コネクト  創造する世界

AAA

マイナーゲーム 捨てるもの、拾うもの

「別部署に移動ですか」


「あぁ、上から直々に移動の命令が出てね。まことに残念ながら君を手放すことになったよ」


よくいうよ、【ろくに仕事も与えなかったくせに】


「まぁ、君ならなんとかなるだろう。【一時代を築いたんだから】他部署でもやっていけるさ」


ニヤニヤと侮蔑して顔で、そういってくる。周りの奴も同様だ。どいつもこいつも見下し、できないと決めつけ。上から目線で笑ってやがる。


全く、VR様々だな【こんな糞ったれな環境作りやがって】ろくにモーションは作れない。ビジュアルは3Dオンリー、おまけに【凝ったモーションを作らせない】コンボなんてなおさらだ。おかげで単調な攻撃しか作れねぇ。そのくせ【無駄にエフェクトだけは凝りやがる】そのリソースを攻撃パターンに寄越せよ畜生が。


あぁ、【あいつ見たいにゲーム会社辞めれば良かったのか】しかしこれ以外の稼ぎかたなんて知らねぇしなぁ。実況者なんて柄じゃねぇし。


「はぁ、やってらんねぇ」


愚痴をこぼしながら。物を整頓する。複数班作業なので引き継ぎもなし。まぁやってることなんて。【ありきたりなモーションを少し改変】してるだけなんだから引き継ぐこともないわな。


「いっちゃうんですね」


作業班の一員が声をかける。最近入った若いのではなく。【俺達の時代を知ってるやつだ】


「おぉ、左遷かどうかわからんが、とりあえず行ってくるよ」


「はは、ここじゃ上野さんの実力発揮できませんしね」


「そういうな、多分何処いっても発揮する場所なんてねぇよ。【もうあの頃のゲーム筐体なんてないんだから】」


あぁ、言ってて悲しくなってくるな。どっかにねぇかな。【好き放題やらせてくれる場所】


「でも、配属先が彼処ならもしかしたら」


「彼処って何処だよ」


「えーと、確かユーザーが開発してる部署ですよ」


「あぁ、彼処か」


たしか、【どっちも不祥事一歩手前の事件】起こして戦々恐々してる場所じゃなかったけ。


「確かに、彼処なら何でもできそうだが。そもそも、そんなとこからお呼びがかかるのかねぇ」


確かどっちのプロデューサーも斜め上の発想してる記憶しかないぞ。


「それでもここよりかは期待はできるんじゃないんですか」


「はは、まぁとりあえず適当にやってみるわ」


どうせ【この時代】には本気にさせるもんなんてないんだしな。










「上野、お前も呼ばれたのか」


「おぉ、佐野じゃねぇか元気にやってるか」


「あんな糞みたいなグラフィックを作るのに元気が出たら、俺は時代を築けてねぇよ」


「はは、違いない」


よかった、変わらないみたいだな。それにしても佐野もいるとは少しはやる気が出そうだな。


「それにしても【お前もくるとは】まじで本気なのかな」


「はぁ、なんの話だ」


お前もってことは他にも誰か来てるのか。目を泳がせ周囲を確認する。


「確かに見知った顔が何人か居るみたいだが」


「居るってレベルじゃねぇぞ。半分だ」


「あん、なにが全てなんだ」


「【アーケードに関わってた半分、いや半分以上の人間がここに終結してる】」


「はっ、そんなのあり得んだろ」


「だったらもっと周囲を確認してみろ。驚愕するぞ」


半数以上だぁ、確かに人は多いが【大体の奴らは辞めたはずだぞ】そんなにいるわけが……


見覚えある顔がいる。もし本人なら六年いや、八年振りになるか。そいつに向かって声がかける。


「お前、鈴木か」


俺の質問に奴は笑いながら答える。


「よう上野、まさかまたお前と組むなんて思わなかったぜ」


「どういうことだ、お前……会社【辞めたんだろ】」


「俺もよくわからんが【暫く出向扱いでこのプロジェクトに関わるらしい】」


「はぁ、お前の会社【普通のプログラミング会社だろ】」


「あぁ、しがない【ソフト会社】さ。だからなんで呼ばれたかこっちもわからん」


おいおい、いったい俺たちに何をさせるつもりなんだ、この部署は。まさか本当に……本当に作らせるつもりなのか。


「あーあー、聞こえますかお集まりの皆さん」


マイクのような拡声器で全員に響き渡るように、そいつは声を響かせた。


あたりが静まりかえる。


「あー、話しててもいいですよ。ただしこそこそ話でお願いしますね」


若い声だ多分30もいってないだろう。恐らくユーザーなんだろうな。


「まぁ、時間が無駄になりますんでさっさと本題を話しますね。あなたを呼んだのは薄々気づいてると思いますが」


誰しもが固唾を飲んで聞く。ここにいるほぼ全員が思ってること。同窓会でもなければ集まらないようなメンバー。そんな俺等を集めるってことは。


「作ってもらいます【VRゲームでアーケードゲーム】を」


言った、言いやがった。本気で言いやがった。


「それは、どれくらいの予算で作るんだー」


「予算?そんなものありませんよ」


はぁ、そうだよな。【インディーズ】になに期待してんだが。


「必要な物があるならいってください。【全て買いますので】」


「はは、気のせいかな全て買うって聞こえたんだが」


「時間がないのではっきりいいます。【召集された一ヶ月間は予算は考えなくていいです。全て【コネクト社】が支払います】」


まじでいってんのか。【数百名規模】だぞ、一月でも人件費だけで数億は超えるぞ。


「疑問があるのはしょうがないですが。今回、あなた方に与えられた仕事はその分の価値がありますので」


「それで俺たちに何をさせようというんだ」


「あなた方は三つの班に分かれて貰います」


「三つの班だぁ」


「三つの班は【サルベージ班】【VR班】【開発班】です、今回は開発班は強制で決まってるので、VRかサルベージを選択してください」


サルベージにVRだぁ、この流れからすると、サルベージは【アーケードゲームの再現だよな】、VRは【たぶんまんま】だろ。だけどそれって一緒じゃねぇのか。それに開発って……


「それでは班について説明してきます。まずは一番どうでもいいVR班です」


「どうでもいいって」


「まぁ【事実】ですから。この班はアーケードゲームのシステムとモーションを開発して貰います。まぁ最低限やって貰えばいいです」


「その最低限ってのは何なんだ」


「とりあえず、コンボモーションを武器系統ごとに一式。それと【ジャストガード】【キャンセル技】【無敵モーション】ぐらいは作ってください。後はサルベージしたのでいいのがあったらって感じですね」


まぁ、妥当な線か。【十名もいれば作れるだろう】


「次は肝である、サルベージですが……実物見て貰った方がいいですね」


そういって、奴は俺たちに見せてきた。


「うぅ」


「おぉぉぉぉ」


あるものは叫び、あるものは泣く。そうそれは数年ぶりに見た。今はもうどこにもないだろう、数十年間戦ってきた筐体相棒だった。


「サルベージ班は、多くの筐体をサルベージして貰います。勿論【使用できる状態でね】」


「……、つまりあれか。VRゲームの中に【ゲーセン】を作るつもりかあんた」


「昔ありましたよね【俺より強い奴に会いに行く】ってキャッチフレーズ。今なら簡単にできると思いませんか。【全てはここコネクトに繋がってるんですよ】」


「……本気…なんだな。本気で復活させるんだな」


「勿論、ここは実験室ですからね。【古今東西、ありとあらゆるゲームを実験しますよ】忘れられた過去も最先端の今もね」


その表情には、侮蔑も哀愁もなく、希望に満ち溢れていた。久々に熱い物がこみ上げてくる。もう何年も無くなっていたものだ。


「しかし、これでは足りない。足りませんよね皆さん、【昔を懐かしむのもいいですが、あなた方は開発者ですよね】」


「……いいのか、やっても」


「【今回】は駄目です。新作を作ってる暇はありませんから」


【今回】はときたか。いいねぇ。やる気が出る。つまり【これが成功したら】また作っていいんだろ。


「しかし、口約束では納得しないでしょう。そこで幾つかの作品を用意しました。入ってきてどうぞ」


有名どころが出てくる。一人目は確か版権のロボットアクションゲーム作ってた所だったかな。二人目は音ゲーで最後まで残ってた所か。そして三人目は……


俺が昔いたプロジェクトチームのチーフじゃねぇか。はは、そういえば売れないからといって【最後の作品はお蔵入りだったけか】


「今回は【最後のお蔵入りしたゲームを復活させます】作ってる時間は無いのですが。【作ってあるものを出す時間ぐらいあります】この三つのゲームが今回の目玉ですかね。さて企画はこれで全部です。皆さんには嫌でも【コネクト正式までの時間】まで仕事をして貰いますよ」


「おい、待ってくれ」


「なんでしょう」


「このプロジェクトは【一ヶ月で終わり】ていったよな。このプロジェクトは続かないのか」


「続きません」


「そっか……そうだよな」


これからまた筐体作れるなんて。そんな都合の事は起きないか。……でもそれおかしくねぇか。あいつは【今回】は作れませんっていってたよなぁ。


「今回のプロジェクトは【サルベージ】です。過去の遺物にすがるのなんてプロジェクトじゃありません。以降は【ちゃんとした部署で作って貰います】」


「専門の……部署?」


「これはもう打診してありますが。規模はわかりませんが。【ACアーケード専門の部署】は正式版からできることは確定してます。こんなちんけな所にかまってないで正々堂々と作ってください」


「うおぉぉぉ」


「復活、筐体ゲーム復活」


それぞれが歓喜の声をあげる。当然だここ八年【やりたくてもできなかった事ができるんだ】八年前はこんな仕事とっとと終わらせたいとか愚痴ってたんだがなぁ。だけどよぉ


「そうか、また……また作っていいんだな」


「えぇ、おまけにマイナーゲーム支援金もありますから。ある程度の糞ゲー作っても問題ないですよ」


「はは、そうか俺たちは【マイナーゲーム】扱いなのか」


そりゃあいい。【消えた原因に俺達がなるのか】


「ええ、しかも今のところは【インディーズゲーム】の中の要素の一つですよ」


「はは、そりゃあ【人が入らなくても】金が貰えそうだな」


「さて、皆様のやる気も出たことだし。最後に宣言をして終わりましょう」


行動一つ一つが見逃せなくなる。本当にこいつはなんなんだろうな、いきなり現れて、爆弾発言して。俺達のやる気をださせて。まるで【神様】のような奴は。


「では、スカイアースの実験室、代表の大空大地が今ここにアーケードの復活プロジェクト【プロジェクトAC】を宣言する。各自全力で取り組むように」


『「おぅ」』


こうして、俺の転換期との呼べるプロジェクトが始動した。久々に熱い何かが作れそうだ……



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