コネクト  創造する世界

AAA

仮想と現実 3日目 熱戦 2

目の前には、泥の津波が押し寄せてくる。自分は赤い泥の彼女の前に立つ。


「逃げな……っていっても逃げられる場所はないか」


彼女はもう諦めているらしい。あれと同じものなので津波の凄さがわかってしまうのであろう。


「ひとつ話をしてやる。なに津波がつく前には終わる短い話だ」


「へぇー、渡り賃渡す前に聞いておこうか」


「なに、簡単な話だ。君が召喚されたようにデメリットを極限まで極めたら、どのような補正がかかるか。それを調べた男がいた……そしてその結果は」


津波が襲われる、しかしこちらに泥がいくことはなく。いつの間にか津波も消えている。


「純正な管理者権限だった。端的に言えば【ある一点において】運営と同じ権力を得た」


泥が消える。それを理解したのか、第2波がこちらに向かってきてる。


「勿論、初めから強いわけではない。3日目までは使い物にもならなかった。そもそも3日目まで行くことも少なかったと思う」


目の前には再度波が広がる。先程と同等の波だ。しかしそれは届くことはなく。先程と同様付近に来たら消滅する。


「そもそも、これは一種のバグだ想定外のことをやられ元はテスター用の権限がこっちに来た。俺はそう思っている」


第3波がくる、今度は今までよりも大きい。


「貴方はなんの権限を得たの?」


「【事象の消滅】それが恐らく与えられた権限だと思う。触って見た感じはそんなものだった」


ギリギリまで引き付け、泥をギリギリまで増やしてから消滅させる。津波となった泥は消え、白い床が見えてくる。


「それ勝てるの?」


「このゲームの趣旨は【生き残る】ことだ、勝つことじゃない」


彼女はクスッと笑い。


「じゃあ、勝てる奴が必要だな」


「そうだな、だから利用させてもらうぞ」


赤い泥の中に半透明のものが入る。


「これは?」


「なに、【殴れるようにするシステム】さ、今ならあいつを殴れるぞ」


「そんなことできるわけないじゃない、私は私よ」


白い場所にバシャバシャとヘドロを落とし、彼女がこちらに現れる。


「源泉に射なくていいのかい?」


「あなたこそ殴りかからなくていいの?」


質問を質問で返すなと、更なる怒りが沸いたがそれを抑え話を続ける。


「なら遠慮なく」


赤い彼女に入れたのと同じものを彼女に展開する、最もこっちは大量生産だが。


泥が侵入を拒む。


「消さなくていいのかしら?」


「お前こそ泥を消さなくていいのか?」


半透明のものは泥に飲まれていく。


「お前って、嫌われたものね」


「お前の場合は自業自得だかな」


泥には異変が起きる、形が形成され人形が生まれる。


「あら、可愛い人形だこと、でもいらないわ」


泥に飲み込もうという行為を消す。


「悪いなこっちは欲しいんだ【与えてくれよ】泥を」


「……」


やがて泥から1つの人形ができる。歪で不快な人形だ。


「いいできだろ?お前に似て【不快で歪だ】」 


泥による攻撃を試みるがそれを、赤い方が止める。


「邪魔をしないでよ」


「邪魔?違うね、これは訂正だ」


流体の泥をなくし固形となった彼女は言う。


「訂正?何を」


「なに、さっきまで施しやら、与えるやらいってた人が、与えたものを怖そうとしてるんだ、そりゃあ私としては止めるさ」


「チッ」


おお怖い怖い、とんだ聖女もいたものだ。


「学習能力のないやつだなお前は」


「いきなりなんですか」


「周りが見えてない、今が見えてない、お前まだここにいて大丈夫なの?」


お前の泥は侵食されたのだぞ。あぁ言い方が悪いか与えてもらったものを食い潰すだけだものな、そりゃあ意味はないか。


「あぁ、悪かった。俺から見れば【侵食】だがお前から見れば【施し】だった。どうぞ好きなだけここに居座ってくれ」


「侵食……ハッ」


彼女は後ろを向く、遠くて見えないが。恐らく人形が泥から湧いているだろう。


泥に乗って向かおうとする彼女を、泥を消して対応する。


「くっ」


「なんだ、ただの俗物じゃないか。あれだけ啖呵をきったんだ、堂々としてればいいじゃないか」


普通に戻ろうとしてる彼女を封じる。なんてことはない、【彼女はそもそも歩けない、いや動けない】動けているのは、魔法やら何やらで無理やり動かしてるからだ。


「何も考えず、【与える】と上から言うからそうなる。まぁ貰ってやろう、別に欲しくもないが」


「私は……」


「そもそも、人は何故表と裏があると思う?」


「いきなりなによ」


行動を封じられ、苛立ちながら彼女は言う。今の心象はもう下水色に染まっているだろう


「答えは、【表だけでは現実は生きずらいからだ】わかるか、裏の顔なんてものは秘匿にするもんなんだよ。それをよくもまぁ主人格になったかといって調子にのって……」


「じゃあ、何であんなことをしたのよ」


「あんなこと?俺は【トラウマを克服させただけだ】他のは全部お前の思い込みだ」


ついでにいれば、一時のノリだ。つまり、俺にとってたどうなろうが些細なことだ。


「まぁ、そんなに戻りたいなら戻してやる。這い蹲ってもどりな」


キッとこちらに睨みつけ、這い蹲りながら泥の元に向かう。


「さて、よく見てろよ、あれがお前だ。色々あるが結局は良くあるただの人間だ、しいて言うなら回転は速いかもしれないが、ベースがあれじゃ使いこなせないな」


「あんた……いったい」


「ほら良く見てみろ、そろそろ汚い部分が見えるぞ」


泥の元に立とうとした彼女に歪な人形達が立ちふさがる。


彼らは彼女の下半身に手をかけこちらに引いてくる。


「アレはなに?」


「なに、ただの怨霊の集合体だ。ただ周囲に子供のように悪意を撒き散らす。それしかできない脆弱な存在だ」 


それ以上もそれ以下も無い。おまけに群だ。


「魔法とか使えないの?」


「あれは群だ。個ならその可能性もあるが、ただの群。何千、何万といようとも中くらいの結界で弾き飛ばされる弱い存在だ。まぁこの状況では圧倒的有利にたてるがな」


個ならひとつの強さになるだろう。しかし今回は群だ。しかも質ではなく量を選んだ。だからこいつに戦闘を期待することは間違ってる。


「じゃあ、あなた自身は?」


「これは、【調整】を見たくて作ったキャラクターだ、まぁ半分は維持になって作り上げたが……。こいつには未来成長はない、ついでに言えば強さもない。どのステータスもE一般人以上で止まり。魔法は碌に使えない。いやそもそも、大量の怨霊でかつかつだからそもそも魔法を使う前提でいない」


「それ強いの?」


「弱い、考えうる限りの最弱を選んだつもりだ。これ以上弱くなると何処かに無理やりの奴が入る。多分これが作りうる中で最弱」


他にも可能性があるかも知れないが、それでもこいつよりも弱いものは存在しないだろう。


「それゆえのこれ事象の消失だ。まぁ調整用の奴なので何時か変わるかもしれないが」


それでも、今ここにデータがある時点で再利用は可能である。


「さて、あっちはそろそろあの段階に入るかな」


這い蹲る彼女の周りには泥が湧き上がってくる。まぁ当然といえば当然だが。あれが私であるとするならば、私もあれにあることは違いない。しかし彼女から湧き出すあれは、感情の表れだ。


「そら、結局自らが剥がした泥を張っていくぞ」


次第に彼女の周囲に泥が集められていき、小さな泥人形も全て飲み込まれいく。


ただ巨大に、ただ大きく形成されていく。碌に調整もとらないから形も歪である。


そうして最後に源泉ごと飲み込み、彼女はこちらをみる。


「はは、醜いな。先程まで【与える】とかいった人間の姿かこれか。貰うの間違えじゃないのか」


巨大な体から重そうな一撃が振り下ろされる。


「はは、何も学んでないじゃないか。進歩がないぞ」


時計を使う。弱そうな青年から、どこぞの不良少年みたいな格好に変わる。利き腕に強大な塊をつけて。


「そら、比べてやる。その拳と俺の拳どちらが重いのかを」


拳と拳が重なり合う。こちらは体が床にめり込み。彼女は腕を半壊させる。最もこちらも腕が砕け散ったがこちらははじめから【一回限定の浪漫技】だ。


「さぁ、どんどんいこうか。弾はまだまだあるぞ」


ビーム剣による縦切り。槍による一閃。魂身の一撃となるハンマーの一撃。


銃も放った。弓も射った。刀で切った。戦艦を呼び出し前門発射を行った。


「まだまだ」


扇で竜巻を起した、笛で空間を歪ませた。杖で思いっきりぶん殴った。


「まだまだ」


紋様による巨大な火球攻撃、爆弾による爆撃、異次元からのよくわからない攻撃、


「まだま……なんだもう終わりか」


最初はあれほど大きかった泥も剥がれ落ち、もはや薄皮を残すだけとなっている。


今の武器は……マリか七色に光る一撃を食らわせるはずだったのだが残念。


一歩、相手の方に歩く。薄皮の泥人間は、動かない。


泥を弾くよう、マリで一撃を食らわせる。彼女は避けようとせず、マリの一撃を食らい最後に残った泥が弾け飛ぶ。


一歩進む。


「貴方は……何」


一歩進む。


「どうして、こんなことをするの?」


一歩進む。


「何が目的なの?」


そうして彼女の前に立つ。


「私が何をしたっていうの?」


「何って、喧嘩を売ってきたじゃないか。だから買ってやった。だからお前を潰した」


「そんなことして、楽しい?」


楽しいかってそりゃもちろん。


「楽しいさ。お前のような人を見下してるやつを潰すのは楽しいね」


恐らく自分の顔は相当歪んだ笑顔になってるだろう。まぁその歪んだ部分も含めて自分だ。受け入れるさ。


「それで、結局お前は何がしたいんだ。散々見下して、上から目線で喧嘩売って。負けたから泣いて。それで終わりか」


彼女の目から涙が溢れてくる。


「私は…私は」


「私は何だ?またトラウマ初期のように【壁を作るのか】そうしてまた人格を作って繰り返すか?」


「私『そこまでにしてくれないかい』」


飲み込まれそうになった。彼女がこちらにくる。


「もういいだろ、これくらいで途中から派手なの撃ちつくして満足してたじゃないか」


「なら求めているものもわかるだろ。さっさとやってくれ」


「はいはい」


彼女は彼女と向き合い。


「なによ」


「なに謝りにきたのさ、ごめんよあんたのこと考えずに動いて」


「それは、私も同じよ」


ハハと彼女は笑い。


「ならおあいこだね、私達は」


「うん、おあいこだね」


互いが笑顔になる。


「さっさとやることをやれ、後そういうのはTPOをわきまえて行え」


「とりあえず、殴ろう」


「それに賛成で」


彼女が一体化する。恐らくここまでがこのトラウマ克服方法の一環なのだろう。俺もこうなったし、彼女もこうなった。次やる奴も多分こうなるし、自分以外でも恐らくこうなる気がする。


さてこれで、初日に悪魔的な手法を使ってきた奴の憂いが無くなり。全力での戦いになるんだが。まぁ、あれでいいだろう。


赤い彼女と戦った時の武装に戻す、やはりノリよく戦うならこいつがいい。それくらい良い勝負がこの時にはあった。


「さて、準備はできたか」


「あぁ、でもその前に1ついいかい」


「なんだ」


床から泥を湧かし。背後には沢山の腕が見える状態で彼女は言う。


「わたしはあんたの事を好きって言ったが、訂正だ、つい今さっきお前のことが嫌いになった」


「そうか、俺も同じ気持ちだ」



コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品