姉さん(神)に育てられ、異世界で無双することになりました

トキノサエズリ

東の大地へ

 グリフォンの素材は、全部で銀貨二十枚で売ることができた。
 これだけあれば、しばらくは食べるに困らないだろう。
 グリフォンの肉は買い取れないそうなので、今夜の夕食用に持っていくことにしよう。今日食べきれない分は処分しないといけないな。

 オーガの巣は危ない場所にあるということなので、チッケには待っていてもらおうと思ったのだが、
「師匠と一緒なら、おいらは火の中水の中だぞ」
 と言って、一緒についていこうとする。
 全力で走って行きたいんだけどなぁ。
「そもそも、師匠ってこのあたりの地理に疎いだろ? おいらは東の森でも採取依頼とか荷物運びで行ったことがあるから、絶対に役に立つぞ」
 ……そう言われたらぐぅの音も出ない。
 日本ならば地図アプリを使えば道に迷うことはないが、この世界では地図そのものが貴重品なのだ。リディーさんに地図を見せてもらったけれど、子供が描いたようなお粗末なもので、しかも持ち出し厳禁だった。
 チッケの顔を見ると、ニヤニヤ笑っている。
「私がいないとテンちゃんはなにもできないんだから」と自慢げに言う姉ちゃんのような表情だ。
 断るのは簡単だが、リディーさんの姉さんが助かる確率を上げるには、道案内は必要だろう。
「はぁ……仕方ない。チッケ、安い物なら何でもそろう雑貨屋のような店はあるか?」
「ああ、こっちだよ」
 時間がないことを理解しているチッケは、走って俺を案内してくれた。

 そこは雑貨屋というよりかはリサイクルショップみたいだ。穴の開いた古着や水筒、底の焦げた鍋とかも売られている。その分、値段もかなり安い。
「よう、チッケ。今日はなにを拾ったんだ?」
 店の奥から、顔を赤らめた小さいおっさんが姿を現す。昼間から酒を飲んでいるようだ。
「ちげぇよ、今日は客を連れて来たんだ」
「ほう、客引きとはいい仕事するじゃねぇか。グハハハ。で、何を買いたいんだ?」
「ええと、ナイフを二本。清潔な水筒、あと背負子と縄、あと大きな布があれば助かります」
「ナイフに背負子に縄、厚めの布、あとこれは羊の胃で作った水筒だな。清潔かどうかは自分で確かめな」
 背負子と縄、布は俺の希望に沿うものだった。背負子はあるかどうかわからなかったが、薪の束も売られていたので、そういうものを運ぶのに使うのだろう。
 ナイフは錆びてはいないがかなり使い込まれていたらしく、かなりすり減っている。
 革製の水筒は空のようだが、中の様子は見えない。これが清潔かどうかは店主を信じるか。そういえば、羊の胃の水筒に牛乳を入れたらチーズができたって話を聞いたことがあるけれど、本当だろうか?
 試すつもりはないけれど。
「おいくらですか?」
 俺は代金を払おうと銭袋を持った。
「全部で銀貨一枚でいいぞ」
 そんなものか。と思って代金を支払おうとしたが、
「嘘つけ! 全部で銅貨二十枚くらいだろ!」
「ちっ、銅貨二十枚でいいぞ」
 半値以下じゃないか。
 どうやらかなり割高の金額を請求されていたらしい。最初から値引きありきの価格設定なのだろう。
 チッケのおかげで助かった。
 銅貨二十枚ぴったり払い、商品を受け取った。

 そして、俺たちは町の外に出た。
 町を出るときも順番待ちの列があったのだが、緊急事態ということで、十級個人カードを利用させてもらい、簡単な審査で町を出ることができた。
「よし、じゃあ、チッケはここに座って」
「この背負子、おいらを乗せるために買ったの?」
「そうだよ。おんぶでもよかったけれど、こっちのほうがいざというときに戦いやすいからね」
 もっとグラマーな女性だったらおんぶして背中に胸が――みたいなドキドキもあるけれど、チッケのあるかないかわからないような胸ならなぁ……とか失礼なことは思ってないよ。うん、絶対に思ってない。リディーさんだったら、とか思ってない。
「師匠、どうしたの?」
「ごめん、チッケ」
「え? なんで謝ったの?」
「こっちの話。じゃあ、乗って」
 チッケを背負子に乗せて、布を畳んでかぶせ、その上から荒縄で括る。
 布を間に入れて畳んだのは、縄が食い込まないようにだ。
 緊縛趣味はないから、縄で縛って女の子が痛がるところを見ても嬉しくない。
「じゃあ、行くぞ。一応揺れないようにするつもりだが、舌を噛まないようにな」
 俺は背中に座るチッケに声をかけると、全力より少し控え目の速度で東に向かって走りだした。
 バイク並みの速度で。

「う、うわぁぁぁぁぁぁあっ!」
 
 チッケの声が後ろに流れていく。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 チッケが俺の速度に慣れてきたところで、ラッセルの町より東の大地について質問することにした。
 ラッセルの町というのは、俺たちがいた国――ポラチガル王国の最東端の町であるらしい。そこより東は、魔物が多く生息する大地であるのだが、ポラチガル王国はその東の土地を自分の領土にしたいと思って、何度も騎士団を派遣して魔物を掃討しては、開拓団を送り込んでいるんだそうだ。
 現在、開拓団は七回送り込まれ、三つの開拓村が出来上がっているそうだ。残りの四つはどうなったのか――という質問に、チッケは言葉を濁したので、それ以上は言わなくてもいいと言った。
 俺のミスだ。
 チッケは言っていたじゃないか。
 彼女がかつていた村がグリフォンに滅ぼされたと。
 リディーさんの話を聞いて、チッケがあんな目で俺を見ていたのは、リディーさんに同情したからではなく、どちらかといえば開拓村の人たちと自分の過去を重ね合わせたからだろう。
「オーガに攫われた開拓村の人、絶対に助けないとな」
「うん」

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