたので、ご案内に伺いました。宜しければ、部屋を出て、右手の奥にある、談話室でお待ちくださいませ。皆様がお揃いになられましたら、ご案内させて頂ければと思います。では、失礼しました」


 と、部屋の外で、声がする。部屋に案内してくれた人の声と同じなので、多分、メイドさんだろう。






 夕食の宴は、立食のバイキングで、自己紹介が行われた。


 自分たちが名乗り、その場にいた全員から、自己紹介された。覚えてないが……。


 自己紹介が終わると、自然と解散していった。今、この場に残っているのは、クラスメイト数名と、メイド、騎士のような人位だろう。


 「俺も、戻るか……」


 出口の扉に向かって歩いていると、ふと、名前を呼ばれる......振り替えると、騎士の人がこちらを手招きしている。


 「やあ! 君は確か……えっと」


 「和樹です。福田和樹。覚えてなくて当然です。何せ、三十人もいますからね」


 「そう言って貰えると助かるよ、和樹君。私は、騎士団の副団長を勤めさせてもらっている、ロダオールだ。宜しく頼むよ。因みに、明日から君達は、魔物との戦いに備え、訓練に参加してもらおうと思っている。俺が監督するからよろしくな」


 「はい! 宜しくお願いします」


 「じゃあ、また」


 そう言って、ロダオールさんは、俺の肩をポンッと叩いて歩いていく。


 「ふぅ。もう寝るか」


 俺は自分の部屋まで一人で戻った。




 二度ほど迷ったのは、誰にも言えない……。



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